237章

消えていくクリアの姿を見たアンは立ち上がる。


その体には、ふたた機械化きかいかが始まっていた。


機械の部分ぶぶんが彼女の体を徐々じょじょ侵食しんしょくしていく。


いや、マシーナリーウイルスを完全に制御コントロールしているアンにとって、もはやそれは侵食ではなく、装甲アーマードと呼んだほうがいいのかもしれない。


だが、それだけではない。


体の右側からはほのおさかり、左側からは水がき出ている。


さらにアンの周囲しゅういから風がこり、地面じめんはげしくれ始めた。


そして、稲妻いなづまほとばしると、彼女は全身から白いひかりはなっている。


「ありえない!? こんなバカなことがきるはずないわッ!?」


クロエはアンの姿を見て後退あとずさっていた。


そのときの表情ひょうじょうは、彼女がはじめて見せる――恐怖きょうふゆがんだ顔だった。


マナのほのおあやつる力――。


キャスの水をながし出す力――。


シックスの風をこす力――。


クロムの大地をらす力――。


そして、ルーザーの光の波動はどう――。


今のアンは、クロエが使用していたのみんなの力をあやつってみせていた。


そして、目の前でたおれている犬の姿をした2匹の精霊せいれい――。


小雪リトル·スノー小鉄リトル·スティールにそっとれる。


「おねがいだ、リトルたち……。私にクリアの力を……してくれッ!!!」


小雪リトル·スノー小鉄リトル·スティールはアンの呼びかけにおうじ、その犬の姿を白と黒のかたなへと変えていく。


クリア·ベルサウンドだけが受けた精霊の加護かご――。


彼女だけがあつかえるけんへと変身へんしんし、それがアンの両手りょうてへとわたった。


アンがクロエに向かってえる。


大事だいじ……みんなの思いは大事ッ!!!」


そして、2本の刀をかまえて彼女をにらみつけた。


そのアンの力強ちからづよ眼差まなざしをびたクロエは、今になって自分がおびえていることを感じていた。


あせが止まらない。


足がふるえている。


表情ひょうじょうかたくなる。


おまけに頭痛ずつうまで。


クロエは、もう完全にわすれてしまっていた感覚かんかくあじわっていた。


それは強いストレスだ。


「う、うそよ……私が……こんな……こんなことって……」


今までずっと他者たしゃを、その圧倒的あっとうてきな力で恐怖におとしいれてきたクロエ。


だが、それが自分の身にりかかった瞬間しゅんかん――。


彼女は狼狽ろうばいするただの女となっていた。


「これで終わりだッ!! クロエッ!!!」


アンは両手ににぎった小雪リトル·スノー小鉄リトル·スティールをもって、クロエの体を十字じゅうじく。


「ぎゃあぁぁぁッ!!!」


はげしく金切かなきごえをあげたクロエ。


それから、アンは四方しほうへ斬り裂かれた胴体どうたいを、仲間たちの力で完全に消滅しょうめつさせた。


そして、そのクロエがうばったクロム·グラッドスト―ンの顔がちゅうを飛び、半壊はんかいしていた玉座ぎょくざ天井てんじょうへとさった。


「やった……やったよ……みんな……」


アンはその場に両膝りょうひざをついて、そうつぶやいた。


彼女の体はもう限界げんかいが来て、右手以外はすべて生身なまみへともどっていく。


小雪リトル·スノー小鉄リトル·スティールも犬の姿へと戻り、その場にグッタリとたおれた。


アンはそんな2匹を見て微笑ほほえんでいた。


……これですべてが終わった。


世界はすくわれたんだ。


マナ、キャス、シックス、クロム、そしてルーザー……。


クリア、ルドベキア、ロンヘア……みんな……みんなのおかげだよ……。


アンがそう安心していると――。


「ちょっと夢中むちゅうになりぎちゃったみたいね」


クロエの声が聞こえてくる。


アンは体を起こして、あたりを見渡みわたした。


「まあ、私があなたを出しくなんて容易たやすいことなんだけどさ。それはもう、いとも簡単かんたんに、容易よういに、そして軽々かるがるとね」


余裕よゆう自信じしんあふれた声のその先には――。


「たとえ奇跡きせきが起きてもそのチャンスをのがしちゃうなんて、所詮しょせんは人間の女の子よね~」


無数むすう配線はいせんが、その小さな体に突き刺さったローズ·テネシーグレッチ――。


アンのいもうとのロミーが、妖艶ようえんな笑みをかべて立っていた。


「クロエ、お前……ローズの体をッ!?」

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