236章

クロエの体から水晶クリスタルが飛び出すと、アンの頭の中に声が聞こえてきた。


「アン……聞こえる? あたしだよ……」


アンはその声をよく知っていた。


……もしかして、マナなのか?


アンのいに、その声はやさしく笑い返した。


そして、その水晶クリスタルが彼女を配線はいせんからまもるようにほのおはなち、突き刺さろうと迫っていた線を一掃いっそうする。


「バカな!? どうして、どうしてなの!?」


はげしく狼狽うろたえるクロエ。


そして、彼女の体から次々つぎつぎ水晶クリスタルが飛び出していく。


「アン……立つんだ、アン。お前はどんな状況じょうきょうだろうが、自分勝手かってに人をすくってきただろう?」


……キャス……?


「ああ、あのときも……俺がつかまったときもそうだったな」


……シックス……?


「へぇ~そんなことがあったんだ。ボクが炭鉱跡たんこうあとあばれちゃったときと同じだね」


……クロム……?


そして、水晶クリスタルたちが光ると、水と風が配線を切りき、地面からあらわれた土のかべがアンの体をつつむ。


「みんな……生きていたのか……」


アンはその様子ようすを見て、泣きながら笑っていた。


ながれるなみだぬぐうことすらせずに、ただ仲間たちの声に歓喜かんきしてふるえている。


「アン……」


その声と共にアンの体へ波動はどう――うねるオーラのようなものがおおっていく。


……ロンヘア……なのか?


アンをきしめるように包み込むオーラ。


その抱擁ほうようかぎりなくやさしく、そしてあたたかい。


「みんな、君がしてきた記憶ことわすれていないよ」


それから、さらに光のかべが現れ、アンの周囲しゅういをうごめいていた配線をすべて消しった。


「お前のそばにはいつも私たちがいる。さあアン……立ち上がるんだ」


……ルーザー……そうか……みんな、私の近くにいてくれたんだな……。


「そうだよ、アン。ぼくはずっと見てきた……。きみが子供のときから誰かのために戦ってきたのを……ずっと見てたよ」


……ニコ……お前も……。


「本当は戦うことが好きじゃないのに……。それでもずっと……ずっと……。きみのその優しさが今みんなを動かしているんだ」


アンは抱いていたニコを優しくゆかに寝かすと、ゆっくりと立ち上がった。


「チッ!! さっきラスグリーンが何かしたのか!?」


クロエが表情ひょうじょうゆがめてさけぶと、手をかざし、そこにエネルギーをあつめていく。


「だけど、いくら邪魔じゃまをしようと無駄むだよ」


クロエは、巨大なエネルギーのかたまりを手からはなち、アンを守っていた水晶クリスタルたちを破壊はかいした。


そして、第2撃――。


ふたたびエネルギー体を放とうとしていると――。


「おねがい……リトルたち……」


クリアのつぶやきと共に持っていた2本のかたなをアンへと投げた。


その刀は2匹の犬の姿をした精霊せいれい――。


小雪リトル·スノー小鉄リトル·スティールとなって、クロエの放った第2撃からアンのたてとなり、彼女の身を守った。


クロエはまた表情を強張こわばらせたが、すぐに笑みをかべる。


「でも、それじゃもうあなたを守ってくれるおけはいないわね」


そう言うと、クリアに向かって無数ののような光の波動オーラを放った。


満身創痍まんしんそういで目も見えず、リトルたちも手放てばなしたクリアには、その雨のようにそそ攻撃こうげきふせ手段しゅだんはなかった。


けてくれ、クリアッ!!!」


アンのさけびもむなしく、クリアの体はまるでハリネズミのように、体中に光の矢が刺さった状態となった。


そんな無残むざんな姿となったクリアだったが、その顔は満足まんぞくそうに微笑ほほえんでいた。


「クリア……うそだろ……?」


彼女の姿を見てうつむくアン。


そのとき、前にたおれているリトルたちから現れた波動オーラが、彼女のことを包み込んだ。


そして、声が聞こえてくる――。


「アン……」


波動オーラかたちを作り、それはクリアの姿となった。


「……クリア……どうして私なんか助けたッ!?」


アンがたずねるとクリアは上品じょうひんに笑って見せる。


「私はあなたにすくわれたんです……おっとうしない。歯車の街ホイールウェイで人斬りとなっていた私に光をくれたのは……アン……あなたなのですよ」


「クリア……」


「さあ、アン。戦って……そして、いつものようにみんなを――世界を救って……。あなたならできるでしょう?」


クリアの声――。


その言葉が終わると、アンを包んでいた波動オーラ――クリアの姿も消えていった。

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