息をする面影

その面影の様子を聞いた


とても暗いのに暖かで

とても冷たいのに微笑み

とても強い目で泣く


季節と季節の間に挟まれて

雨の向こうへ旅にでる


雨を越えた先で見つけた

雲の切れ目が渦を巻いて

あの海で息をしている


瞼を閉じて明るく見える

光の斜線、虫の羽音


移り行く景色の向こうで

胸をしめつけるのは

この夢から醒める瞬間的、死


旅をして遠ざかり

旅をして消えていく


街に返り漏れてゆく

色彩を針で縫う

塞いだ瞼は

いびつで汚く美しく


私はこの場所で

息をすることを止める


あの熱で病に倒れた私は

体に管を通されて

渇れ果てた血を入れ替える


そんなことの繰り返し

繰り返してあきらめて

戻してくりかえし


白い部屋で

あのころの雨で萎れて

乾いた切符を

蛍光灯にかざすと

取り残された寂しさと

廻る煌めきが風となって吹き抜けて

あの季節に飛ばされそうになる


あの海に帰る声

その深海の静けさに心沈めて

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