第96話 そして新たな勝負へ

 そのレイジさんの案に、みんなが「お~」と感心したような声を上げる。

 メイさんがさらに話を掘り進めた。


「レイジくん。勝負内容は具体的にはどうするの?」

「そうだね。《古代竜の巣》ダンジョンは、もう3Fまで攻略を進めている人たちがほとんだ。そしてNPCや先生たちからのヒントによると、どうもダンジョンは地下10Fまで続いていて、最奥部にいる古代竜のボスを倒せばいいらしい。そこでどうだろう。僕たちも引き続き合同パーティーを組んで、みんなで最奥部クリアを目指す。そしてその道中、ひかりくんと琴音くんのどちらがユウキくんに対して相方らしい適切なサポートが出来ていたのかをクリア後に判断する、というのは。僕としては評価がしやすくて助かるよ」


 そのレイジさんの案に、ほとんどみんながなるほど、とうなずいていた。

 メイさんもまた、うんうんうなずきながら顎に手を当てていた。


「ふんふんなるほどね~。第二勝負と同じような流れだけど、わかりやすくていいかもしれないね。けれど、琴音みたいに夏休みにはリアルに戻る予定の人も多いし、ボスクリアまでというよりは、夏休みが始まるまで、という方が良くないかな?」

「そうねぇ~。ボスまでどのくらいかかるのかもわからないものねぇ~」

「そうですね。生徒会会計としても、私はそれでいいと思います。ビードルさんもそちらの方が好みですよね」

「ふん、俺もそれでいい。それよりレイジ……お前、自分が戦いたいだけではないか?」

「あはは、バレちゃったか」


 照れ笑いするレイジさん。

 その提案にはひかりと琴音さんも続いた。


「わ、わたしもそれで大丈夫です!」

「ええ。私もひかりと同じよ」


 けれど、当事者たちが納得したのに納得しない人が一人だけいた。

 ナナミだ。


「ちょっと待て! あたしは反対だぞ!」

「ん? どうしてだいナナミ?」


 不思議そうに尋ねるメイさん。ナナミは腕を組んで話す。


「それってさ、要は第二勝負のロングバージョンみたいなもんだろ?」

「まぁそうだね」

「だったら支援特化の琴音より、殴りのひかりの方が不利じゃんか! 実際第二勝負のときだってそうだっただろ! お互い同じ条件じゃないと勝負にならないって!」


 それは僕も思っていたことだった。

 確かに第二勝負のときは、支援特化のキャラをしている琴音さんの方がパーティープレイという意味ではすごかった。審査員のみんなも琴音さんをより評価していたし、あのときと同じような流れなら、ひかりの立場は不利になるかもしれない。

 それにレイジさんが考えるように目を閉じた。


「そうか……それはそうかもしれないね。ひかりくんは殴り支援、琴音くんは支援特化。お互いのプレイスタイルが違えば、パーティーでの立場も役割も、相方としての動きも当然変わる。僕は戦いが好きだから思わず提案してしまったけれど、確かに対等な条件ではないね」


 レイジさんもナナミの意見に賛成したようで、他のみんなも言われてみればそうかも、と思案し始めたようだった。

 けれどそこで、ひかりが言った。



「いえ、いいんです。わたし、やります!」



 その言葉に、みんなの視線が集まる。

 ナナミは慌てて言った。


「ちょ、せっかく説得しかけてたのになんだよひかり! お前が不利になるんだぞ!」

「ごめんなさいナナミちゃん。だけど……いいんです。第二勝負と同じような条件だから、わたし、やってみたいんです」

「な、なんだよそれっ。どういう意味だよっ?」


 ひかりの言葉に困惑するナナミ。

 ひかりはうっすらと微笑みながら、その胸に手を当ててつぶやく。


「わたしはまだ《クレリック》で、琴音さんは《プリースト》ですけど、同じ系等の職業なのに……琴音さんは、わたしとは全然違うプレイでユウキくんたちを支えていました。わたしにはあんなプレイは出来ないですけど……でも、あの勝負をして思ったんです。戦闘でも、もっとわたしにも出来ることがあるんじゃないかって。ユウキくんのために、みんなのための殴りのわたしが出来ることを、もっと、探ってみたいんです!」

「ひかり……お前……」

「もしかしたら不利なのかもしれないですけど、頑張ってみたいんです。だからナナミちゃん、ごめんなさい。でも……いつもありがとうございます。わたし、ナナミちゃんと友達になれて、本当に嬉しいですっ」

「……バカ。どうなってもしらねーからな……」

「はいっ!」


 笑顔でナナミの手を取って応えるひかりに、ナナミはもう何も言うことはないとばかりに顔だけをぷいっと背ける。その目はちょっと潤んでいるように見えた。

 そこへ琴音さんが歩み寄ってから言った。


「ひかり。本当に良いのね? みんなの言う通り、パーティープレイに関しては私の方が有利だと思うわよ。私の実力は、もうあなたも知っているでしょう」

「はい。それでも負けないです。負けたくないです。みんなに認めてもらえるように頑張ります!」


 真正面から堂々と笑顔で言い放ったひかりの言葉に、琴音さんはしばらく呆然としてまばたきをし、


「……ふふ。あなたは本当に真っ直ぐな子ね。いいわ。私も全力でそれに応える。でなければ、あなたにふさわしいライバルにはなれないもの」

「琴音さん……ありがとうございますっ!」


 そしてひかりと琴音さんがしっかりと握手をかわし、お互いに微笑む。

 僕たちもみんな二人の意見を尊重し、そして勝負の内容は決まった。

 メイさんが言う。


「うん、それじゃあ改めて、最後の勝負は現在開催中のイベント――《時を超えし竜》を夏休みが始まるまで攻略して、そのパーティーでのひかりと琴音の活躍ぶりから、審査員みんなで勝者を決定します! 本格的な攻略は明日からで大丈夫かな? 生徒会のみんなは忙しいだろうから、来られるときだけでいいからね」


 メイさんの言葉にみんながうなずきあう。

 そしてメイさんもうなずき、続けて言った。


「というわけで、みなさん本日は長い時間のお付き合い、ありがとうございましたっ! それではこれにて解散とします。また明日うちのたまり場でねー!」


そんな流れで、今日のひかりと琴音さんとの勝負は終了。

 タオル姿のみんながゾロゾロと外に出ていく中、隣を歩く法衣服姿のひかりが僕だけに言った。


「ユウキくん。わたし、負けません」

「え?」

「琴音さんに勝って、自信を持ってユウキくんの相方さんだって言えるようになります。だから……わたしのこと、見守っていてくれると嬉しいです!」

「ひかり……」


 そう言って微笑むひかりの瞳は、とても綺麗に澄んでいて。


「……うん、わかったよ。ちゃんと見守ってるから」

「はいっ!」


 そのときに思った。

 ひかりは、出会ったあのときよりもずっと成長しているんだって――。

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