121章

ミルキーハットを被った男が白銀の大地――半壊はんかいしたガーベラドーム付近に立っていた。


足元には半人半獣の合成種キメラだったもの――。


かつてストーンコールドを名乗っていた怪物――その頭部がズタズタに切り裂かれた状態で転がっている。


「俺がわかるかい? ストーンコールド……」


男は雪にまりかけている頭部を掘り起こして、それに触れてつぶやいた。


その顔は、まるで離れて暮らしていた家族と会えたような、そんな表情をしている。


男は触れた手をズタズタになった頭部の中へと突っ込む。


すっかり血がかわいている頭の中を、かばんの奥に入っているものを探すようにモゾモゾと動かす。


そして、何かを掴んだその手は引き上げられた。


彼の手には、小さな水晶クリスタル欠片かけらが――。


それはあざやかにきらめく生命のような、そんなかがやきをはなっていた。


男は羽織はおっているロングコートから、もう1つ――寸分違すんぷんたがわない小さな水晶クリスタル欠片かけらを出した。


彼はその二つをいとおしそうに見つめている。


「フルムーン、ストーンコールド……もうすぐ会えるよ……」


男の名のはシープ·グレイ。


彼はアンをストリング帝国へと送った後――。


誰にも何も伝えずに独りで、この雪の大陸へとやって来ていた。


「そして、もうすぐ始まる……いや、終わるのか……」


そう小声で言ったグレイは、見つめていた小さな水晶クリスタル欠片かけらをロングコートのポケットにしまうと、かつてストーンコールドの頭部だったものをそっと地面に置いて、その場を後にする。


つけられていく1人分の足跡が、ここへ彼しか来ていないことを思わせた。


ゆるやかに振っていた雪が――風が急に勢いを増し始める。


まるでこの地に来た者を追い返すように、次第に強くなっていく。


豪雪ごうせつ――冷たい吹雪ふぶきがグレイへと降り注ぐが、彼はとても晴れやかな顔をしていた。


それは、親しき者を待っているかのような――あるいは何かを期待しているようなものだった。


「アンは彼と会えたかな……」


ミルキーハットを深くかぶり直すと、グレイは独り言をつぶやいた。


……出会いが。


そう……出会いがすべてを変えてくれる。


そして、グレイは内心でそう言葉を続けながら、白銀の大地をみしめていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る