209章

クロエはモーリスひきいるストリング軍を見ると、そのままそらへと飛び出した。


空にかぶストリング城から落下らっかしていくクロエ。


その体からおだやかに風がこる。


この力はクロエが生み出した意思いしのある合成種キメラの1人ーー。


反帝国組織はんていこくそしきバイオ·ナンバーの兵士であるシックスの力だった。


クロエは、彼以上に風をあつりながら、まるで鳥のように空をう。


地上にいたストリング兵たちが、その姿を確認かくにんしていた。


あれは子供こどもか?


いや、男なのか女なのか?


ストリング兵たちは、空でおどるように飛んでいるクロエの姿に見惚みとれてしまっていた。


クロム·グラッドスト―ンの体をうばったクロエの今の姿は少年だ。


だが、元々中性的ちゅうせいてきなクロムの容姿ようしと、クロエの仕草しぐさ表情ひょうじょうのせいか、まるで無邪気むじゃき天女てんにょのようだった。


「ああ……なんて心地ここちいいの」


クロエは全身から風をはなちながら、ゆったりと下降かこうして行く。


モーリスは、クロエに見惚れている全軍へげきを飛ばした。


その号令ごうれいと共に、航空機オスプレイトレモロ·ビグズビ―と戦闘車両せんとうしゃりょうプレイテック――。


さらに、ストリング帝国の機械兵きかいへいオートマタや、歩兵たちが一斉いっせいに、電磁波放出装置でんじはほうしゅつそうち――インストガンを発射はっしゃした。


ストリング軍の全軍による一斉射撃しゃげき


これには一溜ひとたまりもないだろうと、モーリスが強張こわばった顔のままで笑みをかべていると――。


「ああ……あなたたちの感情かんじょうが伝わってくるわ……。あい……愛なのね」


ほとん原型げんけいとどめていないクロエの姿が、そこにはあった。


だが、全身の肉片にくへんが飛びった状態じょうたいで、彼女は恍惚こうこつ表情ひょうじょうを浮かべている。


その姿を見たストリング兵――。


自我じがのないはずの機械兵オートマタですら、クロエにおそおののいていた。


そのクロエの半壊はんかいした体からブクブクとあわが立ち始めると、き飛んだはずのうでや足――。


さらに、破裂はれつした顔の半分が再生さいせいしていく。


この力は以前に、雪の大陸たいりくにあるガーベラドームで、アンたちが戦った意思を持つ合成種キメラストーンコールドの持っていたものだ。


シックスと同じく、ストーンコールドのかくを喰らったクロエ。


その自己再生速度は、ストーンコールドよりも早い。


「ば、ものめッ!!!」


モーリスがさけぶと、ふたたび全軍へ向けて指示しじを出した。


クロエが再生できなくなるまでち続けろと、通信つうしんを使って伝えたが、突如とつじょとしてストリング軍の立っている大地だいちはげしくれ始める。


地震じしんというにはあまりにもすさまじい振動しんどう


もはや地上にいるストリング兵たちにはねらいをさだめること――いや、立っていることすら困難こんなん状況じょうきょうおちいってしまっていた。


それを見ていたクロエ。


完全再生した自分の体をもてあびながら楽しそうに笑った。


「さあ、今度は私のばんかしら?」

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