第86話 魔王軍団 モーン将軍

「ふん、ドラゴンども」

とジェームズ達が乗って来たドラゴンを見上げて呟いた。


 そして、両手に魔法陣を顕現させ、

「来い、地獄の獄卒ども」

と手を大地に付けた。


 大きな黒い円が描かれて、そこから、二つ頭の魔犬と有翼の魔族が大量に溢れ出し、黒い二つ頭のキュプロスが3体現れた。


「行け、ドラゴンと人属を食ってしまえ」


   ◇ ◇ ◇


 新手が現れた。こちらは、騎士と魔法使いを合わせても十人程になってしまった。


「聖水竜殿、頼む、そこの檻車二台を後方に運んでくれないか?」

とヘンリーは水竜に懇願した。


”運ばねば、王がも動かんだろう。仕方がない”

と上空の風竜達を見ながら、何かを伝達した。


 すると風竜二匹がそれぞれに檻車を掴み、

”檻車の中の人属よ、ちょっと揺れるが我慢しろ”

と飛び立った。


 二つ頭の魔犬が、土の橋で死んでいるキュプロスを飛び越えて、ヘンリー達の方へ迫ってくる。

 ヘンリーはケイを抱えて、剣を構えた。

「ケイ、離れるな。どこまでも一緒だ」


 ケイは健気に頷いた。


 そこへ、シェリーが、瞬間移動で魔犬達の前に現れ、エルステラを抜いた。


 一匹がシェリーに飛びついたかに見えたが、おかしな方向に逸れてしまう。


 そして、シェリーの足下から聖素が溢れ出し、その聖素を気として、エルステラの剣先に込めて魔犬を切っていった。


 光り輝くエルステラに触れた魔物は、瞬時に消滅していった。


   ◇ ◇ ◇


 アーノルドは、二つ頭のキュプロスの上に飛び降り、重さが千倍になった竜牙重力大剣で切りつけた。そのキュプロスは二つ頭の間から、股間まで真っ二つになった。


「トロールよりは硬ぇな。まあ、その方が楽しめるってもんよ」

と言いながら、重力波を巧みに出しながら、二つ頭のキュプロスを次々に切ってった。


    ◇ ◇ ◇


 有翼の魔物が、黒い雲の様になって、こちらに向かってくる。

 僕は錬金陣を出して、

「あの錬金陣に氷結ブレスを当ててみて」

と水竜に言った。


 水竜が氷結ブレスを錬金陣に当てると、其処から数十倍に数が増えた氷の塊が発射され、黒い雲の様な魔物達は次々と落下していった。


”ほう、これは面白い。面白いぞ、大魔導士殿、ハハハハハ”

と調子こいて、何度もブレスを当てた。


   ◇ ◇ ◇


 モーンは怒り狂った。

「おのれ、人属の分際で」

とモーンは、再度地獄から、獄卒達を召喚し始めた。今度は、キメラが2体に二つ頭のキュプロス、数百体である。


「行け、跡形も残すな」


   ◇ ◇ ◇


”アーノルド、兄上とマリオリ殿を谷から離れてくれ”

”解ったぜ”


”シェリー、こっちに来てくれないか”

と言った直後、近くを飛んでいる土竜に移動して来た。


”シェリー計算補助を頼む。八連錦冠菊の陣を張る”


「水竜よ、錬金陣を貼り終えたら、またブレスしてくれ。標的はあの谷にいる魔物達だ」

と僕は、肩から頭のところに移動しながら、お願いした。


「僕が命ずる。虚空に八連錦冠菊の陣を顕現し、第一陣から三陣までは其処をくぐる氷を無数の光の矢へ変質し、第四陣から六陣は、光の矢を収束し、第七陣、第八陣は、収束した光の矢を拡散させずに敵を撃て」


と呪文を発して、八つの錬金陣を同心円状に、ちょうど望遠鏡のレンズの様に並べた。


「ブレスを放て」

と水竜に命令した。


 ブレスの氷は、第一陣から第三陣で無数の光の矢に変換され、第四陣から第六陣で、糸ほどの太さにまで収束し、第七陣と第八陣が真っ直ぐに前方に向けて打ち出した。


ダン、ダン、ダン、ドックーン

―――第五陣と第七陣を通過する時、破裂音がし、第八陣から収束された光が発射された時、長く跡を引く爆発音がした―――


   ◇ ◇ ◇


 膨大なエネルギーが、一点に集中して地上に到達した時、そこを中心に大爆発が起きた。魔物達は切断され、溶解した。


「おのれ、人属」

とモーンは巨大な火球を僕たちに向けて、投げつけ、溶解する前に地獄門に逃げた。


   ◇ ◇ ◇


  八連錦冠菊の陣を張っている間、僕とシェリーは無防備だった。


  巨大な火球が迫って来た。


  シェリーは僕の方に瞬間移動して来た。


  水竜と土竜は咄嗟に直撃を交わす。


  そして、火球が大爆発


  二竜が落下していった。


 火竜が僕とシェリーをキャッチし、落下する二竜を、風竜達が、風魔法で受け止めた。


「主、シェリー!」

アーノルドは、馬を駆って、火竜が降りる場所に行った。


「ジェームズ!」

とヘンリーとケイもそれに続いた。


 僕とシェリーは竜達のお陰で、少し火傷を負った程度で済んだ。


 水竜と土竜は火傷が酷い。


 ”なに、人属に比べれば、我らはずっと頑丈だから大丈夫だ”

と水竜はやせ我慢して言った。


 檻車から人属を救出したが、生きている人は半分も居らず、生きていても、精神がやられていた。ヘンリーはケイにマントを着せて、ケイは檻車から救出した人属を介護した。

 その日は竜八匹と僕たち三人、ヘンリーとケイとマリオリとレン老師、それに騎士達六人と魔法使い四人で野宿した。


   ◇ ◇ ◇


 次の日、サンの遺体を埋葬しようとした時、遠くに砂煙が上がっているのを確認した。


「陛下、陛下はご無事か?」

と一番先にレオナが馬を駆ってやって来た。そして、ヘンリーを見つけ、飛び降りて、膝をつき安堵の表情を見せ、涙を流した。


”ジェームズ、待たせたな。魔族は追っ払ったか”

”はい。ただ、サンほか騎士、魔法使いの先生方が犠牲になりました。それに捕らえられていた市民も相当数が犠牲になりました”

”ふむ、悲しいことじゃ”

 その日、犠牲者を悼んで、聖霊師が葬儀を行った。


「サン・ユアンジア、そして我が騎士達、そなた達は我が配下として、我を支えてくれたことを心から感謝する。そなた達のことは、終生忘れることはない。聖霊の加護があらんことを」

とヘンリーが弔辞を述べ、レン老師が先に逝ったアルカディアの先生たちに葬送の言葉を贈った。


「兄さん」

とケイが泣き崩れ、その横で、ヘンリーがケイの肩を抱いた。

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