第12話 エルメルシアの受難
ヌマガーは、最後の仕上げにギールに謁見していた。
◇ ◇ ◇
「ヌマガーよ、何故だ、何故あの女は来ない。こうして王になったのに何故来ない」
ギールは、当たり散らし、手当たり次第に物を投げ壊す。先週など、ちょっと間違った大臣を斬り殺してしまった。
一年間かけて、サキュバスに洗脳させた。
魔術で精神を支配するのは簡単だが、それでは木偶人形のように感情も欲もなくなるので直ぐに見破られる。だから魔術を使わずに媚薬を使った最高のベットを一年間与えた。
それを取り上げられたのだ。体もそうだが、心があのサキュバスの女を渇望しているだろ。
ここでサキュバスの女の代わりに国を差し出せと交渉するのもある。しかし、この様な強欲な男は、人から奪うことはなんとも思わないが、爪の一欠片も人にやるのは良しとしない。
だから人から奪って破滅してもらうに限る。
「陛下、この城は少し寂しいのでは無いでしょうか。もっと華麗な飾りにしませんとやはり新王妃様には不釣り合いではないかと思われます。民衆は、ドラゴンから国を救った王には喜んで金銀財宝を差し出すのでは無いでしょうか?」
’ドラゴンから国を救った王ね、実際はドラゴンが飛来した時腰を抜かし、何とか連れ出したら、漏らしていたが’
「我が意を得たり。早速手配せよ」
それから数日で、城は趣味の悪い、おかしな飾りであふれた。
「ヌマガーよ、来ぬでは無いか、もしや、お前は余を謀ったのか?」
「いえいえ恐らく、新王妃様は、陛下のお迎えを待っているのでは無いでしょか? 女人とはそう言う者ですぞ。新王妃様の特徴をお教え頂けませんか? 手を尽くしてお迎えに行きましょう」
「なるほど、しかし、その、特徴が判らぬのだ。床の中では判るのだが」
「では、国中の女を召し出し、陛下自ら検分されては如何でしょう。その……全員に伽を命じては」
「なるほど、手配せい」
これには流石に大臣が反対したが、
「この国をドラゴンから救った王の伽に何の問題がある? 其奴を斬れ!」
めちゃくちゃである。まあ、これを仕組んだのは私だが。
―――エルメルシアは、混乱した。賢王アイザックが没してから、わずか一ヶ月足らずで、美しく明るい笑顔が満ちていたエルメルシアは、そこには無かった――――
早く決着せねば。前皇太子の遺体は見つかっていないし、前第二王子はアルカディアだ。奴らが体制立て直す前に決着させる。ヌマガーは少し焦っていた。
影の頭領を呼んだ。
「頃合だ。解っているな。私はこの国を今すぐの出る」
「了解しました」
命を助けてやった事もあり、以前より従順になった。
◇ ◇ ◇
革命が起きた。影の頭領が扇動し民衆蜂起をさせた。貴族も軍も同調、影の頭領は民衆の旗となり王宮に攻め入る。捕らえられていた、女たちを解放してギールを連れ出し即刻首を跳ねた。そして影の頭領はこう演説する。
「今民衆の敵を葬った。しかしこの混乱を招いたのは前王の魔物への失策の所為でもある。魔物を野放しにし、自らその魔物に襲われ絶命した。我らは前王を賢王として敬いはするが、同時にこの民衆の敵も一族なのである。今我々はダベンポート家を統治者から引き摺り下ろし、新しい統治者に委ねることを提案する。そう魔物に対して妥協しないローデシア帝にこの国を委ね永遠の安息を得ようでは無いか!」
これが、エルメルシア民衆宣言である。
この宣言を狼煙に、国境に待機したローデシア帝国軍が全くの抵抗なく、エルメルシアに入った。そしてローデシア帝の代理の者が各地でこう読み上げる。
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余は、エルメルシア民衆の願いを聞き届けた。これからは余の庇護のもと、魔物を恐れることのない安寧の国造りに共に励もうではないか。
余は民衆の崇高なる願いを実現するためにどの様な苦労も厭わない所存である。
ローデシア帝国 皇帝 ノアピ・ルーゼン・ローデシア
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これがローデシア帝の受託である。
民衆により、国が献上された。そしてエルメルシア王国はエルメルシア地方となった。この衝撃的なニュースが各国の王室を震撼させたのは言うまでもない。民衆によって王室も選ばれるという事、魔物対策を疎かににできないという事が、この後の社会の在り方を大きく変える。たとえ、いち錬金術師に仕組まれた事であっても。
この真実が判るのは暫く後のことになる。
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