7章

ストリング兵の部隊がすべてがまると、指揮官であるノピア・ラシック将軍の乗る戦闘車両――プレイテックが前に出る。


ノピアがプレイテックから降り、総勢50人いるストリング兵へ話を始めた。


目の前にある一際ひときわ巨大な建物――いやすでに廃墟になっているが、ノピアの話によると以前には、軍隊の本部基地だったと思われるものらしい。


この廃墟には、軍の長官執務室しつむしつなどがあることが、消息の途絶とだええた部隊から連絡があったことを話している。


建物内の作りは、地上8階、地下4階。


ストリング帝国には、これほどの高さがある建造物は城壁くらいしかなかった。


アンたちは理解していたが、この廃墟に通信デバイスがあるようだ。


ノピアは話が終わると、首に巻いている黒いスカーフを直し、指示を出し始める。


各部隊5人編成で、最初に突入した部隊から10分後に次の部隊が入っていくという作戦だ。


ストリング兵の数は50人――だから10回に分けて中へ入るというものだった。


「何か質問のある者はいるか?」


ノピアが、各部隊の隊長クラスの人間の顔を見回して言った。


アンたちの部隊の隊長であるモズが、姿勢正しく、空へ向かってまっすぐと手をあげた。


ノピアが言う。


「モズ・ボートライト隊長、何が訊きたい」


「はい、もし建物内に反帝国組織がいた場合はどう対処いたしましょう」


ノピアは、各部隊長の采配さいはいに任せるとだけ言うと、それ以上、手をげる者はいなかった。


それから突入が開始された。


まず第一陣が入り、10分後に次の部隊――。


他の部隊に比べて軍歴が低いアンたちの部隊は、最後の突入となる。


「10分経過。行くぞ」


モズがアンたちに声をかけ、建物内へ入っていく頃には、もう陽がしずみかけていた。


インストガンを構え、静かに進む。


中は瓦礫がれき倒壊とうかいした壁や扉に、割れた窓などが確認できたが、思っていたよりも原型が残っていた。


「全員周囲の警戒をおこたるな。反帝国組織だけでなく、もしかしたらキメラもいるかもしれん」


モズがそう言った瞬間――。


突然、轟音ごうおんが鳴り響いた。


おそらく建物の奥で、他の部隊がインストガンを撃ったと思われる。


その音を聞いて、アン、リード、ストラ、レス――4人の表情が引きまった。


まだ16歳の子供兵ではあるが、すでに3年は戦場に出てるだけあって、切り替えが早い。


モズが言う。


「全員、いつも言っているが絶対に命を粗末そまつに扱うなよ。特にアン、お前は一人で突っ込んでいく常習犯だ。必ずペアで行動しろ」


モズの言葉に、アンは眉間みけんしわを寄せてうなる。


そんなアンを見て、他の3人が笑っていた。


「それとな……」


モズが言葉を続ける。


「ストラ、レス。お前たちは結婚式をひかえているんだ。無茶はするなよ」


そう言われたストラ、レスは笑顔でうなづいた。


「モズ隊長の……」


アンがボソボソと言い始めた。


「モズさんの命も大事……。みんなもそう思っている」


その言葉に全員が続く。


「そうですよ。モズ隊長にも式に出ていただいて、私の手を引いてもらわないと」


――ストラ。


「俺たちの晴れ舞台なんです。絶対にモズ隊長にも見てもらいたい」


――レス。


「親が子供の結婚式に出ないなんておかしいでしょ? それにストラとレスだけじゃなく、近いうちにやる俺とアンの式にも出てもらうまでは死なないでくださいよ」


――リード。


3人がモズを見つめて言った。


「絶対にやらない」


アンが間髪入れずに言い切ると、リードがショックのあまり頭を抱えてうめいている。


モズは、4人の言葉を聞いて、この部隊の隊長になれてよかったと思うと目頭めがしらが熱くなった。


「あっ、隊長。泣いているんですか?」


ストラがからかう様に言うと、モズは前を向いて顔を見せないようにした。


「全員、いつものように生きて帰るぞ」


「了解!」


モズの声に、アンたち4人は嬉しそうに返した。

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