146章

キャスは、レイピアを地面にき立ててつえの代わりにしていた。


アンのはなつ電撃をびてしまい、立っているのもやっとの状態じょうたいまで追いつめられていたからだ。


そんな満身創痍まんしんそういの彼女のそばに、シックスの巨体とクロムの小さな体が飛ばされてくる。


それは、体を回転させたアンの突進とっしんを受けて、はじき飛ばされてしまったからだった。


2人ともなんとか立ち上がるが、その表情の動きは重い。


何故ならば、4人がかりで飛びかっても、アンを止めるどころか逆に押されてしまっていたからだ。


「オラッ!! 来いよ、無愛想女むあいそおんなッ!!!」


その中で、ルドベキアだけがひるまずにアンと向かい合っていた。


キャスとシックスはそんな彼を見て、自分をふるい立たせようとしていると――。


3人の視界しかいが一瞬にして真紅しんくまった。


それは、まるで生き物のように躍動やくどうする火の壁。


命の息吹いぶきを感じさせるあざやかな赤だった。


広がった紅炎こうえんおさまっていくと、目の前にはほのおまとったマナの姿が見える。


「あたしもやるよ!! アンのことをきずつけるのはヤダけど……アンが元に戻らないのはもっとヤダッ!!!」


マナはそうさけぶと、纏った炎をアンへ向かって放っていく。


体からあふれる炎のはしら直撃ちょくげきさせる。


そんなマナの姿を見たキャスは笑みをかべていた。


そして、レイピアをさやへとおさめ、一歩前へとみ出すとその手をアンへ向けてかざした。


「そういえば覚えているか、シックス。以前、共に機械化したノピア将軍の動きを止めたときのことを」


そう言ったキャスの体から、水流すいりゅうの音が聞こえ始め、その身をき通った水がつつんでいく。


全身に纏った透き通った水が、太陽の光を浴びて青みをびる。


その姿は大昔の物語に出てくる四大精霊しだいせいれいのうち、水をつかさど精霊エレメンタル――ウンディーネを彷彿ほうふうとさせた。


「ああ、当然覚えている」


キャスと同じように笑みを浮かべたシックス。


返事した彼の体から風が巻き起こり、それがかまえたこぶしへと集まっていった。


そして、キャスとシックスは、ほぼ同時にめていたものを放った。


津波つなみ竜巻たつまきがアンをおそい、その衝撃しょうげきで全身をおおっている黒い鎧甲冑よろいかっちゅうが割れ始める。


さすがに暴走ぼうそうしたアンもこれで終わりかと思ったが――。


彼女は、3人の攻撃をえながら、さらに電撃を放出ほうしゅつし始めた。


それを浴びてしまったルドベキアが、クロムの傍まで吹き飛ばされてくる。


「ルドッ!? 大丈夫!?」


ルドベキアの状態はひどかった。


先ほどのリンベースほどではなかったが、彼の全身が火傷やけどによって赤くただれていた。


だが、ルドベキアは立ち上がる。


彼の愛用の武器――。


古くはヨーロッパで生まれた斧槍ふそう――ハルバードと呼ばれる長柄ながえで体を支えて、再び前に出ようとしていた。


クロムはそんな彼を見ると、他の3人――マナ、キャス、シックスの姿を見た。


「み、みんな……うぅ……」


クロムは急に涙が止まらなくなった。


すでにボロボロになっているというのに、まだあきらめていない4人の姿を見て。


「オオオアァァ!!!」


アンが突然えたかと思ったら、受けていた炎、津波、竜巻を弾き返そうとし始めている。


マナ、キャス、シックス3人の顔がゆがむ。


これ以上は無理だと、その表情がかたっていた。


だが、そのとき――。


アンの足元――様々な衝撃しょうげきでひび割れていた大地が、突然彼女の体に纏わりついた。


それはまるで鋼鉄こうてつできたくさりごとく、3人の攻撃をはじき返そうとしていたアンの動きをふうじている。


「ボクだって……アンを助けるんだッ!!! プラムと約束したんだ!!! 女の子を守るのがクロムボクなんだってッ!!!」


クロムが、大地に両手をつけてはげしくさけんでいる。


その咆哮は、古い神話に出てくる巨人一族の神々――ティ―ターンのように大地をらしていた。


炎、水、風、土がアンの体を押さえつけ始める。


「今だ!! 行くぞ、じいさん!!!」


「今が好機こうきだな。これを逃せば後はない!!!」


ルドベキアがルーザーのたてになって前へと進んでいく。


マナ、キャス、シックス、クロム4人の力で押さえつけられるアン。


彼女は死ぬ物狂いで抵抗ていこうし始めていた。


苦しそうに暴れるアンは、ルーザーに向かって電撃を放った。


だが、それをルドベキアが自ら飛び込んで受ける。


「ルドベキア!?」


「いいから……さっさとこいつの目を覚まさせてやれ……」


ルドベキアは、そう言うとその場に倒れてしまった。


ルーザーは横になった彼を見て思う。


……ルドベキアは、特別な力もないのに皆を奮い立たせた。


いや、それこそが彼の特別な力か。


「……そして、やれやれ。やっとここまで来れたな。……誰1人欠けても成しなかったことだ」


マナ、キャス、シックス、クロム、そしてルドベキア――。


全員の協力によって、ルーザーはようやくアンの体にれることができた。

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