He looked like a droppings of dog.(意訳:ウンコ)
負け犬アベンジャー
プロローグ 黒のドレス
このドレスは全てが黒かった。
靴は革靴のハイヒール、だけども足の甲を出したサンダルのようで軽くて、履きなれてない俺でもそんな練習しなくても簡単に歩けるようになれた。
そんな足にはストッキング、腿まで引き締めた目の荒いレース生地で、腰に巻いたガーターベルトに止められずり落ちない。
下着は、見せるつもりはないけど念のため、同じく黒のブリーフにした。
それら下半身を覆い隠すスカートは薔薇の花を逆さにしたように大きく膨らませてあった。その花びら一枚一枚が、レース生地で、それ一枚では透けてしまうほど薄いものを何層も重ねて黒に変え、更にそれぞれを波打たせることで咲き誇る大輪の花に仕上げてあった。
スカートの上、腰の上にはベルトのように大きなリボンを巻いてある。結び目を背後に回してくびれを引き締め作るのと同時に、上半身と下半身とを区切りながらも結ぶアクセントにしてあった。
リボンからがらりと変わって上半身はシンプルだ。
胸と肩紐以外は最小限の生地だけ、それらもスカートと同じくレース生地で、脇の下なんかは肌が透けて見えた。最低限の裏地以外は全部スケスケのレース、歩くだけで風を感じられるぐらいで来てる感じもしない。
その極め付けは背中、大胆に開いて肌を大きく出すことで肌色とドレスとの対比を描いてあった。
両手には手袋を、ぴっちりと指先を包みながら肘から少し上まで届く黒、よく見れば同じ黒の糸で薔薇の刺繍がうっすらと見える。
最後に頭には飛び切り大きな幅広の帽子、つばは肩幅を超えるほど大きく、だけども光を通す薄いレース生地、その上に負けじと結ばれた大きな黒のリボン、花に止まる蝶のようだった。
これを少し斜めに被るのがオシャレなのだ。大きく目立つ帽子、なのに中はすっきりしていて重くはなく、背筋を正して美しさを保つことができた。
黒く、大きく広がる綺麗なドレス、なのに着心地よく、レース生地を多用してあるから軽くて動きやすい。しかも俺の体に合わせてあつらえてあって、どんな動きをしても皺一つ産まれない完璧なフィット感があった。
……このドレスは、母さんが仕立てた中で最高のドレス、最高の作品だった。
母さんの自慢の一品、誰に見せても胸を張れる最高の一着、だけど俺は、正直好きじゃなかった。
いくら俺の黒くて長い髪に褐色の肌とで良く似合ってる、なんてほめられても、それに似合うように化粧するのは億劫だったし、何より俺は男で、女の格好をするのは、恥ずかしかった。
だけど、それでも、鏡に映った俺の姿は、このドレスは、俺なのに、文句のつけようがないほど、最高に綺麗だった。
これは、俺が知る限り、最高のドレスだった。
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