第17話 王都襲撃
ヒーナを励ました後、ここ数日間、新しい店の場所を検討するために、ミソルバ王都を回っている。今日はヒーナもついてきて、シェリーと楽しく話したり、僕の腕を取って手をつないだりして楽しそうにしている。
「
とアーノルドがシェリーにぼそっと言った。
「いつものことでは有りませんか」
とシェリーはあまり関心なさげに話した。
「まあ、そうだけどよ。しかし、
アーノルドは、頭を掻きながら、ボヤいている。
「あら、じゃぁ、私と手を繋ぎます?」
「じょうだんじゃねぇ、気を叩き込まれるに違いない」
「あら、失礼ね」
と喋っている時、
カンカンカンカン
騎士たちを緊急招集するための鐘が、けたたましい音で鳴らされた。
「
アーノルドが背中のロングソードをいつでも抜ける体制で近づいてきた。逃げ惑う住民たちで混乱した。
「シェリー、屋根から状況を確認してくれ」
シェリーは銀髪を紐でまとめて、瞬間移動で屋根の上に登り、
“ミソルバ湖から、ドラゴンが三体こちらに向かってきます。それと、東の街道から、砂埃が上がっています”
「ヒーナ、とりあえず城へ戻ってくれ」
「わかったわ、今のあたしじゃ、役にたたないからね」
ヒーナは賊に賢者の石を取られている。素直に城に戻ってくれると聞いて少し安心した。
僕はヒーナを見送った後、アルケミックコンパウンドボーを顕現させた。そして紐付きの矢を屋根につき立てたあと、紐を縮むように性質を変化させて、反動を使って、シェリーの横に立った。
スコープの呪文を発して、状況を観察した。
「シェリー、住民の避難が先決だ。なるべく多くの人を城へ逃してくれ!」
「解りました」
シェリーは瞬間移動をしながら、逃げ遅れた人に避難するよう言って回った。
“アーノルド、東の街道の魔物を頼む。でもやり過ぎるなよ“
“解ってるって。
“ドラゴンの三体か、何とかなるだろう”
アーノルドは頷いて、馬を駆って街道の方へ行った。
僕は声を大きくする呪文を発して、
「皆さん、落ち着いて城へ逃げてください」
と何度か言い続けた。
◇ ◇ ◇
昔、アルカディアのマスター課程も終了し、雑貨を始めるために学園以外のところで住もうと思った時、僕たち三人はオクタエダルに呼ばれたことがある。
「マスター修了おめでとう。よう頑張ったのう。さて、祝辞の他に忠告を一つ言っておくぞ。お主達、これから人助けをするであろう。その理由も実力も持っておるからな。しかしじゃ、人属は己の理解を超える強さを見ると、味方であっても恐れる。いつか疑心暗鬼が生じ、最悪、お主達を排除しようとする者も現れるかも知れない。特にジェームズ、お主は出来すぎておる。その真の力、心が通う者以外に悟られてはならぬぞ。助ける時は、普通の錬金術師程度に止めるのじゃ。良いか夢夢忘れるで無いぞ」
師匠が僕を『出来すぎた弟子』と呼ぶのは、僕を心配して何時も忠告してくれているのだ。『出来過ぎた弟子よ、出過ぎるで無いぞ』と。
◇ ◇ ◇
ミソルバ国王は、城の城壁から状況を確認していた。ダベンポート殿が住民を退避させてくれている。そこはまかせて街道をやってくる魔物達に対応するため、兵を二つに分けて東の街道に向かわせた。その時伝令が来た。
「西の街道からも魔物。それに湖上からドラゴンらしき影」
ミソルバ王は愚王では無い。瞬間的にクワッと目を見開き、
「住民を城に入れよ。ドラゴンが来る前に西側をやる。王妃に伝令! 住民を収容し、聖霊師殿と共に地下宮まで退避させよ。そしてバリスタでドラゴンに備えよ!」
「騎士長に伝令! 余と西側の魔物を打つ事。ドラゴンが上陸したら、王都に帰還、ドラゴンに対応する」
「ダベンポート殿に伝令! 頃合いを見て城に入ってください。お客人に怪我を負わせる訳にはいきません。と伝えよ」
次々と指令を出した。
◇ ◇ ◇
一方アーノルドは東の街道に先に着いていた指揮官らしき者に近ずいて、
「状況はどうだ?」
と聞いた。
何でもトロールが三体いて、内一体は何とか仕留めたが、こちらの被害も大きく、残りの二体に手こずっていると言う事。
「細けぇのを抑えてくれねぇか。大きいのは俺がやる。俺の剣はでけぇからよ」
指揮官は、客人には、と何か言っていたが、トロールに部下が次々とやられるのを見て、了解してくれた。
「おう! テメェら何処見てんだよ! アーノルド様は、こ・こ・だ・ぜ!」
と挑発しながら、少し突いては逃げるを繰り返し、トロール二体を小さい魔物の群れから引き剥がす。本当は兵からだが。
‘ちっ、まどろっこしいぜ’
兵たちから少し離れて、彼らが小物に集中しているところを見計らい、
「でっけいノータリン、さあ、始めようか」
トロールが棍棒を打ち下ろしてきた。
竜牙重力大剣を斜めにして、剣の陰に隠れながら受けると、棍棒は大剣を滑って地面を打ち付けた。
トロールが大きく体勢を崩したところで腕を切り落とす。
ひるんだところを、下から喉元に向けて大剣を突き出しトドメをさす。
「おめえ、臭えぞ!」
二匹めのトロールが横薙ぎで棍棒を振ってきた。
上半身を反らし避けたのち、上段から振り下ろしながら、大剣の重さを百倍にし、トロールの体に打ち付ける。
トロールの体は二つに割れた。血糊を振った後、大剣をしまいながら、
「はい、おしまいっと」
騎士や兵たちが、小物に気をとられている時にトロール二匹は血を吹き出して倒れた。アーノルドは、トロールの陰になっていて兵たちには、何をしたのか解らなかった。
“
◇ ◇ ◇
僕は、もっと高い櫓に紐付きの矢を突き立てて、さっきの要領で飛び移った。
西側からも魔物が来ている。大型のトロールも混じっているのを発見した。
ミソルバ王が先頭をきって騎士や兵士たちが城を出てきた。王が櫓の下あたりに来て、僕の無事を確認してきたが、
「大丈夫ですよ。ところで、西の魔物の上あたりに矢を増やす錬金陣を発現させます。それを見たら、その陣を弓手に射させてください」
王は頷き、疾駆していった。
兵が西の街道入り口に到着し、準備が出来たところを確認して、空に向かって八芒星を描きながら、
「僕が命ずる。虚空に錦冠菊の陣を顕現し、彼の陣をくぐる矢を無数の光の矢へ変質し、敵を撃て」
と呪文を発して魔物の上辺りに錬金陣を顕現させた。
弓手達の矢が術式に到達した時、数千の光の矢が錬金陣から、しだれ柳の花火のように現れ、魔物に向かって降り注いだ。小型の魔物はハリネズミのようになり倒れた。
トロールは皮が硬いのか、なかなかダメージが入らない。そこで僕はスコープを出して位置を確認し、時空矢でトロール達の喉を撃ち抜いていった。
矢の雨を掻い潜った、魔物は兵たちに狩り殺された。
◇ ◇ ◇
シェリーは逃げ遅れていた子供たち数名を守って、櫓の下辺りにやってきた。子供がいるため瞬間移動は使えない。と、ドラゴンが湖岸にやってきてフレイムボールを飛ばしてきた。
“シェリー、フレイムボールだ”
とシェリーに警告したとき、シェリーは玄武結界を発動して大火球と炎を避ける。
子供たちには被害はなかったが、怯えている。僕は強烈な怒りを感じた。
“シェリー、子供たちを城へ”
僕はスコープを見ながら時空矢を打ち込むが、矢では余り効果がない。それでもこちら側に、惹きつけることはできた。
ドラゴンが僕に向かってブレスを吐いてきた。一瞬早く、僕は別の場所に紐付き矢を立てて移動した。
しかし、足に痛みが走る。ちょっと火をかぶったようだ。
シェリーは子供たちを守りながら、大火球を避けて少しずつ城の方へ移動していった。
そして、バリスタが城から飛んできた。ドラゴンはそれに気を取られている。
さらに城壁から数台のバリスタが発射されたのに合わせて、八本の弓を撃ち、八芒星を地上に描いた。
「僕が命ずる。大地に暗黒の陣を顕現し、大地の重力を十倍にし、そこにあるものを大地に押さえつけよ」
僕は、掌を下にして振り下ろした。飛んでいたドラゴン三体は、大地に打ち付けられて、抑えら付けられた。光は周辺よりも薄暗くなり、そこの空気も重くドラゴンを押さえつける。
◇ ◇ ◇
城壁から数台のバリスタでドラゴンを射ていたミソルバ王妃は、三体のドラゴンが同時に突然地上に落ちたのを見た。
「当たった……のか?」
それは、バリスタにあたって落ちたというよりも、羽を上げることも許されず、なにか大きな力で叩き落とされたように見えた。
しかし考えている間もなく、城に続く坂道を客人のシェリーが、子供たちを伴って城に向かっているのを見つけた。飛行する小型の魔物がその一行を狙っている。すぐに伝令を発し、騎士たちに馬で迎えに行かせた。
◇ ◇ ◇
シェリーのところに上空を舞う小型の魔物が襲ってきた。子供たちを玄武結界で守りながら、少しずつ移動していく。騎士たちがやってきて、矢と剣で払っていく。一人の騎士に一人の子供を乗せ、城へ疾走する。そして最後の騎士が、シェリーに馬上から手を伸ばして
「こちらへ」
と言ってきたが、
「ありがとう、でもお構いなく」
と言ったところに、シェリーの後ろから飛行魔物が滑空して襲ってきた。
しかしシェリーは振り向きもせず、少し身を躱して、右手で飛行魔物を掴んでしまった。
ボキと音がして、魔物は翼も首もだらりと綿の抜けた縫いぐるみのようになってしまった。
そして
「子供たちを頼みます。私はご主人様のところに行きます」
と言い残し、瞬間移動で消えてしまた。
その騎士は、瞬間移動ができるホモンクルスがいることは聞いたことがあるが、目の前で見たのは初めてだった。
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