下水道と明かり

 夜。

 少し上の方を涼しげな風が通り過ぎる。風はこちらを見向きもしない。

 隅の方で、汚い臭気とよろしくやっている。

 空は濁っている。水彩で描いた満点の星空を、まだ乾かぬうちにこすってぐちゃぐちゃにしたみたいに鈍い色だった。弱い星は灰で覆われ、強い星は雲の中に拡散していた。

 少し上の方のさらさらした空気の音を、すぐ隣の濁流がかき消した。コンクリートにぶつかった濁流から、百ほどのはみ出しものが飛沫となって飛び出す。それらはジリジリと蒸発して、地面に不純物のシミを重ねていく。それら、濁流たちは頭上の、大きな管から流れ落ちている。そばに立っているだけで、こちらまで汚れていく。

 ジャンプしても届かないくらいの高さに、草の影が揺れている。風のリズムに合わせて、覗き込んだりのけぞったりしている。しばらく眺めていると、雑草の擦れ合う音が重なり合って、笑い声のように聞こえてくる。草の影は視界の端で揺れ続ける。濁流たちの鈍い声をするりとかいくぐって、笑い声が聞こえてくる。

 遠くを見てみる。下を流れる液体の行く先を目で追いながら、まっすぐ遠くの方へ旅をする。波打つ黒い鏡面が見える。小さな命の光が波とともに、にじみ、点描のように鏡面に映り込む。

 そして、ぼやけ、暗闇に飲まれ、光って、濁った。

 そんな、ひとつ、ふたつとも数えられない光の中央に、大きな光があった。

 あの、他の何よりも大きく、他の誰とも混ざらない光は、何の命だろうか。

 雲は消え、無数の星たちが頭を垂れた。

 私の視界の中央で、他でもない光が、まさにそこにあった。その冷たい光は、私に静寂という声を聴かせた。瞳以外のすべてが無くなった瞬間が、永遠に感じられた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る