23話 ただの
「そうだ、ポリさん。あの二人、結局どうするか決めましたか?」
二人、とは襲撃者の少年二人のことである。
彼等をどうするか、ナビ子から三つの選択肢が提示されていた。一つ目に解放。二つ目に殺害。三つ目に、村の住民とすることだ。
一つ目の選択肢は論外、というのが俺と村人の意見だ。かと言って勧誘派が少ないことは確かで、世論は圧倒的に「殺害」に偏りつつある。
その中で俺は酷く揺れていた。
「正直、決まってないんです。村人のことを考えると、迎え入れない方がいいと思うんですが……でも、どうしても、ナビ子の言葉が引っ掛かるんです」
「ナビ子ちゃんの?」
「はい。プレイヤーが村人を悪人に変えるって。友好的なその人を、悪意の塊にするって。……それを聞いたら俺、どうしてもあの二人を裁けなくて。だって、俺達と同じプレイヤーが、あの二人に初心者狩りをやらせたんですよ。本当はそんなこと、したくなかったかもしれないのに」
だが、だからと言って安易に受け入れる訳にもいかないのである。
あの二人は襲撃者だ。根本がどうであれ、その事実は変わらない。それが住民とどのような軋轢を生むのか、未知数ゆえに恐ろしかった。
するとマルケンは長く息を吐き出し、夜空を見上げた。口にこそ出さないものの、その横顔には呆れすら読み取れた。
「マルケンさんはありませんでしたか? そういうこと」
「襲撃?」
「捕虜を仲間にしたこと、とか」
「ありますよ」
さらりと彼は言ってみせる。俺は思わず目を丸めた。
「あるんですか!?」
「ええ。先に派遣したアマンダとかシリル――そこのガイナ立ちしてる奴とか。戦闘部隊に属している奴は大体そうですよ」
俺はさらに目を回しそうだった。
アマンダとシリル、その二名は、被襲撃時の俺達を助けてくれた人物だ。同時に片方は、捕虜の勧誘を否定していた人物でもある。
「襲撃して来るくらいですからね、戦闘の心得がある奴が多いんですよ。それを戦闘部隊に回すと、なかなか効率的でしてね」
一から育成するよりは、確かに手間が省けるであろう。頷ける話ではあった。
「怖くないんですか?」
「んー、別に。気にした事なかったな。連中は基本的に、所属する村とプレイヤーに忠実でいてくれるから。そういうシステムだし、気にする必要はないと思います」
そういうシステムなら、と納得しかけたところで、俺は手元に視線を落とす。
俺は食事が出来ない、そういうシステムだから――そう言われたことを思い出したのだ。しかしそれは、マルケン巡査部長手製のホットミルクと情報によって否定された。
現状では、絶対的存在である筈の「システム」すら、その地位を揺るがしつつある。そのような中でシステムを信じるなど、少々腰が引けた。
「心配でしたら、一度お試し期間を設けてみるのはいかがでしょう」
その提案は無情と言えば無情で、妙案と言えば妙案だった。
襲撃者の少年二人を、入植者として迎え入れる。ただし一時的に。その期間中に問題を起こしたら、そこで付き合いを終える――マルケン巡査部長が提案したのは、そういうことである。
「ナビ子さんの傷は縫合が必要みたいでですね、後日、その抜糸の為に、もう一度この村を訪ねる予定なんです。大体十日後になるのかな。日にちが近くなったら、また連絡しますが……どうですかね。その間預かって、それで決めるのは」
「出来るんですか、そんなこと」
「ええ」
彼は人の好い笑みと共に力強く頷く。経験済みだ、そう言わんばかりに。
「ポリさんは村長ですから。村人の処遇はポリさん次第でどうにでもなりますよ」
平然と言い放たれる言葉に、俺の背は粟立つ。言い様のない不安が、俺の胸に津波のように押し寄せた。
「なんか、怖いですね」
村長の言葉一つで村人の運命は決まる。悪意に変えることもあれば、路頭へ放ること出来る。
まるで暴君だ。ゲームと言い切るにはあまりにも残酷で、あまりにもリアルだ。
マルケン巡査部長は顎に手を当てる。しばらくの間、そうして考え込んでいたが、
「……相手はただのNPCですよ?」
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