第95話 お風呂で癒やし対決、決着。


 ――『ピピピピピ!』


「わっ!」「きゃ!」


 僕とひかりは同時にびくっと震える。

 どこからともなく声が響いた。


『――倫理コード抵触を確認。自動フィルタリング機能が働きます。パートナー以外の前で装備を全解除されている生徒はすぐに装備をしてください。繰り返します。倫理コード抵触を確認』


 それはその場の全員に聞こえていた自動音声で、その声が聞こえた途端、全裸のひかりが白いモヤのようなものに包まれ、それが胸や下半身などを上手く隠してくれた。が、逆にそれがまた妙なドキドキを生んでしまう! つーかほらやっぱり引っかかったじゃん!!


「ピピー! ハーイストップストップ!」


 ハッとする。

 聞こえたのはメイさんの大声だった。


「はーい! 制限時間終了! 勝負はここまで! わーわーなんかもー倫理コードにまで抵触させちゃってごめんねひかりっ! とにかくこれで勝負はおしまい! みんなお疲れ様でした~! 」


 そんなメイさんの声のおかげで、僕の意識はようやくクリアになって元へと戻った。

 そして気づく。

 ついさっきの僕は……先ほど琴音さんに感じたのと同じ感覚だった。

 いや、それ以上にひかりに夢中になってしまっていたんだ。まるであの海のときと同じように、ひかりに触れたくて仕方なくなっていた。頭がひかりでいっぱいになっていた。

 それは……もしかしたら、ひかりの方も似たような感覚だったのかもしれない。

倫理コードによってフィルタリングのかけられたひかりは、しばらく呆然としながら何度か目をパチパチさせて、それからそっと自分の身体を見下ろし、先ほどよりもさらに真っ赤になって叫んだ。


「きゃ、きゃあ~っ!? え、えっ? ど、どどどどうしてタオルがないんですかっ!? どうしてわたしこんな、こここここんな~~~~!?」


 謎の煙に覆われているひかりは、馬乗りになっていた僕の上から降りるとそばのタオルを拾う。その顔はもう過去最高レベルで見事に赤い。メイさんとナナミが慌ててひかりに駆け寄ってきて、生徒会のみんなはちゃんと目をそらしていてくれ――いや楓さんだけはバッチリ笑って見てる!


 それからひかりは涙目で僕の方を見た。


「あ、あう…………ユウキ、くん…………み、みました……よね……?」

「ひかりっ、ご、ごごごごめんっ! いや、み、みみみみみたっていうかそのっ!」

「あの…………ごめんなさい……ずっと……重たいのだけど……」

「――え? わあああぁっ!? ご、ごめんなさい琴音さん!」


 そこで僕は自分が琴音さんをずっと下敷きにしてしまっていたことに気づき、慌ててそこから退こうとする。

 幸いにも、琴音さんのバスタオルはほどけておらず一安心――とか思っていたら、退く際に琴音さんの左胸を思いきり触ってしまい、そのむにっとした感触を経て、僕はさらに土下座スタイルで謝罪を重ねた。


「うわあああ~~~! ごめんなさいごめんなさいごめんなさいわざとじゃないんです琴音さん! ひ、ひかりも本当にごめん! とにかく全部わざとじゃなくて! ほ、本当なんです信じてっ! 」

「は、はい。わたしの方こそごめんなさいっ。わ、わたしのせいで琴音さんまで」

「……もういいわ。事故だもの。それよりひかり、早く着替えて。倫理コードにずっと引っかかっているとGMが来るって話を聞いたことがあるから」

「そうだよひかり! メイさんが隠してあげてるから早く着替えちゃお!」

「おい男子どもはこっち見んなよな! でもひかり、あたしは感動したぞ。お前がここまでやるなんて思わなかったからな! よくやった!!」

「え? よ、よくわかりませんけど、は、はい~着替えます!」


 ひかりは慌ててインベントリからいつもの法衣をタップし、一瞬で着替え完了。お風呂場で一人だけ聖職者服というなんとも目立つ状況になってしまったが、ひかりが服を着たことで倫理コードの抵触警告表示が消え、視界が見やすくなる。


 落ち着いたところで、メイさんがパンッと両手を合わせて再び謝罪した。


「ひかり! 本当にごめんね~!」

「え? メ、メイちゃん?」

「あのタオル、まさか耐久値がほとんどゼロだったなんて気づかなくて! たぶんさっき転んだときの衝撃で壊れてしまったんだね。気づかずに渡したメイさんの落ち度だよ~ごめん! 恥ずかしい思いさせちゃったよね?」

「い、いえ、大丈夫ですよメイちゃん」


 ひかりがおろおろしながら答えて、それからチラッと僕と目が合う。するとひかりはまたすぐにかぁ~っと赤くなって目を逸らしてしまった。たぶん、僕も同じような状況だ。耳がすっげぇ熱い!


「……おいメイ。お前、やってないだろーな・・・・・・・・・?」

「え? 何のことかなナナミ? メイさんよくわからないよ~? はーい! それじゃあちょっとしたハプニングもありましたが、勝負も終了したので結果発表です!」


 とぼけたようなメイさんはそのまま審査に移ろうとして、ナナミが「このやろっ!」と悪態をついたあと、大きなため息をついた。ど、どういうことだろ?


「さてさてっ、お風呂場らしいちょっと過激なハプニングもあったけど、二人とも自分の魅力を使って見事にユウキくんを癒やしていました! 一体どちらが勝者となるのか、この三番勝負で全てが決まります! それでは審査員の皆さん、お願いしまーす!」


 そうしてメイさんが審査員へ言葉を促すも――


「……ええと、ごめん。この勝負は僕に勝敗は決められない、かな?」


 まずはレイジさんが謝罪し、苦笑しながらそう告げた。

 それに生徒会のみんなも続いていく。


「ふん、右に同じ。このような破廉恥な勝負で決着がつけられるわけもない。しかしユウキ殿……貴様、なんたる堕落ぶりか! その根性をたたき直してやろうか!」

「ひぃごめんなさい!?」

「は~い大丈夫よユウキちゃん♪ なんて言ってるビードルちゃんだって顔が赤いわよ~? でもそうねぇ~、ひかりちゃんも琴音ちゃんも頑張っていたし、どちらも同じくらい癒やしていたんじゃないかしら~?」

「申し訳ないですが、私には決めようがありません……。そもそもが、その、か、身体を洗ったり密着したり、その、か、かか過激すぎてっ、途中から見ていられませんでした……!」


 腕を組んで顔をしかめるビードルさんとその迫力にびびる僕。そんなビードルさんを小突きながら僕を守ってくれた楓さん。そして真っ赤になってぼそぼそとつぶやくるぅ子さん。


 そんな生徒会メンバーに続いてナナミも答えた。


「あたしも同じ。つーかメイ、こんな勝負で決着つけられるわけねーだろッ! 癒やしとか見ててもわかんねーし、どっちがエロかったかくらいの判断しかできねーっての! 大体なんだよあの勝負! アレなお店じゃねーんだぞっ! 先生たちにバレたら学則違反くらってもおかしくないレベルだぞ!」

「うんうん。恋する乙女の大胆さはすごいってことだよねっ。でも、二人とも素晴らしい癒やしプレイだったよ! メイさん二人の頑張りに感動しましたっ! パチパチパチ!」

「プレイとか言うなバカッ!」

「ちゃは☆ というわけで、メイさんも判定はドローです! となると決着がつかなくなっちゃうよねぇ。どうしよっか?」


 メイさんがお茶目に首をかしげてそう言い、みんなもどうしたものかと悩み出す。

 そこでレイジさんがスッとその手を挙げ、メイさんが「ハイ生徒会長さん!」と意見を促す。


 レイジさんは軽く咳払いをして口を開いた。


「ええと……これは一つの案として聞いてほしいんだけれど、ほら、今は夏休みに向けた大型イベントが開催している最中だろう? せっかくだし、そのイベントで決着をつけてはと思ったんだけど……どうかな?」

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