217章

灰色はいいろ空間くうかんに飲みまれたアンとニコ。


気がつくと大広間おおひろまから移動しており、ストリング城の玉座ぎょくざに立っていた。


一体いったい何がきたんだとあたりを警戒けいかいするアン。


そんな彼女にしがみつきながらニコが恐怖きょうふふるえている。


「やっとしずかに話ができるわね」


つやっぽい声が聞こえる。


声がする方向ほうこう――玉座には、クロエがリラックスした姿勢しせいこしをかけていた。


アンは、震えるニコを手でやさしくさすりながら表情ひょうじょう強張こわばらせた。


話だと?


今さら何を話すと言うのだと、内心ないしんで思っていると――。


「そう思うのは当然よね」


クロエはクスッと笑みをかべた。


アンは思う。


……っく!? P-LINKか。


Personal link(パーソナルリンク)――通称つうしょうP-LINK。


マシーナリ―ウイルスの適合者てきごうしゃ、または合成種キメラ同士なら、たとえはなれていてもたがいの存在を確認かくにんできたり、テレパシーのようなもので会話できたりする力のこと。


さらに覚醒かくせいすれば、たがいの心の中に入ることができるようになる。


P-LINKによってアンの考えていることはクロエに読まれてしまっていた。


アンは恐怖を感じていた。


クロエの力は十分じゅうぶんなほど知っている。


まともにたたかっててる相手ではないことはかりきっている。


だが彼女は、後退あとずさりながらもこしびたピックアップブレードをにぎった。


「そんなものはいらないわ」


クロエがそう言うと、彼女の手からつめびていき、素早すばやくアンのピックアップブレードをうばった。


それから、クロエはブレードを物珍ものめずらしそうにもてあそぶと、ゆびをパッチンとらす。


すると、先ほどアンとニコを飲み込んだ灰色の空間があらわれ、そこからミルキーハットをかぶったロングコート姿の男が出てくる。


その男は、アンもニコもよく知っている人物じんぶつ――。


シープ·グレイだった。


「グレイ……」


つぶやくように彼の名をんだアン。


ニコもグレイ名を呼ぶかのように小さくいている。


「これまでのことを知りたかったら、俺のところへ来てくれ……。奴からはそうつたえるように言われた」


ノピアがグレイにたのまれた伝言でんごん


それはアンにとって、彼が何故自分たちをだましていたのかを教えるという意味だった。


何故おさなかったアンとロミーをすくったのか?


そして、どうして今になって裏切うらぎったのか?


その答えは、彼がコンピュータークロエの作った合成種ごうせいしゅキメラだったからだ。


だが、つかまえたノピアをわざわざ自分のもと寄越よこして、グレイは本当は何をしたいのか?


それが――彼にもう一度会えばわかる。


アンは表情ひょうじょうをキリっとしたものに変えると、グレイのほうへと向かった。


ニコもその後を追いかける。


「私は来たぞ……グレイッ!!!」


叫ぶように言うアンに続いて、ニコも大きく鳴いた。

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