199章

アンたちのいた地面じめんを引きき、空へと落としたのは、ストリング帝国の将軍ノピア·ラシックだった。


ノピアは手に持ったなマグマのように光るやいば――ピックアップブレードをクロエへと向ける。


「その姿……お前がコンピュータークロエ? たしかローズ·テネシーグレッチにくっついていた鍛冶屋かじやのクロム·グラッドスト―ンのように見えるが……」


ノピアはブレードを向けながら、いた手でズレてもいないスカーフの位置いちなおし始めた。


クロエのそばで、そんなノピアの姿を見たグラビティシャド―。


彼は表情ひょうじょうゆがめると同時どうじ舌打したうちをした。


「どうやらグレイの奴がまたしくじったようだね。本当にめがあまい」


グラビティシャド―は、乗っていた土台どだいからり、その手をノピアへ向けようと動かした。


自身じしんの力――重力じゅうりょくあやつ能力のうりょくで、ノピアの体を地面へ押させつけようと。


だがクロエは、彼に向けて上機嫌じょうきげんに手をった。


それを見たグラビティシャド―は、渋々しぶしぶ上げた手を下ろす。


「この舞台ぶたいであなたが出てくる場面ばめんはないと思うんけど? 今さら何しに来たのかしら?」


「この城はストリング皇帝閣下かっかのものだ。それを返してもらう」


ノピアの返答へんとうを聞いたクロエは、かたらしてクスクスと笑った。


その近くに立っているグラビティシャド―も、彼女につられてか鼻で笑っている。


「フフフ、突然笑ったりしてごめんなさいね。え~と、たしかレコーディー·ストリング……だったかしら? もう知っているかもしれないけど、あの男は作られた人造人間アンドロイド。この荒廃こうはいした世界を変えようと頑張がんばっていたのは、全部そういう風にプログラミングされていたからなのよ。それなのに、城を返せだなんて」


「それがどうした?」


まった動揺どうようを見せないノピアの態度たいどに、あられてから今まで――つねに笑みをかべていたクロエの表情が歪んだ。


不可解ふかかいな顔をした彼女に、ノピアは言葉を続ける。


「皇帝閣下が人造人間アンドロイドだろうとなんだろうと、一体何の問題もんだいがある? たとえそれがお前たちの仕組しくんだことであったとしても、あの方がいなかったらストリング帝国――いや、人類は今でも合成種キメラおびえる生活をしていただろう」


「だからそれは、そういうプログラミングをされたんだってば。もう、私の話を聞いていなかったのかしら?」


「お前こそ、こっちの話を聞いていないのか? “たとえそれがお前たちの仕組しくんだことであったとしても”と言ったはずだが?」


ノピアの言葉に苛立いらだったグラビティシャド―が、彼へ飛び掛かろうとした。


だが、クロエが先ほどと同じように手を振り、それをおさえる。


「なんでよママ? こんな奴さっさと消しちゃえばいいじゃん。こいつもマシーナリーウイルスの適合者てきごうしゃみたいだけどさ。テネシーグレッチ姉妹しまいちがって出来損できそこないだし。ママの新しい体にはなれないよ」


ほほふくらませて言うグラビティシャド―をなだめるように、クロエはおだやかな笑みを向けた。


そんなクロエの顔を見たグラビティシャド―は、またも仕方しかたなしにだまるのであった。


主君しゅくん敵討かたきうち……あなたの言葉をりるなら、さしづめ悲劇役者ひげきやくしゃってところかしら。だけど……」


それから、クロエはノピアをじっと見つめ始める。


ノピアはしびれを切らしたのか、そんな彼女へと斬りかった。


クロエは、手をノピアへ向けると、そこからほのおほとばしり始め、やがてあざやかな無数むすう紅球こうきゅうはなたれた。


だが、ノピアは向かってくる雨のような炎をすべてを切りはらい、すべて相殺そうさつ


そのときの彼は、まるで手が何本にもあるように見える斬撃ざんげきり出した。


「……炎か。マナ·ダルオレンジの力だな」


クロエは、見事みごとにブレードを使ってみせたノピアを見て、身をよじり、恍惚こうこつの表情を浮かべていた。


「……気が変わったわ。ノピア·ラシック。あなた……面白おもしろい」

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