第79話 メイさんのマル秘恋愛マニュアル

 ひかりとの関係を考える僕に、メイさんは明るい声でこう言った。


「うんっ! それじゃあひかりが来るまでの間に、メイさんのマル秘恋愛マニュアルをユウキくんに伝授しよう!」

「え? れ、恋愛マニュアル!?」

「そうです! メイさんのモテモテマニュアルでユウキくんの恋愛力を鍛えれば、ひかりもも~っとユウキくんに夢中になっちゃうこと間違いなし!」

「はぁ? おいちょっと待て。メイがそんなこと教えられる立場なのかよ?」

「おやおや? メイさんのことをなめちゃってますね?」


 ナナミが疑問の声を上げると、メイさんは胸を張って誇らしげに語る。


「ふっふっふ。メイさん、こうみえて中学生の頃はモテモテでした! 学園中の子からあまりにモテすぎてしまって、職員会議でメイさんのモテ問題について話し合われたほどです!」


「「ええっ!」」


 衝撃の話に仰天する僕とナナミ。

 メイさんはえへんと鼻を高くして、わざとらしくモデルみたいに髪を払った。


「驚いた驚いた? メイさんもこれでなかなかの美少女ですからねっ。当然といえば当然なんですよ!」

 

 自画自賛しちゃうメイさん。

 いや、さすがにいきなりで驚いちゃったけど、それは普通に納得出来る話だ。

 だって――


「うん? どうしたのユウキくん? そんなにまじまじとメイさんを見つめちゃって」

「え? あ、ごめん」

「むふふ。いまさらになってメイさんの魅力を再確認しちゃったのかにゃ? うりうり~♪」

「ちょ、や、やめてよ~っ!」


 ぐいぐいと身体を押しつけてくるメイさん。

 間近で見ればよくわかるけど、メイさんはなかなかどころじゃないスーパーな美人で美少女だ。

 リアルの容姿を大きく反映するこのLROにおいて、芸能人やアイドルかというくらい整った顔立ちで、髪は綺麗だしスタイルも良いし、女性にしては背も高いし、その上で優しくて包容力もあってコミュニケーション力も高くお茶目なところさえある人だ。冷静に考えるとモテない方がおかしい人なんだよな。


「へぇ……んじゃあどんなやつにモテたってんだよ? その経験とやらを聞かせてもらおうか。やっぱ相手はイケメンなのか?」

「いいえ可愛い女の子です!」

「って女かよオイッ!」

「だってメイさん中学は女子校でしたし! けど女の子にモテモテだったのはウソじゃないです! 可愛い子ばっかりでメイさん毎日幸せでした♪ バレンタインにはチョコもいっぱいもらったんだよ~♥」


 ツッコむナナミに、メイさんは中学時代を思い出しているのか頬に手を当ててくねくねしていた。


「ダメだコイツ……全然恋愛してねぇじゃん……。ていうかメイ、その頃から可愛いもの好きだったのかよ……」

「そうです! あ、でも嫉妬しなくていいんだよナナミ? メイさん、今はギルドメンバーみんなのメイさんだからね。遠慮なく甘えておいで。さぁさぁ♪」

「甘えねぇよ! 手招きすんな! ちょ、抱きつくな頬ずりすんなあああ!」

「ナナミは可愛いなぁ♪ だけどLROに来てからは、男の子にも可愛い子がいるってわかって、メイさん勉強になってます。うふふ」


 僕にウィンクを投げつつナナミとイチャつくメイさん。

 ああ、この人がどんな中学生活を送っていたのかなんとなく想像がつく……。


「はーなーれーろっ! つーか恋愛経験もないお前のマニュアルなんて役に立たないだろ!」

「あらら、視野が狭いよナナミ。女の子同士で恋愛が出来ないとでも?」

「「!?」」

「うふふふ……♥」


唇に手を当てるメイさんの妖しい笑みに、僕とナナミが同時に驚愕。


「メ、メイ……お前まさか……!」


 自分の身体を抱きしめながら震えるナナミ。

 するとメイさんは、ニパッと明るく笑いなおして言った。


「あはは、なーんちゃって♪ たとえ話だよたとえ話。そういう場合もあるだろうってことさ。メイさんの恋愛対象は、ちゃんとノーマルに男の子だよ。メイさんだって白馬の王子さまに憧れる普通の女の子だもん♥」

「ほっ……そ、そうか……よかった……。まぁ白馬の王子に憧れる女は普通じゃねぇけどな……」

「でも女の子も愛せる自信はあるよ♥」

「やっぱそっちもいけるんじゃんかよ! 近づくな離れろ!」

「あははは冗談だよ冗談♪ もう、ナナミはいちいち可愛いなぁ♪」

「お前の冗談わかりづらすぎんだよ! もうお前に抱きつかれんのこわい!」

「え~! そんなこと言われたらメイさん悲しいよぅ。じゃあユウキくんに抱きつこっと♪」

「ちょ! そして本当に躊躇なく抱きついてくるの!?」

「本当にしちゃうのがメイさんの良いところだよね? う~ん、ユウキくんの匂いメイさん好きだよ~。なんだか安心するね」

「メ、メメメイさん恥ずかしいよ! ま、周り人いるから!」

「離れろバカ! おいメイ! つーかそんなの見られたら誤解されるぞ!」

「誤解かぁ…………はっ! メイさんちょっと妙案を思いついたよ! もしかしたらユウキくんとひかりの仲もこれで進展するかもしれない!」

「何思いついたか知らないけどとりあえず離れろって!」

「メ、メイさん……僕はどうすれば……」


 そんなドタバタな会議は、ひかりがやってくるまでの一時間、他の生徒たちに注目されながらずっと続くことになるのだった……。



 そして一時間後。


「いくよ~ひかり?」

『はーい、お願いします!』


 遠距離wisで確認を取り、パートナースキルを発動させる。


「――《いつも一緒に》」


 すると目の前に《ワープゲート》と同じような扉の――しかし色が違うものが出現し、その扉を開けてひかりが僕たちの元へ現れた。


「お待たせしてすみませんでしたっ! ユウキくん、呼び出してくれてありがとうございますっ」

「うん。やっぱこれ便利だよね」

「ですね♪ いきなり扉が出てくるのもびっくりです!」

「お疲れ様、ひかり。クラスメイトとは楽しめたかい?」

「おつ~」

「あ、お疲れ様です。はいっ、おかげさまで、みんなと楽しくクエストが出来ました!」


今日も元気なひかりを何食わぬ顔で出迎える僕たち。

 ひかりはそのまま自然と僕の隣にペタンと腰掛けるひかり。今まであまり意識していなかったけど、僕の隣がひかりの定位置になっているというのは、なんだか嬉しくもあり、気恥ずかしくもある。


「えへへ、お待たせしてごめんなさい。みんなは何をしてたんですか? お話ですか?」

「うん、実はねひかり。メイさんたち、おままごとゲームをしてたんだよ」

「おままごとですか?」


 そばに寄ってきたメイさんの言葉にキョトンと呆けるひかり。

 僕とナナミは顔を見合わせてお互いに小さくため息をつく。とりあえずメイさんの案に付き合うことにしたのだった。


「うん、この年になっても意外と楽しいものだよ♪ ひかりもやってみない?」

「わぁ、久しぶりで楽しそうですっ。やってみたいです!」

「うんうん。ひかりは素直で良い子だね。よぉし、じゃあギルド【秘密結社☆ラビットシンドローム】のおままごとゲームをはじめまぁす!」


 メイさんが「わー」と盛り上げながら拍手をし、ひかりもそれに続く。僕たちもとりあえず拍手をしておいた。

 つーかまじでやるのか……!


「それでは配役発表です! ユウキくんは年収300万円でお小遣いは月に1万円の入社5年目サラリーマンで奥さんの誕生日には毎回サプライズをする可愛い男の子。メイさんはそのユウキくんと結婚したばかりの綺麗で可愛いぴちぴち愛され体質な新妻。ひかりはメイさんたちの愛娘である可愛い赤ちゃん。ナナミはメイさんたちが飼っている可愛い子犬のトイプードルです!」

「僕だけ設定が細かい!」

「わ、わたしは赤ちゃんですか?」

「おい! あたしだけ人じゃねぇぞ!」

「はーいもう決定しているので意見はきけませ~ん。じゃあおままごとスタートです! みんなに衣装用の装備配るから受け取ってね~♪」


 メイさんは聞く耳もたずで僕たちに装備を手渡していき、全員がそれに着替えたところで本当におままごとがスタートすることに。

 いや、これをやることはさっきの会議でわかってたんだけど、役職までは知らなかった。とにかくもうメイさんに付き合うしかない。ナナミもうなだれながら諦めているようだった……。

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