第59話 前夜祭
「やぁ、ジェームズ、おめでとう」
さっきから、何人の人に言われたか判らない。
前夜祭は、受賞式後の晩餐会と違って、学生も入ることができる砕けたパーティだ。それだけに、ちょっと歩けば、皆顔を合わせるたびに挨拶をしてくる。
殆ど、この人誰だっけ状態なのだが。
そこに、ヒーナとシェリーがやって来た。ヒーナは、少し派手目のワンピースといつものポシェット、シェリーもスーツ姿から、シックなワンピースを着てきた。
ヒーナが、戯けて
「やぁ、ジェームズ君、おめでとう」
と言ってきた。
「その手のおめでとうは、お腹いっぱいです」
と戯けて返した。
アーノルドは、いつもの商人風の服装でやって来た。
「
と少し、声を低くして話しかけてきた。
「カービン・クロファイルか?」
と聞き返すと、頷いた。
どうも、あの魔術師は掴みどころが判らない。魔法は駄目なように見せているが、風紋石を提案するなど、中々と思わせるところもある。
死人の森からの帰りは、一緒の船旅で、色々と会話をしても、自分の事となると、はぐらかされる。
噂をしていると、その魔術師が近づいてきた。
「ダベンポート殿、おめでとうございます。アルカディア魔法学賞を受賞されるほど、著名な方とは知りませんで、先日は色々と失礼をいたしました。お許しください」
「いえいえ、クロファイル殿が居なければ、あの洞窟の瘴気は払えなかったでしょう。お礼も言わずに、お別れした事を、ご容赦いただければ幸いです」
「ダベンポート殿が受賞される『魔法残滓に残る真名の解析方法とその応用』の論文を読ませていただきたました」
クロファイルは、酒を一口含んで、喉を潤し、
「大変な発見ですね。魔法が生まれてもう何千年も経っているのに、初めて明かされた真実には驚きました」
グラスを上げて、敬意を表してきた。
「おっと、私がダベンポート殿を独り占めしていると、非難されそうだ。それでは、また。明日からの受賞式と晩餐会でも、お目にかかるかもしれません」
と言いながら去っていった。
受賞は、様々な分野に渡り、また、講演も含まれるため数日かかる。そして、最後の日に晩餐会となる。
「先生!」
と小さい子の声が近づいてきた。小ゴーレムが後から付き従っている。
エレーナがヒーナを見つけてやって来たのだ。その後ろにはミソルバ王妃が付いてきているが、王妃には見えない衣装にしている。
「これはこれは、おめでとうございます」
とミソルバ王妃が祝辞を述べてくれた。
「ありがとうございます。ヒーナもお世話になった様でありがとう御座います」
「ご婚約されたそうですね。お二人はとてもお似合いのカップルと思いますよ。どうかお幸せに」
「重ね重ね、ありがとうございます。今度また二人でミソルバ国に行こうと思います」
横ではエレーナとヒーナが、はしゃいでいる。ヒーナは良い先生なのだろう。
少し離れたところで、軽いどよめきが広がった。
そこに目を移すと、ヘンリーと美しい女性が腕を組んで入ってきた。
どよめきは、その女性の美しさに上がったものとすぐに分かった。
僕は、ヘンリーに近づき、
「兄上、来てくれたのですね」
「もちろんさ、私の弟の授賞式だ。お前が出るものには、すべて出るつもりさ」
とヘンリーの回答を聞きながら、僕は女性の方を見た。
「ああ、こちらは、ケイ・ユアンジアだ」
ケイ・ユアンジアって、タガーの二刀流の女性だった。
髪の毛をUPにして、肩が大きく出たワンピースを着ていると別人のように見える。
「ああ、失礼しました。大変お美しいので、見間違えてしまいました」
と僕はケイに向かって、謝罪した。
ケイはニコッと笑い
「ご迷惑を掛けないよう気をつけます」
と少し棒読みの様に答えて、お辞儀をしてくれた。
ユアンジア家は、猫系の血が入っている。その柔らかな物腰といい、身のこなしといい、その血を疑う余地は全く無い。
そこへ、アーノルド、シェリー、ヒーナがやって来た。アーノルドとシェリーとは、即席の武術大会で『手合わせ』という形で見知った仲である。
僕は、ヒーナを婚約者として紹介した。
武術談義に花が咲いた三人を横目に
「兄上、ケイさんは兄上の、その、なのですか?」
と耳元で聞いてみた。
「不釣り合いだと言って、まだ許してくれない。領土なしの王の私は全くそうは思ってないのだが」
真っ直ぐな目で、ちょっと笑みを浮かべ、ちょっと頭を掻きながら、ちょっと自分を卑下するように言っている。このバランスが、『人たらしの王』と呼ばせるところなのだな。
などと、思っていると、
「なに、ニヤニヤしているだい。私だって頑張るぞ。お前がヒーナさんと言う良き伴侶を見つけたのだ。兄も負けてはおられん」
とこれまた、人たらしな雰囲気を醸し出す。
「えっ、私が何でしょう?」
とヒーナが近づいてきた。
「ヒーナ、人たらしの王に近づくと心奪われるので気をつけたほうが良いよ。恋愛の感情ではなく、そう、なんか仕えたくなるような感じだな」
ヒーナは首を傾げたが、兄は
「そうか、恋愛では弟に負けているか。うーん、これは更に精進せねばならぬ。はははは。負けぬぞ」
これまた、爽やかな笑い声と、ちょっと見せる自信。マリオリさんとか、これに参ったのだろうな。
♫〜♫♪〜
踊るのに丁度よい音楽が流れてきた。
僕はヒーナを、兄は、ケイを、なんとアーノルドがシェリーをエスコートして、ダンスに興じた。
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