148章

頭をつかまれた衝撃しょうげきが消えたと思うと、目の前にはストリング帝国の街並みが見えた。


いたるところにはたかかげられ、花火も上がっている。


それは、帝国の建国記念日をいわう祭りの風景ふうけいだった。


街の中で、人型の道化師ピエロのような機械人形がおどけて、道行く人たちを笑わせている。


他にもバイオリンやギターなどの弦楽器、ドラムセットを叩く機械人形たちが、明るい旋律せんりつとリズムを聴かせていた。


その中に、はなやかな刺繍ししゅうの入った、ピンクと白でいどろられた可愛らしいワンピース姿のアンがいた。


彼女が笑顔で歩いているのが見える。


アンの隣には、色素のうすい長い髪をした少年――ロンヘア。


ルーザーは彼を見て、まるでミルクから生まれたような、真っ白な肌をしていると思った。


微笑ほほえみ合い、楽しそうにしているアンとロンヘア。


だが、次の瞬間――。


ロンヘアの体が破裂はれつして吹き飛んでしまった。


その爆発ばくはつに目を閉じたルーザーが、次に目を開けると、そこには深い青色の軍服を着た男女が和気あいあいとしている様子が見え始めた。


短髪で切れ長の目の男――リード·スミス。


大きな瞳に小柄で細身の体型をし、前髪を切りそろえたロングヘアの女性――ストラ·フェンダー。


金色の短い髪形をした豪快ごうかいに笑う男――レス·ギブソン。


背が低く、城壁じょうへきを思わせるガッチリした体格の男――モズ·ボートライト。


全員、元アンがいたストリング帝国の部隊の仲間だった。


アンは無愛想むあいそながらも、その中にけ込んでいて、ときおり笑みを見せている。


楽しそうに談笑だんしょうしていた5人が、突然――。


アン以外の仲間たちが機械化し、たがいに殺し合いを始め出した。


やめてくれと悲痛ひつうな叫びを続けるアンだったが、最後に生き残った機械化した仲間――機械兵オートマタが彼女の前に立ち、自らの頭をその機械の腕で突き刺した。


ひざまずいて泣き叫ぶアンの姿を見ていたルーザーは、何もできずにただそれを見ていると――。


「うん!? な、なんだこれはッ!?」


自分の体が徐々じょじょに機械化していることに気がついた。


今、目の前で見たアンの仲間たちと同じように、ルーザーの体も白い鎧甲冑よろいかっちゅうのような姿へと変わっていく。


あわてていたルーザーが、次にアンのほうを見てみると――。


そこは、荒廃こうはいした大地が続く、外の世界だった。


そして、どこからか来たのか、少女を連れた男性が必死に走っていた。


「あれは……さっきいたアンだな!?」


ルーザーはその少女がアンだと気がついたが、次第に機械化していく体を、思うように動かせないでいる。


その後ろには、手足が異常いじょうに大きかったり、長かったする生き物――合成種キメラが2人を追いかけていた。


そのうちに、幼いアンはすなに足を取られてつまづいてしまう。


追いつかれた瞬間、合成種キメラおののように膨張ぼうちょうした腕を振り下ろした。


だが、アンの父親が彼女をかばい、彼の首がね飛ばされてしまう。


そこから幼い姿をしたアンは、ただ立ち尽くしていた。


そして、突然彼女の目の前にいた合成種キメラの頭がはじけ飛ぶ。


「必ずこうなると思っていたよ」


ルーザーの耳に、どこかで聞いたことのある声が入ってきた。


少し間のけた男性の声――。


ルーザーは、その声を聞いた後と、急に頭の中で電流が走ったかのような感覚におそわれる。


「っく!? こ、これは一体ッ!?」


強烈きょうれつ不快感ふかいかんと、さらに機械化するのを感じながら、彼はその声のするほうを振り返った。


「そうか……すべて思い出したぞ……あそこにいたシープだな……」


そこにいたのはアンのそだての親――シープ·グレイが笑みを浮かべて立っていた。

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