星を見渡すビルの屋上

HaやCa

第1話

町を見渡すビルの屋上に来た。僕がここに来たのは、ただ物思いに耽りたかったから。

昨日、大切な友達と喧嘩したことを引きずっているのだと思う。

「ごめんなさい」

 そうひとこと言えばいいのに、あのとき僕の口は言わなかった。

 彼も同じだった。

 普段から仲良くしているのに、これからどうすればいいのだろう。

 解決策を探すために、カバンからノートを取り出した。

 そこに自分の気持ちを整理してみよう。僕が悪かったところや、反対に彼がいけなかった部分。そうすれば、おのずと仲直りのやり方が見えてくるはずだ。


 夕方までかかるだろうけど、まあいいや。


 

 目覚めたとき、一筋の光が視界を横切った。

 どうやら流れ星らしい。夕方にはこの屋上から出ていくつもりだったけど、いつしか景色は移り、星が見える時間になっていた。

「なあ、磯崎。お前も見てるか?」

 ひとり呟く僕に、同じ空の下の彼は答えてくれただろうか。

 わからないけど、たぶん彼は寝ているだろう。スマホで時間を見ると、もう夜中の1時。

みんなが寝静まるころだ。

 このまま朝まで屋上にいよう。お腹は空いたけど、朝コンビニに行けばいい。



 頼りない、スマホの明かりを頼りに、僕はノートに思いを書き綴った。

ようやく見えてきた僕の悪かったところ、それに彼は何も悪くなかった。

 気持ちを整理することは嫌いで、苦手だった。それも今まで。

 どうしてか、要点が見えてくると楽しくなる。僕の目指す道がはっきりしたようで、とてもうれしい。

 ビルの真下では、まだ町は騒がしい。酔っ払いの怒声や、何人かの歌声が聞こえる。

 遠くなる夜の騒がしさが、唐突に恋しくなった。

 こんなときは、大好きなロックバンドの歌を口ずさむ。

 朝焼けは、きっと何よりも綺麗だ。



 朝が来ると、彼から電話が入った。

 彼も僕と同じように、小高い丘の上で一晩過ごしたらしい。

 思うことさえ同じだった。

 こんなときは一言、声を合わせてみたくなる。

「なあ。磯崎」

「ふっ。ん、なんだよ?」

「「ごめんなさい!!」」



 ごめんなさい、を言うのは恥ずかしい。

 誰だってそうだと思う。僕のお姉さんもごめんなさいをいうのが苦手だし。

 けれど、いつまでも気持ちを隠して、何事もないように振る舞うのはもっと苦手だ。

 磯崎は本当に素直な人間で、今朝は僕以上にありのままの気持ちを教えてくれた。

 それは僕としても財産になった。

 

「なあ、磯崎。今度はさ、みんなで遊びにいかね?」

「いいぜ。俺もなにかしてぇって思ってた。ま、テスト週間が終わってからだな。ははっ」

「ありがとうな」

「なんだよ急に?! 気持ちわりぃな!」

 

 ビルの屋上で感じてたように、僕たちの足元にも騒がしさが戻ってきた。

 テスト週間はとても長いけど、乗り越えればなんてことはない。

 テスト週間よ、早く終われ! と思いながら、僕たちは帰り道を駆け抜ける。

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星を見渡すビルの屋上 HaやCa @aiueoaiueo0098

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