160章

3体の機械兵オートマタがアンに向かって突進とっしんしてきた。


機械の右腕から電撃をはなち、味方みかたたてにしてなおっ込んでくるてきをピックアップブレードでり捨てる。


白い鎧甲冑よろいかっちゅうのような破片はへんが飛んできて、それと共に血のような赤いあぶらが全身にかかった。


「アンッ!!!」


クリアのさけび声が聞こえると、アンの死角しかくからインストガンによる電磁波が飛んできた。


アンはこれをなんとかけたが、咄嗟とっさのことだったので体勢たいせいくずしてしまう。


その見逃みのがさず、ストリング兵たちが再びインストガンをかまえると――。


「リトルたち、お願いッ!!!」


クリアが両手に持ったかたなを振り、斬撃ざんげきを飛ばした。


そのすさまじい斬撃は、インストガンごとストリング兵の顔面を切りく。


それだけでは終わらず、クリアは瞬時しゅんじ移動いどうし、後方こうほうからねらっていた兵たちに抜刀ばっとう


アンも彼女に続き、ブレードの白い光のを突き立てて電撃を放ち、兵たちを跡形あとかたもなく黒焦くろこげした。


次々と遊園地ゆうえんちのアトラクションのようにき出す赤い血――。


その人間の血液けつえきが、電撃によるねつ蒸発じょうはつし、戦場に血煙ちけむりがあがって行く。


「はあ、はあ。クリア、もう半分はれたんじゃないか?」


もうわけないですが、かぞえるのはあまり得意とくいではありません。ですが、見た感じではまだまだのように見えますね」


アンもクリアもかた呼吸こきゅうをしはじめている。


2人がいくら強いといっても、もうそろそろ体力の限界げんかいが近づいていた。


それでも機械兵オートマタもストリング兵も、深呼吸しんこきゅうをする時間さえもくれずに、おそい掛かって来る。


アンは、次に向かって来る軍勢に向かって機械の腕をかざしたが――。


「っく!? 電撃が出ない!?」


体力もそうだが、精神せいしん疲労ひろうもすでに限界にきていたため、機械の右腕からはビリビリと小さな音をらす電気が出ているだけだった。


だが、それでも彼女――アンの心はれない。


「電撃が出せなくったって、あきらめてたまるかッ!!!」


アンはこの戦場に死にに来たのではない。


仲間を守るため、犠牲ぎせいになりに来たのではない。


もう自分のことを軽くはあつかわない。


この場をクリアとくぐり抜け、また仲間たちと笑い合うために戦いに来たのだ。


だが――。


その折れない心に体はついていかなかった。


アンもクリアも防戦一方ぼうせんいっぽう――。


押し寄せてくる機械兵オートマタの攻撃と、飛んでくるインストガンの電磁波をなんとか受けることしかできなくなっていた。


「ダメです……もう限界……」


「しっかりしろクリア!! 私の仲間にお前を会わせたいんだ!!! こんなところで死ぬなんてゆるさないぞ!!!」


「……まったく、自分勝手じかんかってな人ですね。では、期待きたいこたえられるように今できることをしましょう」


クリアは、最悪さいあく状況じょうきょうにもかかわらず、つい笑ってしまっていた。


それは、2人とも今にも殺されそうなときでも、アンの変わらない声が聞こえていたからだった。


「聞けッ!!! 帝国の機械兵オートマタも兵士たちも!!!」


アンは残った力を振りしぼり、周囲しゅういの敵を電撃で後退こうたいさせた。


その威力いりょくはとても弱いものだったが、目の前にいた敵を退しりぞけさせるには十分だった。


「お前たちは何故戦うんだ!? 反帝国組織バイオ·ナンバーだって、帝国のやり方が問題でできた組織だぞ!!!」


アンの叫ぶような声に、その場にいたすべての者の動きが止まっていた。


彼女の言葉に全員が耳をかたむけている。


「これ以上戦って何の意味がある!? 戦争なんてせずに別の解決かいけつの方法があるはずだろう!!! 世界はいまだに合成種キメラあふれている。なのに、どうして人間同士で殺し合うんだよ!!!」


アンの言葉に、明らかに戦意喪失せんいそうしつしている者も見えた。


機械人形になってしまったオートマタでさえ、何体かはその場で両膝りょうひざをついてしまっている。


アンの思いが、戦場での怒号どごうだまらせたのだ。


だが、その沈黙ちんもくやぶられる。


「いよいよ勝てないとさとって命乞いのちごいとは。無様ぶざまだぞ、アン·テネシーグレッチ」


バッカスは高笑いをしながら、大声を出し続ける。


「帝国の兵たちよ!! 敵は完全に戦意を失くしたようだ!!! 今こそが勝機しょうき。一気にカタをつけてやれ!!!」


その激励げきれいによって、機械兵オートマタとストリング兵たちは再びアンとクリアへと向かって行く。


クリアは思う。


……どうしたら……どうしたらいいの……?


何か……何か打つ手は……!!!


そうだわ……ひとつだけ……まだ残っていた方法がある!!!


クリアは表情をキリっとさせ、前へと出る。


「リトルたち……これが最後のお願いです……」


「何をする気だ、クリア!?」


「私にできることをするだけですよ、アン」


ニッコリと微笑み返すクリア。


アンには彼女のやろうとしていることが理解できた。


言葉にせずとも、クリアの固い意志がアンの脳内に流れ込んでくる。


「ダメだ、クリア!!! 私の話を聞いてなかったのか!? 仲間に会わせたいんだよッ!!!」


クリアは何も答えず、ただ両手に持った刀に神経しんけいを集中させた。


そして、彼女の顔が次第しだいに生気をうしなっていく。


代わりに刀のほうは、凄まじい覇気をまといだしていた。


クリアは、自分の命を刀に吸わせているのだ。


「では……参ります!!!」


クリアが大軍に飛び込もうとした瞬間しゅんかん――。


「君のそういうところは好きだよ、クリア」


強烈な気を纏った2本の刀が、突然現れた人物の手によってつかまれた。


「あ、あなたは……」


刀から気が抜けていき、クリアの顔に生気が戻っていく。


そんな彼女の目の前には、前髪の長い老人――ルーザーが両手で2本の刀をにぎっていた。


その手からは、当然ダラダラと血が流れ始めている。


「だが、こまるところでもあるな」


ルーザーの姿を見たアンとクリアは、驚きは隠せずにいた。


そして、次第に笑みを浮かべ、なみだを流して始めてしまっていた。

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