200章

上空じょうくうへと落ちていたロミーたちは、ルドベキアとクリアがってきた高速飛行船こうそくひこうせん――ホワイトファルコン号によって回収かいしゅうされていた。


それは、グレイの作り出した灰色はいいろ空間くうかんによって飛ばされたラスグリーンとクリアが、アンたちが脱出だっしゅつする気配けはいを感じ取り、ストリング城からすでに飛び立っていたからできたことだった。


「先生……あなたがどうしてここにいるんですか?」


全長約8.8m、最高時速150km/h、最大定員10名の小型の飛行船のかじを取るラスグリーン。


ロミーは彼にたずねた。


ラスグリーンは、ロミーとクロム、そしてルーがまだガーベラドームがある雪の大陸にいたころに、合成種キメラとの戦い方をおしえたことがあるなかだった。


久しぶり会えたである彼に、ロミーはただ漠然ばくぜんとそう訊いた。


「ある男をってきたんだよ。それよりも君たちをひろえてよかった」


微笑ほほえみを返すラスグリーンに、ロミーはつい顔をそむけてしまう。


せま船内せんないはじには、両膝りょうひざかかえてちぢこまっているアンとそれにうクリアとニコの姿が見える。


そんなアンを見たロミーは、彼女を立たせようと胸倉むなぐらつかんだ。


アンは力なく、ただされるがままだった。


ロミーはそんな彼女に苛立いらだち、思いっきりにらみつける。


「いつまでそうしているつもりだ? 地上にもどって戦闘準備せんとうじゅんびが終わったらもう一度クロエをりに行くぞ」


しずかだが、威圧的いあつてきに言うロミー。


だが、そう言われてもアンは何もこたえない。


ただうつむいたまま、船内のゆかを見ている。


その態度たいどが、さらにロミーのいかりを買った。


悲劇ひげきのヒロインにでもなったつもりか!? あたしはクロムを……それにルーもころされたんだぞッ!!! それを……お前は……自分だけがつらいと思っているか!! ふざけるなッ!!!」


激昂げきこうしたロミーを、クリアとニコがあわてて止め始めた。


クリアはロミーを引きはなし、ニコはアンの体をささえる。


「お前の力がいるんだ……。たのむからしっかりしろよ……」


押さえられたロミーが落ち着くと、小さい声でそうつぶやいた。


クリアはそんな彼女を見ても何も言葉が出ず、ニコはかなしくくことしかできなかった。


それから飛行船内は静寂せいじゃくつつまれ、誰も何も言葉をはっしなかった。


クリアは実際じっさいにクロエと戦ったわけではないが、ここまで憔悴しょうすいしきっているアンを見てむねいためる。


バッカス将軍がひきいるストリング帝国兵と機械兵オートマタ総勢そうぜい1万の軍勢を、たった2人でむかつという絶望的ぜつぼうてき状況じょうきょうでも、けして心がれなかったアンが完全に戦意せんいうしなっている。


大事な仲間を失ったのもあるのだろう、今のアンにクロエと戦えというのはあまりにもむごい、無慈悲むじひなことだ――そうクリアは思っていた。


「とりあえず一度安全なところへりよう。話はそれからだ」


このえ切った空気の中――。


ラスグリーンは普段ふだんとあまり変わらない調子ちょうしで、皆に声をかけた。


アンはそんな態度に何かを思ったのか、ユラユラと彼のほうへ足を進める。


「お前のいもうと……マナも……やられた」


舵をとるラスグリーンの背中せなかへ、彼女はふるえながら言葉を続ける。


「クロエがクロムの体をっ取って……マナの……キャスの……シックスの……力を使った……。みんなみんな奴に飲み込まれてしまった……。そして、ルドも……」


話を続けるアンの姿は、誰が見ても情緒不安定じょうちょふあんていだった。


だがラスグリーンは、丁寧ていねい相槌あいづちを打っては、彼女の話を聞き続けた。


「私は……何も変わってなかった……。あのころと同じでよわいままだ……。私とかかわる人間はみんな死んでいく……。ルーザーにすくってもらったときに……もう二度と泣きごとは言わないと決めたのに……私は本当にダメな奴だ……」


アンは言葉を言いくすと、その場に膝をついて泣き出した。


そんな彼女の背中を、クリアとニコがやさしくさすると、そばにいたロミーもずっとえていたのだろう、アンと同じようになみだを流し始めていた。


船内に彼女たちのすすり泣く声がひびく中、だまってアンの話にうなづいていたラスグリーンが口を開く。


「ダメなのは俺も一緒だね。だけど……それでもさ。ダメダメだけどさ。俺はクロエをたおすことをあきめない」


「ラス……グリーン……」


「君だって本当はそうだろ、アン?」


背を向けていたラスグリーンがり返って言った。


訊ねられたアンは、涙を流しながら黙ったままだった。

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