第98話 ケイを訪ねて
ケイさんは、レン老師とタン老師の元で、再修行をしている。一応訪ねることを魔法便で了解をもらったので、山を登って向かっているところだ。
やっと山の中腹まで、アーノルドとシェリーを伴って、エレサ王女のことを聞きなら、登ってきた。
僕が息を切らしているのを見て
「
と言ってきた。
「そうですね。私もご主人様は少し鍛えた方が良いかと思います。レン老師から呼吸法と護身術にもなる套路を教わっていますので、お教えいたしますね」
と今日は、どう言う訳か二人して、僕に意見を言ってきた。
シェリーが言っているのは、レン老師が、以前、教えてくれると言ったのと同じかも知れない。何だかんだと理由をつけて結局、習わなかった。
「へー、シェリーそれって、どんなんだ? 俺にもできる?」
とアーノルドが僕たちの前に出て、後ろ向きに歩きながら喋ってきた。
「套路自体の動きは緩やかだけど、相手の力をいなす事に特化しているわ。上達者なら発勁を伴って攻撃するわね。後で教えて差し上げましょう」
とシェリーが胸を張ってドヤ顔した。そう言えば、シェリーが、こんな顔するのはアーノルドに対してだけだな。
などと言いながら、やっと着いた。二人は全く息が切れていないのに、僕は膝が笑ってしまっている。
’今度は套路、ちゃんと習おう’
と僕は、決意も新たに自分に言い聞かせた。
「やあ、良くいらした。ささ、こちらへ。ん? ジェームズ君、君も、少し鍛えた方が良いね」
とタン老師にも言われてしまった。
◇ ◇ ◇
レン老師とケイさんが闘っていた。全く目にも留まらぬ速さとはこの事だろう。二人は僕たちに気づいて、お互いに武術家のする礼をして、こちらにやって来た。
レン老師もケイさんも、下は砂利道なのに、足音は全く聞こえなかった。
「こんにちは、今日は無理言ってすみません」
と僕は笑っている膝を何とか立てて、突然の来訪を謝った。
「いえいえ、今回の修行も終盤になってきました。あとは、本人の努力次第ですね」
とレン老師は、ケイさんの肩に手をかけながら答えた。
「ところで、あなた、もう少し鍛えた方が良いわね。そう言えば、教えようとしていた、套路と呼吸法は…… 」
とレン老師までも言い始めた。
皆が、僕の顔を覗き込んできた。
’ヒェーご勘弁を’
と思いながら、歯を見せた硬い笑い顔で、受け取ったあと、
「あっ、今日伺ったのは、ケイさんの武器についてです」
と話の方向性を変えようと努力した。
「ああそうね。そうでしたね」
◇ ◇ ◇
シェリーとケイは、数歩離れた距離で対峙した。
シェリーはエルステラを抜き、右側斜め下に剣先を向け、ケイはタガーを腰の鞘に収めたまま、呼吸を探っていた。
そして、ケイは走り出し、シェリーの左横をすり抜けていった。
キーン
―――剣とタガーがぶつかり合う音―――
ジェームズには、ケイが、何時、タガーを抜いたのか、シェリーが、何時、左側にエルステラを移動したのか、全く分からなかった。
ケイは、姿勢を低くして足で地面を蹴り出して急停止し、クルリと旋回して、シェリーの間合いに入った。
キーン
シェリーは、右に回りながら、エルステラを斬りはらい、ケイは右タガーで止めた。
そのまま、右タガーでエルステラを抑えながら、左タガーでシェリーの右腕を狙った。
シャーン
―――エルステラとタガーが擦れあう音―――
シェリーはクルッと手をひねり、体ごと、後ろにひき、次に下から上に切り上げた。
ガチ
下から上がってくるエルステラを右タガーで抑えた。
次に猛烈な速度でシェリーがエルステラで突きを繰り出し、その全てをケイは、タガーで止めるか体の柔らかさを生かしながら避け、蹴りを織り交ぜながら、お互いに打ち合った。
エルステラとタガーが、ぶつかる度に火花が散り、蹴りが入るごとに鈍い音がした。
シェリーの髪の毛が数本切れ、ケイの髪も数本切れた。
そして、ケイがシェリーの喉元に右タガーを突きつけて、それをシェリーがエルステラの平たい部分で止めた時、
ぺッキンとタガーが折れたしまった。
「そこまで!」
とレン老師の掛け声で二人は後ろに下がり、礼をした。
「シェリー様、ありがとうございました。大変勉強になりました」
「いえいえ、こちらこそ、ケイ様の神出鬼没のタガーには驚かされました」
とお互いに褒め称えあった。
◇ ◇ ◇
次の日、工房に戻った僕は体のあちこちが、筋肉痛で痛いのを我慢しながら、メモった紙を見ながら考えた。
’ケイさんのタガーは片刃で、多くは、逆手持ち。瞬時に持ち替えて順手で狙う時もある’
どうやって、持ち変えているのか結局判らなかった。
’タガーの欠点は、間合いが狭いこと’
これは、シェリーが素手だけでは不味いとアーノルドが言っていたことと同じだ。
’しかし、ケイさんとしては他の武器は、あまり考えられない’
とか。
’この日の試合では、やらなかったが、タガーを投げる事もある。ただ、武器を手放すため、使う場面が限られている’
’間合いの狭さを補いながら、使えるタガーか。投げることがヒントだけどな’
と色々と考えていた。
’投げても、戻って来れば良いのか。魔法使いでないケイさんにどうやって、物体を移動させるかな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます