169章

精霊せいれい加護かごを受けた女……もう1人はただの人間の男か……。そして、ストリング皇帝がみずから来たみたいね」


クロエがそう言うと、グレイがグラビティシャド―へ目を向けた。


その視線しせんは、侵入しんにゅうした者を排除はいじょしろという意味だろう。


グラビティシャド―は、それを理解し、うなづくと――。


「シープ·グレイ……私のひつじ……あなたが行きなさい」


そのクロエの言葉に、グレイはおどろいているようだった。


グラビティシャド―も、どうして自分ではないのかと、両眉りょうまゆを下げて首をかしげている。


「精霊きの女と人間の男はともかく、あの皇帝……レコーディー·ストリングにかんしては、あなたが責任せきにんを持つべきよ」


そう言われたグレイは、やれやれと言わんばかりにため息をついて、ゆっくりととびらへと向かう。


「ママ。データの移行いこうは侵入者を排除してからのほうがいい。何があるかわからないからね。俺がもどるまでは始めないでくれ」


背を向けたままのグレイは、そう言ってから大広間を出て行った。


――その頃。


ストリング城内へと入ったルドベキアとクリア、そしてニコとルーは、アンたちのいる大広間を目指めざしていた。


「本当にそこで間違まちがいないんだな?」


「ええ、リトルたちがそう言ってます。そこから何かおぞましい気を感じると」


リトルたち――。


クリアの刀にその身を変えている精霊――。


小雪リトル·スノー小鉄リトル·スティールは、どうやらクロエのいる場所を感じることができるようだ。


ルドベキアたちがストリング城の廊下ろうかを進んでいくと、目の前に特異とくい形状けいじょう鎧甲冑よろいかっちゅうのような姿をしている人の形をしたものが立っていた。


ストリング帝国の機械兵オートマタだ。


ルドベキアたちに気がついた数体のオートマタが、ゆっくりと体の向きを変えてにらんでくる。


そして、一斉いっせいにデジタルな咆哮ほうこうをした。


その機械人形の中から1人――。


マグマのように真っ赤な光を放つピックアップブレードを両手に持った男――レコーディー·ストリングがあらわれた。


「クッソたれだぜ……こんなときにとんでもねえ野郎に会っちまった……」


ひさしぶりだな。ガーベラドームの若き王よ」


したしげに話をかけてくるストリング皇帝。


だが、それとは反対にルドベキアは冷やあせいていた。


クリアは、そんな2人を交互こうごに見ている。


ニコとルーも彼女の真似まねをして、同じように首をキョロキョロさせていた。


「え~と、ルドベキア·ヴェイス。この方はお知り合いですか?」


「ルドいいよ、着物の姉ちゃん。こいつはこの城の王様だよ」


ルドベキアが目に前にいる人物のことをクリアに教えると、彼女は表情を強張こわばらせて、皇帝のほうを見ていた。


そして、何故かニコとルーも同じように彼女の顔真似まねをしている。


「ほう、この方があのストリング皇帝ですか。たしかに貫録かんろくがおありですね。あとルド。私の名はクリア·ベルサウンドです。着物の姉ちゃんではありません。ちゃんと名乗なのったというのに、まだおぼえていないんですか?」


「そんな文句もんくは後にしろよ!!!」


そして、ストリング皇帝は一歩前に出た。


それを見て、ルドベキアは斧槍ふそうハルバードを――。


クリアは2本の刀を――


それぞれかまえた。


「わざわざ紹介ありがとう、ルドベキア·ヴェイス君」


「なんでてめえがここにいんだよ」


「私は自分の住居じゅうきょもどっただけだが? それよりも君のほうこそ、私の城で何をしているのかね?」


ルドベキアは、そのいには答えずにストリング皇帝へと斬りかかった。


だが、数体のオートマタがたてとなり、彼の攻撃がはばまれてしまう。


「答えもせずにいきなり斬りかかってくるとは。相変あいかわらず乱暴者らんぼうものだな、君は。それにしてもだ。どうやらまだわかっていないようだね。君では私には勝てん」


攻撃をし続けるルドベキアにクリアも続き、次々と皇帝の周囲しゅういを守っているオートマタを破壊はかいしていく。


「部下の仇討かたきうちのつもりかね? まったく、それだから君は王のうつわではないと言ったのだ」


「うるせえッ!!! 今はてめえの相手なんかしてる場合じゃねえんだよ!!! 着物の姉ちゃん!! それとニコとルー!! 俺の後に続けッ!!!」


そうさけんだルドベキアは、オートマタをなぎたおしていき、ストリング皇帝の横を通りぎていく。


皇帝は、そんなルドベキアを少し感心した様子で見ていた。


「ふむ、感情に身をまかせていた以前とは、少しはちがうようだな。だが……」


ルドベキアたちは、ストリング皇帝からはなれたはずだったが、一瞬いっしゅんのうちに回りまれてしまった。


そして、真っ赤に光るピックアップブレードを構え直して、ルドベキアへと向き合う。


「このまま行かせるのは面白おもしろくないな」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る