155章

荒れてた大地の向こう側からおそってくる無数の人影ひとかげ


前衛ぜんえいにはストリング帝国の主力である機械兵オートマタ


その後ろからはアンと同じ深い青色の軍服を着たストリング兵が、帝国の標準装備ひょうじゅんそうびである電磁波放出装置――インストガンをかまえていた。


デジタルなさけび声をあげながら飛びかかってくる無数の機械兵オートマタに向かって、アンは機械の右腕をかざした。


バチバチとほとばし稲妻いなづま――。


すさまじい電撃がはなたれ、数体の機械兵オートマタ一掃いっそうする。


それでも一切ひるむことなく、次々に襲いかかってくる機械兵オートマタに、さらにストリング兵の援護射撃えんごしゃげき――インストガンによる電磁波がアンに襲いかかってくる。


左手に持ったピックアップブレードで、目の前にいる機械兵オートマタの首をはね飛ばし、放たれた電磁波を機械の右腕ではじき飛ばす。


これだけの数が相手でも、アンのほうが明らかに押していた。


すさまじいな、あの小娘……。同じマシーナリーウイルスの感染者かんせんしゃでもこうもちがうものか」


その戦いを遠くから見ている者たちがいた。


バッカスの部下であるカジノ·ピフォンとイグニ·ヘフナーだ。


彼らは、反帝国組織バイオナンバ―との戦闘に勝利後――バッカスの軍隊と合流ごうりゅうした部隊の指揮しきをしていた部隊長である。


「それが“適合者てきごうしゃ”というヤツなんだろ? まったく、ノピア将軍から始まって、キャス将軍、ローズ将軍と、若いやつらには何かしらみょうな力がありやがる」


「おいおい、リンベース近衛このえ兵長はまともな人間だぞ」


「あの娘も普通じゃねえよ。俺たちや機械とはちがって自分の意見ってのがある。ストリング帝国じゃ、それだけで特別スペシャルだ」


「まあ、俺たちはもうロートルってことだな。この戦争が終わったら、もう帝国に居場所もなくなる」


カジノがため息をついて言うと、イグニはそれに同意しながら、さらに悲観的ひかんてきなことを言った。


彼ら2人は、アンの部隊の隊長だったモズ·ボートライトの同期であり、ただの一兵卒いちへいそつ時代からの戦友でもあった。


彼らもアンの部隊と同じように、マシーナリーウイルスを感染させられたが、2人にはウイルスによる機械化はこらず、現在も部隊長として、帝国のために戦っていた。


それは、それ以外の生き方を知らないということでもあった。


彼らがそれまで共に戦ってきた部下たち――そのすべてが機械兵オートマタにされてしまったというのに、2人は今でも帝国の兵士だ。


感情がないわけではない。


当然、彼らは悲しみにちひしがれた。


しかし、合理的に考えると、帝国で戦う以外の選択肢せんたくしなどないという結論けつろんにしかたっせなかったのだ。


彼らは、バッカスから待機たいきするように言われていた。


機械兵オートマタや帝国兵の物量ぶつりょうで押す戦いによって、アンが疲労ひろうするのを待っているのだ。


それは、バッカスからの歴戦の兵士でもある2人への信頼のあかしでもあった。


「なあ、イグニ。さすがにあれでもキツくなってきたか?」


「だな、いくらなんでも休みなしで戦い続けるのは無理だ」


たった1人で戦い続けるアンにも、疲労の色が見え始めていた。


激しく息切れをし、着ている軍服もボロボロで、手や足、そして顔からは血を流している。


「そろそろ準備しておくか」


「ああ、死んじまったモズには悪いが、これが俺たちの仕事だ」


カジノがイグニにそう言うと、2人はピックアップブレードとインストガンを手に持った。

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