第52話 ヌマガーの決断
―――馬の嘶き、騎士たちの鎧と剣の音、馬車、コロン車の音、人属の群衆の足音―――
準備は整った。戦力、備蓄、兵の士気。どれをとっても負けることはない。そして、切り札を私は持っている。
ツギハギの賢者の石を手の上で回している。
‘じっと見ていると、このくらいの大きな賢者の石は人の心を奪う’
と思い、袋の中に収めた。
小国を吸収したお蔭で大国に挟まれたマース山系はローデシアの庭になった。アルカディアが各国に助けを求める前に打撃を与え、ローデシアに有利な条件で即時停戦する。今回の戦争は、こちらに大義が少ないため、これが各国からの介入を防ぐ最良の方法だろう。
魔法歩兵二十万、軽騎兵五万、重騎士五万、魔法隊一万、弓手隊一万、魔法砲三十門、飛空船三十機、ドラゴン五体をマース山系の八拠点に敵に悟られぬように分散して配置した。
この拠点から、まずドラゴンで先制攻撃を仕掛け、飛空艇で強襲打撃隊を送り込み、軽騎兵でアルカディアの領内の拠点への奇襲を掛ける。そして、魔法歩兵、重騎士と魔法隊で、学園首都周辺を制圧し、魔法砲三十門で昼夜を問わず、学園首都へ砲撃をかける。
『黄昏の矢』作戦、それが、今回の作戦名だ。
そして、開戦は、アルカディア魔法学賞受賞式が終了するあたりだ。各国要人が帰国する混乱時にさらに混乱を助長させる。
今、最も懸念されるのは、ローデシア帝、その人だ。あの二回の残像は、今でも気になっている。ただ、ここ最近、準備の報告をしたときは特に問題はなかった。
果たして、私の決断は良かったのだろうか。
◇ ◇ ◇
ローデシアの城の奥深く、王の広い寝室に数人の人影。しかし、二体の影は人属ではない。
「うふ、久しぶりね。我が王よ。人属の皇帝なんて、殺しちゃって完全に乗っとたら?」
と言っているのは、しっぽと羽の生えた、デーモン族の女。
ローデシア皇帝の意識を抑えたデーモン王の膝のうえに跨って、少し上気している。
「そういう訳には行かない。こいつを完全に殺したら、証文の魔法で我が身が危ない」
と今は、顔も体もローデシア皇帝とは見えないデーモン王が答えた。
「ねぇ、私のお土産はどうだった? たっぷりと注ぎ込んだんでしょう? 私の妹増えるかしら?」
と腰を振りながら、デーモンの女が聞いている。
周りには人属の女が横たわっている。
「もう少しやれば、何人かはデーモン族に変わるだろう。駄目なのは喰ってしまえば良い」
デーモン王は平然と言った。
「あぁ、ねぇ、私にも、もっと注ぎ込んで」
一層、腰を強く振りながら、デーモンの女は懇願した。
「ヌマガーが戦争を起こしてくれるお蔭で、下級魔族の食料が手に入る。もっと、デーモン族を増やしておくかな。お前は、人属の女をさらって来い。そして人属の男を虜にしてデーモン族にしてしまえ。駄目な奴は喰っていい」
そして、デーモン王は魔素を注ぎ込み、デーモンの女は絶頂に達した。
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