170章

帝国の機械兵オートマタをなぎたおし、ストリング皇帝からのがれようとしたルドベキアたちだったが、あっというに回り込まれ、その道をふさがれてしまった。


邪魔じゃまだ、どけ!! 俺は今てめえなんかとやりあっているひまはねえんだよ!!!」


「もしかして、君らはアン·テネシーグレッチをすくい出そうとしているのかね?」


ストリング皇帝の言葉に、ルドベキアは表情をゆがめた。


そして、にぎっていた斧槍ふそうハルバードをかまえ直し、後ずさりしている。


「いやいや、推量ずいりょうで言ってみるものだな。どうやら図星ずぼしのようだ」


ゆっくりと距離きょりちぢめてくるストリング皇帝。


その手に握られている真っ赤なピックアップブレードが、歩くたび――られるたびに音をらしている。


「では、私は君らを始末しまつしてから、彼女を処分しょぶんしに行くとするか」


ルドベキアは思う。


……これからアンのところへ急がなきゃいけねえのに、こいつは簡単かんたんに行かせてくれそうにねえ。


どうする!?


どうすりゃいい!?


何が起きているかわからねえが、あいつがヤバくなっているのはたしかだ。


俺があいつを……アンを守ってやらねえとッ!


考え込んでいるルドベキアに向かって、ストリング皇帝は一瞬いっしゅん間合まあいをめた。


そのあまりに人間ばなれした速度そくどに、ルドベキアは防御ぼうぎょの反応がおくれてしまう。


「ヤ、ヤベェッ!?」


「まずは1人……」


つぶやきながら2刀ブレードをり落としたストリング皇帝だったが、突然ガキンッと金属音きんぞくおんが鳴りひびいた。


「剣の相手なら私がします」


そこには2本の刀で、ストリング皇帝のブレードを受け止めたクリアがいた。


ブレードを受けた彼女は、そのままストリング皇帝を押し返す。


がらされたストリング皇帝は、少しおどろいているようだった。


「おじょうさん。多少たしょううで自信じしんがあるのかは知らないが、私の剣を受けるつもりかね?」


だが、すぐにいつもの落ち着きを取りもどし、したにクリアに向かって声をかけた。


クリアはそれには答えず、ルドベキアに背を向けながら彼へ話しかける。


「ここは私が引き受けましょう」


「おい、なに言ってんだッ!? 着物の姉ちゃん1人じゃあいつには勝てねえよ!!! ここ協力しねえと!!!」


「ルド……あなた、アンのことが好きなんでしょう?」


「なっ!?」


知り合ったばかりの――。


しかもこんなときに、そんなことを言われるとは思っていなかったルドベキアは、顔を真っ赤にして反論はんろんを始めた。


あんな無愛想むあいそうな女をなんで俺がと――。


可愛かわいらしさの微塵みじんもないあいつのどこを好きになるんだと――。


そもそも俺は女がきらいなんだと――。


あわてて言葉をき出し続けた。


その様子を見て、ルーがからかう様に鳴いていて、それを笑いながらニコが止めている。


クリアはそんな彼に背中を向けたまま、クスッと上品じょうひんに笑う。


「ルド、あなたは目つきが悪し、言葉づかいも悪いし、その威圧的いあつてき態度たいども最低さいていですけど」


「なんか知り合ったばかりなのに、言いたい放題ほうだい言われてんだけど……」


「アンのことを口にするときに、その目がやさしくなりました。それだけで十分わかりますよ」


「うぐぐ……」


クリアにそう言われたルドベキアは、ぐうのも出なかった。


ただ、表情をいつも以上に歪めているだけだ。


「わかった……。ここはまかせるぜ、着物の姉ちゃ……いや、クリア」


ルドベキアは、そう言うとニコとルーをかたかついだ。


それからちょっと遠回りになるが、別の道で大広間へ行くと言うと、そのまま走りっていった。


「絶対に死ぬんじゃねえぞ!!! てめえの思っていることが誤解ごかいだって、全部終わったらたたき込んでやるからな」


振り返らずにそうさけんだルドベキアと共に、担がれているニコとルーもクリアへ向かって大きくいた。


ルドベキアたちを見送ったクリアは、再び2本の刀を構え、背後からおそい掛かって来ていた機械兵オートマタへ斬り捨てる。


茶番ちゃばんは終わったかね?」


ストリングはそう言いながら、ゆっくりとクリアへと近づいていった。


その間にもクリアは、残っていたオートマタを斬り捨てていく。


その様子を見たストリング皇帝は、まゆをピクっと動かした。


あやしく光る刀。


クリアの剣さばきは見事ものだったが、どうもそれ以外の力を感じる。


あやかしたぐいか。これは少々ほねれそうだ」


すべてのオートマタを片付けたクリアは、近づいてきていたストリング皇帝と向き合う。


「私の名はクリア·ベルサウンド……。お初にお目にかかりますが、こちらの諸事情しょじじょうによって、あなたのお相手をさせていただくことになりました。と……いうわけですので、まこともうし訳ありませんが、今ここであなたの首を斬らせていただきます」


そのクリアの声に、彼女に握られている2本の刀――小雪リトル·スノー小鉄リトル·スティール呼応こおうするかのように光をはっした。


「では、まいります!!!」

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