第6話 死
「すべては、星のように生まれ、星のように死ぬ。そんな話を入学式のとき、校長先生がしてくださったはずだが」
ㅤ教室は静まりかえってる。この老いた先生の落ち着いた話し方は、ぼくたちの返事を待ってるのか、続く言葉のために少し間を空けてるだけなのかわかりづらい。
「ま、覚えておらんだろうな」
ㅤ覚えてるけど。でも長い話だったと思うので、正直その続きは覚えてない。
「教科書の四ページを見ておくれ。そこに文章が載っておる」
——すべては、星のように生まれ、星のように死ぬ。我々はその中で何が出来るか。自らの願いを叶えることが出来るか。否。死は待ってくれない。どんな願いがあろうと、構わず時として急に現れるもの。しかしもし、その願いを叶えるために、死を待たせる力を持つ者があれば。それを守護し、我々は生き延びる道を選ぶだろう。何のためここに存在するかわからない我。わかるために長く生きる。そして願いを叶える。ただし今、そんな力は存在せず。生き延びるため、己の命を磨くべし。
「この文はある研究者の本の引用だそうじゃ。わしの解釈では、誰もがいつか死ぬのでそれまで頑張れってことじゃ」
ㅤここで教室がちょっと湧いた。長い朗読の先があっけなかったから。あとこのシワの入った先生が言うと何か説得力があるから。笑いが起きても変わらないトーンで先生は話を続ける。
「チカラなんて色々あるが、死にチカラはないはずじゃ。死に対抗するチカラもな。医療だって、風邪の完全な治し方もまだわからんじゃろう」
ㅤ太陽と違って選択科目じゃない死の授業は、先生の一方的な話で進んでく。
「死があるから、ワシらはチカラを発揮できる。もしもこの文章に書かれたようなことが実在すれば、ワシらはチカラの使い方を誤るかもしれんな」
ㅤ右をチラッと見ると、真面目にノートをとる願の姿。そんな参考になるようなこと言ってるかな。こちとら生きたいか死にたいかもまだよくわかんないのにさ。今少し楽しいのは願の観察くらいだよ。
「おい、そこの。よそ見してるキミ。何か願いは持っているかね」
ㅤ突然当てられた。なんて答えればいい。願いだって?ㅤ そんなのあったような叶ったような。あるような、ないような。
「わからないです」
ㅤ緊張の中で口から出たのは、イエスでもノーでもない。あやふやでもない、もやもや。
「それでいいんじゃ。持ってようが持ってまいが死ぬときは死ぬんじゃ」
ㅤ何だこの授業。緊張して、はぐらかした自分が恥ずかしい。でもまた、横目で見てしまった。願が大きく口を広げて笑うところ。すぐに手でおさえたけど。かわいくてうれしかった。なぜかそんな気がした。
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