第85話 料理は愛情! クッキング対決
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それから三日後の週末。
時刻は朝九時。場所は学園の調理実習室。なぜここに集合なのかはなんとなく察した。
そして、そこには今日の勝負に挑むひかりと琴音さんの姿がある。
そんな二人を囲むように、僕、メイさん、ナナミさんも当然いて、休日なのに生徒会メンバーもなんと全員が審査員役で来てくれていた。その審査の内容とは、もちろんひかりと琴音さんの勝負についてである。
本当ならまた生徒会のみんなと《古代竜の巣》ダンジョンに行きたいところだったけど、こんなことになっているのにはもちろん理由がああった。
僕はささっとメイさんのそばに近づいて小声で話す。
「メイさん。よく生徒会のみんなも来てくれましたね?」
「あら、当然じゃないあなた。メイたちの可愛い愛娘のためだもの♥ 出来る限り第三者を集めて、公平に審査してもらいたいものね。うふふふ♥」
「三日ぶりに唐突な夫婦演技しなくていいですからね!?」
「もう、照れ屋さんっ♥」
「だからやめましょうって! 鼻をツンツンしない!」
「あらあら、好き勝手なことをされては困るわぁ~? ユウキちゃんはぁ、私、楓がずぅっと前から目をつけていたんだもの。メイさんには渡せないわよぉ~?」
「楓さんまで悪ノリ始めた!? ナ、ナナミ助けて!」
「勝負前に何やってんだお前ら……」
謎のノリで始まった謎の演技に、ナナミさんが辟易としてジト目になる。レイジさんは終始ニコニコ顔で僕たちを見守り、ビードルさんはひたすら無言で腕を組んでいて、るぅ子さんは「これがモテですか……」とつぶやきながら真剣に何かのメモをとっていた。そのメモなんですかやめて!
そして、そんな場面を目撃した琴音さんがこちらにやってきてしまう。
「ちょっとメイ。どういうこと? それにあなた、生徒会の楓ね? 二人してそんなに馴れ馴れしくユウキくんにひっついて。……まさか、あなたたちもユウキくんを狙っていたということかしら?」
「ああほら! 琴音さんに勘違いさせちゃったじゃないですか!」
訝しげな目の琴音さんに慌てる僕。しかしメイさんはテンションを変えることはなく、
「メイの愛しいカレは簡単には渡せないわよ琴音っ。まずは今日、愛娘であるひかりを倒してからメイに挑戦してきなさい! なーんてじょうだ――」
「――ええ、わかったわ。首を洗って待ってなさい、メイ」
「え? あ――」
「あ、違うんですよ琴音さん! これはごか――ああいっちゃった……」
身を翻してひかりの元へ行ってしまう琴音さん。ひかりは何事かと僕たちの方を見てあわあわしていた。
僕たちの視線が一斉にメイさんへと集まる。
「メイさん……」
「おい、メイ……」
「い、いやぁ、勝負前にちょっとみんなの緊張をほぐそうかなって……えへへ、メイさんお茶目な魅力出しすぎちゃったかな☆」
「出しすぎちゃったかな☆ じゃねーよバカ! 余計めんどくさいことになってどうすんだ! いいからさっさと勝負始めろバカバカバーカッ!」
「痛い痛いっ! わかったよごめんすぐ勝負はじめま~~~~す!」
いつの間にかツッコミ用に常備されているナナミのハリセンにぶったたかれまくったメイさんがひかりと琴音の元へ向かう。ナナミは隣でぜぇはぁと息を荒くし、レイジさんは目を点にして、楓さんはケラケラと楽しそうに笑っていた。ああもうどうなるんだこれ!
そんなところで、メイさんがみんなを見回しながら言った。
「本日お集まりのみなさま! お忙しい中、ひかりと琴音の愛の決闘のためにありがとうございます! えーと、あんまり外に聞こえちゃうとあれなので、以降はパーティーチャットにしましょう。メイさんがパーティー要請するので、承諾お願いしまーす」
視界ウィンドウにメイさんからパーティー要請が届き、すぐに了承。こうしてこの場の全員が所属する臨時パーティーが完成した。これでパーティーチャットを使えばパーティーメンバーにしか声が聞こえなくなる。
それからメイさんがパーティーチャットで全員に声が届いているか確認した後、本日の具体的な話に移った。
「えー、それでは、本日の勝負は三本勝負になります!
その一、料理は愛情! 朝ご飯でユウキくんの胃袋を掴め!
その二、相方の役目! パーティープレイでユウキくんをサポート!
その三、恋人は癒やし! 疲れた身体を癒やしてあげよう!
以上の三本で、相方として、恋人としての可能性を審査致します! なお、審査員はユウキくんを覗いて、メイさん、ナナミ、レイジくん、ビードルくん、楓、るぅ子の六人で一切の贔屓なく公平に行うことを誓います! みんなも大丈夫かな?」
「へーへー」
「もちろんだよ。生徒会長として公平を誓おう!」
「オレはよくわからんが……勝負は正当に評価する」
「おっけ~よぉ~♪」
「承知しています」
みんなそれぞれに返事をして、メイさんが「ありがとう~!」と軽く頭を下げる。
「ひかり、琴音も問題ないかな? なければ早速勝負を始めるよ」
メイさんの言葉に、ひかりと琴音さんはお互いに見合ったままでうなずいた。
「問題ないわ。どんな勝負でも、私が勝つもの」
「わ、わたしも負けませんっ。琴音さん、今日はよろしくお願いします!」
やる気満々の二人に、ナナミさんや生徒会の人たちが少し呆然となった。二人の真剣さをここで改めて理解したみたいだ。
メイさんもうなずいて言う。
「よし、それじゃあさっそく始めるよ!
――第一勝負、料理は愛情! 朝ご飯でユウキくんの胃袋を掴め!
というわけで、二人には『ユウキくんを元気にする』というテーマで朝ご飯を作ってもらいます! 食材は昨日のうちに買い込んでしまってあるから、好きな物をなんでも自由に使って結構です! 料理スキルもとっているなら自由にどうぞ! ただし作っていい品は一品のみです! 制限時間は10分! リアルだと無理だけどLROだと料理も楽でいいね! また注意してほしいのは、審査はあくまでもメイさんたち六人が行うため、ユウキくんが決めるというわけではないということです! では――クッキング勝負開始!」
メイさんの声に従い、ひかりと琴音さんがバタバタと調理室内を動き、それぞれに食材を選び始めた。
やっぱり予想通り、勝負内容は料理だった。どんなものが出来上がるのかちょっと楽しみな僕がいるけど……でも、やっぱり少しひかりのことが不安ではあった。
それに、審査方法のことも気になる。
普通、こういう流れの勝負なら、どっちがよかったかを判断するのは僕になりそうなものだけど、メイさんはそういう風にはしなかった。
でもその理由はわかる。
だって、僕は何度もひかりの料理を食べたことがあって、ひかりもある程度僕の好みを把握してくれている。
何よりひかりは僕の相方だ。いくら公平に審査したいって気持ちがあったとしても、たぶん、僕はどんなことになってもひかりを選んでしまう。それはフェアじゃない。
だから当人の僕ではなく、周りが審査するという方法をとったんだろう。僕がどう思うかじゃなく、周りから見てどう思うか、それが勝負のポイントなんだと思う。僕の相方をかけた勝負のはずなのにそれはどうなんだよって思いもあるんだけど、
「うふっ☆」
進行役のメイさんは笑って僕にウィンクをしてくる。
たぶん、メイさんはもう結末をわかっているんじゃないだろうか。あの笑顔を見るとそんな気がする。
それに……どっちが勝ったとしても、たぶん、僕は何も変わらない。
「……あっ」
ひかりと目が合う。
ひかりは一瞬だけニコッと笑いかけてくれて、それからまた調理に集中していった。
そうだ。僕はただ、あの相方を信じるしかない。
なんてそうこうしているうちに、ひかりも琴音さんも調理台で慌ただしく動き始めた。
そこでレイジさんがそばにきて僕の肩を叩く。
「やぁ。少し顔がこわばっているよ。君の方が緊張しているみたいだね」
「レイジさん……うう、情けないですね……」
「無理もないさ。けれど、ユウキくんがうらやましいね」
「え?」
「そうだろう? 何せあんな素敵な子たちに想われているのだから。一体どんなものが出来上がるのか楽しみだよ。だって、あの子たちの目は真剣だからね。出来上がる料理には、君への想いがギュッと詰まっているだろう」
「想い……」
「ユウキくん。結果がどうであれ、あの子たちの気持ちはちゃんと受け取ってあげないとダメだよ。いや、君にこんなアドバイスを送るのは失礼かな、ごめん」
「……いえ、ありがとうございます」
レイジさんの言葉で身が引き締まった気がする。
そうして僕は、完成まで二人の料理姿をじっと見つめていた――。
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