22章

アンたちが出発する朝に――。


子供たちは、泣きながらも2人を見送った。


「必ず帰って来てね、約束だよ」


「マナ姉ちゃん! 絶対に連れて帰って来いよ!!」


「また会えるもん……あたしたち……待ってるよ」


弱々しくつぶやく少女、叫ぶように大声を出す少年。


マナは目頭が熱くなるのをこらえて、最後まで笑顔で手を振った。


うつむくマナの背中に手をやり、必ず戻ろうと声をかけるアン。


マナは、その言葉に黙ってうなづいた。


朝日がさす森の中を、3人は進んでいた。


途中、しげみから数体キメラが現れたが、シックスの風をあやつる体術や、マナの炎で撃退げきたいした。


アンは、自分の機械化した右腕を使うことはなかった。


それはマナに注意されたからだった。


アン自身は気がついていなかったが、ひじまでだった機械の部分が、今では肩口まできている。


アンは森の中を歩きながら考えていた。


……マシーナリー・ウィルスは、感情の高ぶりに反応するとノピアが言っていた。


特に痛みや憎しみなどがスイッチになると……。


マシーナリー・ウイルスとは――


ストリング帝国の科学者たちが開発した、人体を侵食する細菌。


このウイルスは、体内で一定の濃度まで上がると成長し、宿主しゅくしゅの身体を機械化する。


機械化したものは、人体を超えた力と速度で動けるようになるが、宿主は自我を失い、ストリング帝国の完全なる機械人形へと変わってしまう。


アンは、体内にまだウイルスがあることを思うと、気が狂いそうだった。


……大事な仲間は機械化して死んだ。


アンは、悲痛な面持おももちで、自分の機械の右腕を掴んだ。


……私も機械になるのか?


もし機械になってしまったら、マナやシックスを殺そうとするのか?


いやだ!


そんなのはごめんだ!!


だが、いつ自分が機械化してしまうかわからない――。


そんなことを考えていたせいか、アンは着ているパーカーのフードを深く被って、顔を見えないようにした。


そんなアンの傍で、ニコが心配そうにあとをついていく。


シックスがふと木々の間から空を見上げると、黒い雲が青色を埋め尽くしていく。


「雨が来るな」


シックスは、背負っていたリュックサックから雨よけの外套がいとうを出した。


そして、アンとマナに渡す。


2人とも明らかにサイズは合っていなかったが、マナは余った袖をブンブン振って、「これ、かわいいッ!」と嬉しそうにはしゃぐ。


しばらく歩くと雨はが止み、3人が着ていた外套を脱いでいると、近くの葉っぱにカタツムリがいるのを発見する。


マナが、それを見て言う。


「わぁ~これがエスカルゴかぁ。美味しそう!」


アンは、そんなマナを見てから、視線しせんをカタツムリを向けて、ゲェ~とつぶやいた。


それから3人が森を抜けると、目の前には砂にまみれた街並みが見える。


くずれた建物や、ボロボロの標識、半壊はんかいしている道路――。


シックスは、ここまで来ればもう少しだと言った。


だがアンは、もう少しだというのにこの街に人の気配がまったくないせいか、目的地に近づいているとは思えないでいた。


半壊した道路の上を歩いて行くアンたち。


途中でひび割れた道路の間から、サソリが何匹も飛び出してきた。


それに驚いたアンは、うわッと後ろに下がってしまう。


その顔は、薄気味悪そうにしていた。


だが、マナは反対に目を輝かせて言う。


「おぉ~ロブスターだねッ!! でてもしても焼いても美味しそう!!!」


口から少しだけよだれを垂らすマナ。


今にもサソリに向かって、飛び出していきそうだ。


「お前にとって、この世の生き物はすべて食べ物か」


そんなマナを見たアンが、無愛想に呟いた。


それから、荒廃こうはいした街をしばらく歩いていると、突然シックスが風を起こして、もの凄いスピードで飛び出していった。


「お、おい!? どうしたシックス!?」


「えぇ~!? こんなとこで置いて行かないでよ~!!」


何が起きたんだと慌てるアンとマナ。


大きく声をかけたが、シックスは一人で前へと行ってしまった。


アンたちは急いで追いかけ、ようやく追いつくと――。


そこには、大勢の武装ぶそうした男たちが倒れていた。

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