第16話 陰謀の条件


 コツコツコツ……


 ローデシア帝に目通りがかない、向かっている。この十四年で九カ国を無血併呑を果たした。長い時間が掛かったが、ついにローデシアはこの大陸で最大となり、科学、魔法、経済、軍事のどれをとっても、他国の追従を許さないまでに成長した。魔物からの脅威を無くすことを引き換えに、九カ国から強制的に徴兵し、物産を徴用し、そしてかなり無理をしたが増税したことが大きい。さらに、例のものも揃った。やっとアルカディアを糾弾する時がきた。


 そして私は十四年前と同じ執務室に入った。


 ヌマガーはその時、一瞬だがローデシア帝に違和感を感じた。ローデシア帝の顔が残像を引くようにに見えた。ほんの一瞬。


「ヌマガーよ、余は待ちくたびれたぞ。しかし、アルカディアから干渉もなく、九カ国を無血併呑し、この国をこの大陸最大の強国にした実績は余も認める所である」

 

 疲れからもしれないと思い直し、ローデシア帝の問いかけに答えた。


「ありがたき幸せ。また陛下の御忍耐に甘え、無駄に月日を費やしたこと、深くお詫びいたします。アルカディアを下したあと、どの様な処分でもお受けいたします」

「ヌマガー、心にもないことを申すな。で、揃ったのか?」

「はっ。全ては準備できております。後は、最後の一つがあれば、アルカディアを糾弾出来ます」


 最後の一つとは、魔物によって一国の王都が完全に滅ぶことである。これによって、改めて魔物の脅威を各国に印象付け、アルカディアを糾弾し、ローデシア帝の元、統一に向けて進めるのである。


「良い。進めよ」


 帝の執務室を辞し、私室に戻った。途中、あの残像は何だったのか、気になってしょうがなかった。


 部屋に入ると、そこには影の頭領がすでにいた。


「この間の賢者の石はご苦労だった。質も大きさも良かった。あれで、揃ったので、もう集める必要は当面ない」


 影の頭領は頷くだけだったので私は続ける。


「ミソルバもこちらに引き込もうと思ったがもう必要ない。破滅の前の最後の安息を今はしばし与えよう。今度は私が、ミソルバ国王都を魔物によって、完全に破壊する。住民もろともだ。悲惨であればある程、各国に魔物の脅威を印象ずけられるからな」


 影の頭領は、あまり表情を動かさずに

「ヌマガー様が作った、記憶干渉核によって、ドラゴンを簡単に制御することができるようになりました。今回は三体のドラゴンの術者三人が揃っています」


 十三年前のエルメルシアでドラゴンを使った時、魔寄せの呪いでは制御が極めて難しく、ファル王国で暴走し計画が頓挫しそうになった。


 記憶干渉核は、これを反省し開発を進めてきた錬金術の魔法具である。ドラゴンを捕らえ、その角の根元に干渉核を埋め込む。すると魔法通信でドラゴンを制御できるようになる。さらに、他の魔物には魔寄せの呪いのキッカケに使える。このため、術者が近くにいなくても良いのだ。


 今回は三体を投入しよう。対アルカディア用に五体残してある。


「ふむ、ところで、お前が申し出てくれた件、良いのだな?」


 禁忌の実験でアルカディアを追放されたが、私はここで実験は続けてきた。そして集めた賢者の石を使うことで、満足の行く成果が出始めた。


「あのエルメルシアで、ヌマガー様に救われた命、存分にお使いください。それにミソルバで魔術を使わせたのは、すでに計画の一端かと思っております」

「まあそうだが」


 私は目を背けず、続けた。


「では説明しておく。すでにお前の魔術は相当のレベルにあるので、そこには手をつけず、瞬間移動の能力だけ付加する。また、今回の改造で真名が一つ増える。ミソルバでの魔法使用はこれに関係するが、お前の変装術と合わせて使うと色々と役に立つだろう」


 陽動に使える。その為の布石だ。頭領は、わずかに笑った様に見えた。


「瞬間移動は生身の人属には大変な負担となる為、まず無理な事は知っておろう。それを克服できるようにする。しかしこの能力を持ったホモンクルスほどはできない。あまりに使いすぎると暴走してしまうので気をつける事だ」

「解りました」

「他になければ、そこに入れ」


 タンクの様なものに入る様に指示し液体を注ぎ込んだ。。


 少し懸念されるのは、オクタエダルの秘蔵っ子がミソルバに来ていることか。『出来すぎた弟子』と言われているが、真名模様発見以外に大した実績がない。この間の魔寄せのときも、アルケミックアロー一本しか飛ばしていない。術者を見抜いたのはそれなりに知識はあるのだろうが。


 タンクの上には人の拳ほどの、継ぎ接ぎの賢者の石が光を放ちながらゆっくりと回っていた。

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