第130話 アーデル砦の攻防(二)
ゴブリンが、次々と突進して壁に取り付こうとしている。僕は、錦冠菊の陣と時空矢で、マリオリさんはエクストラファイヤウォールで焼き払い、兄上達の弓隊は聖素水で清めた矢で射殺し、小ゴーレムたちのファイヤフレームで粉にした。しかし、数の多いゴブリン達は仲間を盾にし、踏み越えて次々と襲って来た。
そして、数匹のゴブリンがついに一番外側の城壁に取り付いた。最初のゴブリンは、すぐに手足が燃え始めたが、次から次へと張り付くため、次第に発火する力が減って来た。
◇ ◇ ◇
「さて、そろそろ、ジャイアントキュプロスの登場だな」
と遠くから見ていたムサンビは呟き、隣にいた骸骨兵に伝令させた。
「どうする? エルメルシアの王よ」
と城壁でずっと指揮をとっている人物を見ながら呟いた。
◇ ◇ ◇
ドンドンと数十匹の骨のジャイアントキプロスが砦に近づき、腕で城壁を叩きだした。数匹は、城壁の防衛魔法で骨の瓦礫になったが、仲間の骨を持ち上げ、それで叩き始めた。
「陛下、お下りください」
と私を守る近衛の一人が進言して来た。
先ほどから、振動でグラグラするようになって来た。
「よし、第二城壁まで退避せよ」
とヘンリーは、周りに聞こえるように声を上げた。
「おい、君、レオナの槍を指揮所に持って行ってくれ」
と若い兵の一人を捕まえて槍を渡した。見ると、レオナの槍を必死に抱えて来た兵だ。その兵も槍使いらしく、背中に槍を背負っている。
「はっ」
とその若い兵は、両手で、レオナの槍を受け取り大事そうに持って、下がって行った。
’同じ槍使いなら、扱いに心配ないだろう’
そして、ヘンリーは第二の城壁に移動した。
◇ ◇ ◇
マリオリさんが、エクストラファイアウォールを使って、数匹のジャイアントキュプロスを灰にするものの、数が多く、そして大きいため、なかなか、思うようにいかない。
僕は、城壁の性質をより強固な金属に変化させて、壊れるのを防いだ。
”ジェームズ、奴らに回復の祈りを捧げる。それに合わせて、グラビティホールを使うのじゃ。マリオリの目は、誤魔化せんじゃろうが他の者には判らんじゃろ”
と、ずっと僕とマリオリさんの魔力回復をしてくれていた聖霊師様が語りかけて来た。
僕は、了解の旨を回答すると、城壁の外側に回復の祈りの魔法陣が現れた。
’何時もながら、聖霊師様の力はすごいな。あんな離れた場所から正確な魔法陣を描くとは’
と驚いた。
―――聖霊師のいる塔は、マリオリとジェームズの塔より、引っ込んだ場所にある。そのため、第一城壁の外は見ることができない。そこに正確で複雑な魔法陣を描くには並外れた透視力と想像力がないとできない。魔法陣の正確さはそのまま、魔力の強さに比例する。そのため、普通の魔法使いでは、大きくなればなるほど、細部の再現が難しくなり、魔力が弱くなる―――
僕はシェリーの助けを借りて、矢を撃つ場所を決め、時空矢を放った。
そして、グラビティホールを顕現させ、ジャイアントキュプロスを足止めし、潰した。
◇ ◇ ◇
「ほう、あれは大魔法のグラビティホールですな。さすがジェームズ様だ。あんな短時間で顕現させるとは。それに聖霊師様の回復の陣に重ねているのは、『できすぎた弟子よ、出過ぎるでない』の教えの通りなのでしょうな」
とマリオリは魔法陣を見ながら呟いた。
「負けてはおれませんな。この老人も大魔法を一つ、お見せしてしんぜよう」
と独り言を言って呪文を唱え始めた。
少し長い時間を掛けて上空、空高くに巨大な魔法陣を顕現させた。すると明けの空に雲が漂い、渦を巻き、いく筋もの竜巻が地上に降りて来た。この竜巻は帯電しており、強烈な雷を伴って、地上の者へ降り注いだ。
グラビティホールで押さえつけられ、竜巻で吸い上げられ、雷に打たれ、魔族の大敵である回復魔法で消滅させられた。さらに残ったゴブリンも小ゴーレムのファイヤフレームの餌食となり、ゴブリンはほぼ壊滅し、ジャイアントキュプロスも数体を残すのみになった。
◇ ◇ ◇
「ぬぬぬっ、昨夜からずっと大魔法を使っているが、奴らの魔力は底がないのか?」
と驚きと怒りを伴って、ムサンビは声を上げた。
「我が兵士達よ、行くぞ、良いか。数分持ちこたえよ。そうすれば砦内は混乱する」
と周りの骸骨兵に言った。
しかし、誰一人として、返事することはなく、感情の起伏も全くなかった。
ザッザッザッ
と恐怖することない軍団が動き出した。
◇ ◇ ◇
「本隊が動き出したが、第一城壁も健在なままだ。一体なぜだ?」
と僕は、敵の目的が読めないので、疑問に思った。
”兄上、おかしいです。城壁も落ちていないのに突撃するのは、敵は何か企んでいるに違いありません”
と僕は兄上に連絡した。
”あ、あ、聞こえるか? ジェームズ。先ほどマリオリからも進言があった。指揮所に向かうことを提案してきたよ”
と兄上は慣れない、魔法通信で答えてくれた。
”
とこちらは少し慣れたアーノルドからの連絡だ。
”了解”
と返した。
僕は敵の出方を見ることにした。何かの錬金陣を作っている途中で解除するのは、意外と時間がかかるからである。
聖素で清められた矢空が、ひっきりなしに飛んで行き、ファイヤフレームが、いく筋もの炎の帯となって、敵を減らしていった。
◇ ◇ ◇
「地中にある骸ども、未練を残し死んでいった者達よ。俺の声を聞け。その骸に力を与えてやる。這い出て、地上の者を殲滅せよ」
とムサンビは骸骨兵の盾に何重にも守られながら、城壁のそば近くの大地に手をつき語りかけた。
―――砦の中のあらゆる場所から、ゴボゴボと音を出しながら大小様々な骸骨達が這い出てきた―――
「ふふふ、地中には思わぬものが埋まっておろう?」
と一人悦に入ってムサンビは、エルメルシアの王を思い浮かべながら呟いた。そして、
「扉を開けよ」
と大地に命じた。
城壁の門が中から開いた。
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