第131話 アーデル砦の攻防(三)
―――砦内は混乱を極めた。砦の地面から、人属の骸骨、動物の骸骨、巨大生物の骸、ジャイアントキュプロスの骸が這い出て、地上の人属を攻撃し始めたからである―――
「シェリー、行ってくれ。僕は塔の上から敵を狙う。危なくなったら、移動するから大丈夫だ」
と僕はシェリーに話をして、とりあえず周辺の魔物達の殲滅をお願いした。
そして、
”兄上、そちらはどうですか?”
と聞いた。
”こっちは大丈夫だ。ケイと若い兵士が守ってくれている。それより、ヒーナの方が心配だ。誰か行かせるのがいい”
と兄上は言ってくれた。
”ヒーナそっちは、どうだい?”
”ええ、こっちもわんさか沸いてるわ。まずいのは魔犬の骸骨ね。ゴブリンの骸骨は弱いわね”
”解った。アーノルドに行ってもらう”
”アーノルド、聞こえるかい?”
”おう、ヒーナのところだな。あそこは、兵士が少ねぇからな”
とアーノルドも察してくれた。
僕は、スコープでロックオンして時空矢を撃ちまくった。
小ゴーレムは乱戦になると、全く機能しない。ファイヤフレームが味方に当たるためだ。精々、盾になる程度だ。
’ヒーナにも言われたけど、改良が必要だ’
と考え始めたが、戦場であることを思い出し、
”マリオリさんはどうですか?”
”私の所は大丈夫です。とりあえず陛下のところに移動します。ジェームズ様は聖霊師様の所に行って差し上げてください。ジャイアントキュプロスが狙っています”
僕は、反対側の窓から聖霊師様のいる奥の塔を見た。確かにジャイアントキュプロス三体が、そこへ移動している。
”シェリー、聖霊師様の塔へ、僕もすぐに行く”
と空気壁を伝って、伸縮矢で移動した。
「僕が命ずる。この石の塔を金属化して硬化せよ」
と錬金陣を顕現させて石の性質改変を行なった。
下を見ると、骸骨兵もここに殺到している。明らかに聖霊師様を狙っているようだ。
入り口のところで、数体の骸骨兵が吹っ飛んだ。メリルキンさんが聖素弾を撃っているいるのだろう。
シェリーも瞬間移動でやってきた。
”シェリー、塔をよじ登る奴がいるからお願い”
”判りました”
というや、塔によじ登った骸骨兵の頭に現れては、頭蓋をかち割っていった。
🎶〜🎶〜
歌声が聞こえてきた。聖素慈雨の祈りだ。聖霊師様が祈りを捧げ始めた。
ひと時、持ちこたえなければならい。
三体のジャイアントキュプロスが近ずいてくる。火炎錬金陣を張り、一体を灰にした。しかし、四体目もこちらに向かってくる。
”まずいな”
と思っているとき、すでに中天にさしかかった太陽を遮る者があった。
「新手が来たか?」
と心配になり、見上げてみると、
”大魔導師殿、遅れてすまない”
と思念が入ってきた。
四体の聖竜が急降下して、ジャイアントキュプロスを破壊してくれた。
◇ ◇ ◇
ムサンビは、エルメルシアの王を探した。どんな奴か見てみたかったのだ。
「指揮所にいるのだろう」
と骸骨兵と共に向かうと、タガーを持った女と槍を持った若い兵士が、指揮所の入り口を守っている。
その辺りには、骸骨兵や、骸骨の魔獣の骨の山ができていた。
ケイが走り抜けると、十数体の骸骨兵が吹っ飛んで行く。
「ほう、あの女、見事な使い手だな。あのタガーも何か特別なもののようだ」
とムサンビは、ケイの見事なタガーさばきに無い舌を巻いた。
🎶〜🎶〜
その時、ムサンビの耳に歌が聞こえた。
🎶〜🎶〜
’これは、『聖素慈雨の祈り』’
とムサンビは上空を見上げた。
上空には、驚愕するほど緻密で正確な祈りの魔法陣が、空一杯に描かれている。まるで、世界の端から端まで全て覆い尽くされているように見える。
’逃げられない’
と思った時、指揮所の上に窓があるのが判った。
’あそこから、入って王を人質にするか’
と思い、女と若い兵士に気づかれないように上の窓から指揮所に入った。
指揮所の中は、中央が吹き抜けになった三階の作りになっている。一階をみると指揮官の椅子があり、その前に一人の男が、剣の柄に左手を置いて立っている。
椅子にはレオナとか言う男が使っていた槍が置いてあるのが見えた。
ムサンビは大鎌を両手に持った状態で、ゆっくりとその男の前に降りた。
「お前が、エルメルシアの王か?」
と俺は聞いた。
周りに取り巻きが一人もいないのに、全く動じないこの男に、なぜか圧力を感じる。
「そうだ。私がエルメルシアの王、ヘンリー・ダベンポート・エルメルシアだ」
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