塾帰りの男子がいた

@buchi_fu

塾帰り

とあることが、夜の10時まで続いた。

俺は、堀田陸斗。

高校受験まで、あと4日だ。

金曜日である今日は、家に帰ってもまだ寝られない。

親は寝させない。なんで、高校受験をあたかも大学受験みたいに扱うのか。嫌いだ。

そもそも偏差値は十分足りていた。内申はともかく……



塾からは1人で帰る。皆とは道が全然違う。

自分以外全員反対側の道から帰るなんて、ことがあった。

車の音がうるさい国道が目の前に見える道から、俺は左に曲がった。

そこは細い、街灯が等間隔にある道だ。

夜10時、1人の帰り道となると、月は美しいというより、ただの静かな、物質のようだった。



空気からは、水道水の匂いがする。


足音は、テンポが若干早めで…



こつ、こつ、こつ、こつ、こつ、こつ


1人ともなると、途端に遅くなったり…


こつ…こつ…こつ…こつ…こつ…


また普通に歩いたり…



こつ、こつ、こつ、こつ、こつ




こここここここここここここここここここここここここここここ



……………え

え…今のは…明らかに自分じゃない…え、誰だ…


……

…こつ、こつ、こつ、こつ、こつ


自分の足元から音がする。


後ろには、誰もいない。


国道からの音は完全に聞こえなくなった。

明らかにあの、足音は、おかしかった。


耳元で叫び出す白痴のように、

鼓膜を殺すような足音が今、右耳から聞こえた。



「…はお……ひひ……ひひひひひひ」


…あ

違う、違うって。これだけ、15年間の月日が教えてくれただろ。幽霊は存在しないって…


「ひひ、はお……」


ああぁぁ……嫌だ。振り返りたくない。さっきは、ああさっきは危機感も持たず振り返ったけど、もう駄目だ。


「はひ、ひひ……」


ダメだ、耳を塞いでも…聞こえる…


俺は足を早める。


たったったったったったったっ…


家はもうすぐ。助けてくれ…嫌だ…


たたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたた


ひひ、……はおっ…あ…


もう…なんで俺なんだ…なんで誰も来てくれないんだ…ちくしょう…



ねえ、ほった、りくとくん…




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「記憶はその辺までだよ」


「ねえ、本当に大丈夫?心配だわ…」


「お母さんが心配することじゃねえって」


「何言ってるの!あたしが心配しなくて、どうすんのよ…」


ここらの不審者情報は、最近聞かなくなっていたのだが、やはりいることにはいる。


自分が被害者ともなると、想像するような、現実感とは違った。

違う怖さがあった。

音は都合悪く変な風に聞こえたり、

振り返ってもいないのが、やけに不思議な雰囲気を醸し出したり…





あんな不審者にびびるような怖がりだったんだ。記憶がないだなんて、よっぽど怖がりなんだね。


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