211章

ドレッド·モーリスひきいるストリング軍がクロエと交戦中こうせんちゅう――。


アンとノピア、そしてニコをせたトレモロ·ビグズビーが、ストリング城へと向かっていた。


「あいつらは置いて来てよかったのか?」


ノピアが操縦桿そうじゅうかんにぎりながら、アンへとたずねた。


アンは、航空機オスプレイ内にある座席ざせきから、覇気はきのない声で返事をする。


「ああ、メディスンたちには援軍えんぐんあつめてもらってる。あとから追いついてくれるさ」


アンの言葉を聞いたノピアは、フンッとはならすと、ズレてもいないスカーフの位置を直した。


ノピアには何故アンがメディスンや、ブラッド、エヌエーら反帝国組織バイオ·ナンバーの軍を置いてきたのか、その本当の理由りゆうがわかっていた。


表向おもてむきは、兵の数がりないから各地かくちにいるバイオ·ナンバーの仲間や、和平交渉わへいこうしょうし、協力きょうりょくられたストリング帝国軍を集めてもらうという話だったが――。


正直しょうじきに言ってやればよかったんだ。お前らじゃやくに立たんとな」


ノピアの皮肉交ひにくまじりの言葉に、何も言い返せずにいるアン。


それは、今ノピアが言ったことが事実じじつだったからだ。


メディスンたちとの話では、アンとノピアが斥候せっこうとしてクロエの様子ようすを見るということだったが、2人はそのまま戦いをいどむつもりだった。


そう――。


アンははなからうそをついていたのだ。


メディスンたちの援軍など待つ気はない。


それはもう、これ以上自分が知る人が死んでいくのを見たくないという理由からだった。


「私はダメだな、ニコ……」


ゆたかな白い毛を持つニコの体をきながら、アンがつぶやくように言った。


アンに見つめられたニコは、かなしそうな表情ひょうじょうを向けていた。


「メディスンにブラッド、そしてエヌエーに迷惑めいわくをかけた上に嘘までついて……」


今にも泣きだしそうなアンの声を聞いたニコは、やさしくおだやかな声で鳴いた。


アンはその声を聞くと、ふかく――すがるように抱いていた手の力を強くした。


「今からでもおそくはないぞ。通信つうしんで「弾除たまよけになってくれ」と一報いっぽうを入れればいい」


「……お前という奴は!! どうしてそう人をおこらせるようなことばかり言うんだ!!! 私だって本当はみんなと一緒に――」


アンが座席から立ち上がって怒鳴どなりあげようとした瞬間しゅんかん――。


彼女の頭の中に、無数むすうの声が聞こえて来ていた。


「っく!? な、なんだこの声は!? 苦痛くつうちていて頭がれそうだッ!!!」


アンは頭をかかえ、そのあふれる絶望ぜつぼうの声に身をふるわせていた。


ニコはそんな彼女の体をうようにささえている。


「なんだこの……不愉快ふゆかい感覚かんかくは……?」


ノピアもアンと同じく、無数の声が聞こえていた。


表情をゆがめ、その声に負けじと操縦桿を握る手に力をめる。


マシーナリーウイルスにおかされ、“適合者てきごうしゃ”となった2人には不思議ふしぎな能力が目覚めざめていた。


Personal link(パーソナルリンク)――通称つうしょうP-LINK。


マシーナリ―ウイルスの適合者てきごうしゃ、または合成種キメラ同士なら、たとえはなれていてもたがいの存在を確認かくにんできたり、テレパシーのようなもので会話できたりする力のこと。


さらに覚醒かくせいすれば、たがいの心の中に入ることができるようになる。


「こ、これはまさかクロエ……?」


「ああ、間違まちがいないな。あの女の虐殺ぎゃくさつが始まっている。奴が私たちに聴かせているのは皆殺みなごろしのメロディだ」


適合者であるアンとノピアには、今クロエが感じているものが伝わって来ていた。


声と共に、そのクロエから見える映像えいぞうも2人には見え始めている。


「ノピア、いそいでくれッ!! 早くしないと人がもっと殺されてしまうッ!!!」


アンのさけびを聞いたノピアは、不機嫌ふきげんそうに舌打したうちをすると、トレモロ·ビグズビーの速度そくどを上げた。

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