240章

クロエはたからかに笑った。


もはや自分をえる存在そんざいなどこの世界にはいない。


それはクロエと同じ力を持ちながらも、すべてにおいてアンを上回うわまわってみせた結果けっかから来る自信じしんあらわれだった。


だが、アンはまだ立ち上がろうと体を動かし始めていた。


「ふん。まだやる気なの?」


クロエはあきれて大きくため息をつくと、立ち上がろうとしていたアンの顔面がんめんり上げた。


アンはかるく蹴りを入れられただけ、まるではずむボールのようにき飛ばされていく。


「あなたがやろうとしていることは、ドブ川を綺麗きれいにしようと必死ひっし掃除そうじすることと同じだわ」


蹴り飛ばされたアンへと近づいて行くクロエ。


たおれたままのアンの体は、すでに能力のうりょく発動はつどうは止まり、右腕みぎうで以外の機械化きかいか――装甲アーマードも消えていた。


「それじゃダメなのよね。やっぱり綺麗にするのなら川の水をすべて変えないといけない。わかるでしょう? だから人類じんるいほろぼさないといけないの」


クロエはある程度ていど近づくと、まるでアンに言い聞かせるように話し始めた。


人類のおろかな歴史れきし――。


いくら科学かがく発展はってんさせようが、それはすべて他人たにんを――


他国たこくを――。


自分の以外の者の足を引っるために使う。


隣人りんじんは自分よりも金をかせいでるとか――。


隣国りんごくはこちらよりも強力きょうりょく兵器へいき開発かいはつさせたとか――。


ただ、ほかの者に文句もんくをつけるため――。


気に食わない主張しゅちょうをする国と戦争せんそうをするため――。


そんなくだらないことのために、この地球ほしきずつけた人類はもう排除はいじょするしかない。


「あなたも見てきたんじゃない? ストリング帝国に住んでいた何も考えずにただ子供を生産せいさんする機械のような住民、バイオナンバー内できた親殺し、ガーベラドームやホイールウェイでの利己的りこてきな人間たちを」


「そうだな……」


アンは倒れたままの状態じょうたいで顔を上げた。


「たしかにクロエ……お前の言うとおりかもしれない……だがッ!!!」


彼女は、ひどれあがった顔をしていたが、それでも強い言葉で返事をする。


「私はそれ以上に他人のためにいのちけていた人たちを知っているぞ!!!」


そして、アンは立ち上がった。


まるで生まれたばかりの小鹿こじかのようなたよりない足取あしどりで、クロエと向かい合う。


もう戦える力がのこっていないのに、まだこころれていないアン。


そんな彼女の姿を見たクロエの顔から笑みが消える。


「そう……なら、あなたもその仲間に入るといいわ」


クロエは両手りょうてを前にかざして、アンへ電撃でんげきはなった。


アンはその身をがされながら絶叫ぜっきょう


クロエはこのまま彼女がちりになるまで、その攻撃こうげきを続ける気だ。


「あぁぁぁッ!!!」


すでに天井てんじょうかべも何も残っていない玉座ぎょくざ


絶叫ぜっきょうだけがひびわたるその場所に――。


アンに腕をかれたグレイがあらわれる。


クロエはその手を止め、彼のほうを見た。


攻撃を止めてまでグレイを見た彼女だったが、さして興味きょうみがないのだろう、すぐにまた電撃を放つ。


グレイは、ゆっくりとクロエとアンがいるところへと歩き出していた。


電撃をびながらもアンは、そんなグレイに気がつく。


「グレイ……たすけて……」


子が親にすくいをもとめるように――。


アンはグレイに向かって、今にも泣き出しそうな声で言った。


クロエはアンの救いを求める声が聞こえていたのだろうが、まったく気にせずに電撃を放ち続けていると――。


当然、彼女の体に何かがさった。


「くッ!? こ、これはッ!?」


クロエはこの感覚かんかくをよく知っていた。


それは、このストリング城のいたるところにある――。


メインコンピューターと自分とをつなぐために配線はいせんだと、彼女は気がつく。


一体何起きたのだと、クロエは自分に繋がった配線を見ようとすると――。


「もう終わらせるよ、ママ……いや、コンピュータークロエ」


そこには、全身から無数むすうの配線が出ているグレイの姿であった。

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