第77話 仲間たち
カズヤさんから視線を逸らさず、僕は進む。
「な、なんだよ、来んなって!」
「確かに僕は、普通の人とはちょっと違うと思います。……だから、戦ってもらえれば全部わかってもらえるかもしれません。それに……カズヤさんの方が、僕と戦いたかったんじゃないですか?」
「っ! お、お前、なんで……!」
「どうしますか?」
もう一歩踏み出す。
カズヤさんが後ずさる。
そこで、僕の服の裾を掴む力が強くなった。
振り返れば、ひかりが泣きながら僕を見つめている。
「ユウキ、くん……。ひょっとして……あのとき、話を……」
僕は笑った。
「大丈夫だよひかり」
「で、でも……ユウキくんっ、帰ってきたばっかりで、無茶ですっ! あんなにボロボロになって頑張ってくれたのに、そんなっ……!」
ひかりの手を握る。
ひかりは真っ直ぐに僕の目を見てくれた。
「負けるつもりはないんだ。これからも、ずっとひかりの相方でいたいし」
「ユウキ、くん……」
そして、再びカズヤさんの方を見る。
「どうしますか? 僕はいつでもいいですよ」
僕は、なぜだかとても爽やかな気持ちでそう尋ねていた。
――この人には負けない。
不思議な自信があった。
たとえこの指輪が……LUKの力がなくったって同じことをしたはずだと、強く思える。
ひかりの相方は、僕だから。
譲るつもりは一切ない。
するとカズヤさんは――
「……く、くそっ! やらねーよんなことッ! ああもう知るかよ勝手にしろッ!」
そのままメインの通りを走り去っていき、残りの二人もカズヤさんを追って駆けだしていく。
「…………はぁ~~~~っ」
思わず息を吐いてへたり込む僕。ひかりが慌てて背中を支えてくれた。
内心、本当に戦うことになったらどうしようってびくびくしたよ!
「あはは。ごめん、ひかり。なんか心配掛けちゃって……」
そう言えば、隣のひかりはふるふると首を横に振る。そして涙を拭って笑うと、そのまま僕に抱きついてきた。
「ひ、ひかり?」
「よかった……よかったです……」
途端に、周囲からばらばらと激しい拍手の音が鳴り響く。見れば、レイジさんたちも一緒になって拍手をしてくれていた。
「え、え、え?」
慌てる僕に、メイさんがぶるぶるとオーバーリアクション気味に身を震わせながら言った。
「んもーっ! ユウキくんてばいつの間にそんなに格好良い男の子に成長しちゃったのっ! メイさん感動しちゃったよ! 愛の力だね、ラブパワー! うんうん!」
「ちょっと恥ずかしかったけどな。でもま、ああいうバカが惨めに逃げ帰っていくのを見届けるのはスカッとして気持ちがいいもんだな。カレシとしては合格じゃない?」
「素晴らしい男気だったよユウキくん! 僕も感動した!」
「ふん、仮にもレイジに勝った男があんな軟弱者に負けるわけがない」
「うふふ。とっても格好良かったわよ~ユウキちゃん♪ あ、これ本当に提出しておきましょうね~」
「……相方というのは、なかなか良いものですね」
ナナミ、レイジさん、ビードルさん、楓さん、るぅ子さんたちも声をかけてくれて、僕は照れ笑いしているしかなかった。な、なんだか少しだけ株が上がったような感じがする。
ひかりが顔を上げて言った。
「えへへ……ユウキくんは、わたしの自慢の相方さんです!」
ひかりがそう言って笑ってくれるなら……うん、それで全部オールオッケーだ。
それから僕は言った。
「あの、レイジさん」
「うん? なんだい?」
「少し話したいことがあるんですけど……いいですか?」
「え? 僕にかい?」
「はい。それに、生徒会の皆さんにも……」
レイジさんだけでなく、ビードルさん、楓さん、るぅ子さんも何事かとキョトン顔を浮かべていた。
でもひかりやメイさん、ナナミは僕が何を言いたいかもう察しているようで、こくんとうなずいてくれる。
それから僕たちは場所を変え、いつもの【秘密結社☆ラビットシンドローム】ギルドのたまり場にやってきていた。
「ユウキくん。それで、僕たちに話しというのは?」
「はい。えっと……」
みんなが聞く態勢を整えてくれたところで――僕は告げた。
真実を。
僕の指で光る《リンク・リング》とは別のもう一つの指輪の力と、それを得るに至った事情。
この指輪の力で強くなってGVGでレイジさんに勝ち、この指輪のおかげであの《ラトゥーニ廃聖堂》ダンジョンを一番にクリア出来て、生徒会のみんなにも認めてもられたこと。
つまり、すべてはこの指輪のおかげであって。
今までそのことをみんなに黙っていた僕の方こそ、本当の卑怯者なのだということ――。
――そしてすべてを話し終えたとき、僕はじんわりと背中に汗をかいていた。緊張で足が震えている。
けど、気付いたら三人がそばにいてくれた。
「ユウキくん、お疲れ様でした」
「ふふ、がんばったねユウキくん♪」
「バカじゃん。そんなになるくらいならさっさと言やぁよかったんだよ」
ひかりが、メイさんが、ナナミが。
三人が笑顔でそばにいてくれたから、震えていた僕の心は救われたように思う。
だから、ちゃんと前を見られた。
そこにレイジさんや、生徒会のみんなを。
「……というわけでなんです。だから、本当の僕はレイジさんがライバルと言ってくれる男でもないんです。騙そうと思ってたわけじゃないけど……でも、怖くてなかなか言えませんでした。ひかりたちにはもう話すことが出来ていたのに…………すみませんでした」
深々と頭を下げる。
……沈黙。
その恐ろしい静寂に耐える僕の耳に最初に聞こえたのは、レイジさんの声だった。
「……顔を上げてくれないか、ユウキくん」
「は、はい」
殴られる覚悟で歯を食いしばりつつ顔を上げる。
けど、目の前に立っていたのは――
「ぐ、う、ううううう…………っ!」
なぜか、止めどなく涙を流して号泣するレイジさんだった。それには他のみんなもギョッとしてしまっている。
「え、えっ!? レイジさん!? な、なんで泣いてるんですか!? そこまでショックでした!? ああああホントごめんなさい!」
「ああいや、違うんだ! すまない! くっ、情けないぞ僕!」
自分で自分の頭を叩くレイジさん。その光景にさらに仰天する僕たち。
そして落ち着いたらしいレイジさんは深く呼吸をして、真っ直ぐに僕を見据えた。
「君の強さに何か秘密があることは最初からわかっていたよ。それはLUKステの力だけとはとても思えなかったからね。実際、君に憧れてLUK剣士になった者は多くいるけど、いまだに君ほどの力を持つ者はいないのもある。でも、まさかそれがGMに授かった装備の力だとは思わなかったよ……君にそんなことを隠されていたことは、正直なところとてもショックだ」
「……すみません」
また頭を下げて謝罪する。
レイジさんはすぐに続けた。
「それ以上謝らないでくれ。隠しごとを話してくれたことは、正直に言ってとても嬉しいんだ」
「え……?」
頭を上げる。
「よく正直に言ってくれたね! それでこそ僕のライバルだよ!」
「レ、レイジさんっ?」
レイジさんはガシッと僕を抱きしめ、お互いの鎧がガシャガシャとうるさい音を立てる。
それからレイジさんは僕の両肩に手を乗せて続けた。
「事情は把握した。そして君は正直に打ち明けてくれた。なら、もうそれでいいじゃないか!」
「え、え……? レイジさん、が、がっかりしないんですか? だって、僕の力はこの腕輪のLUKの力で」
「がっかり? なぜだい? 確かに隠し事は少しショックではあったけど、それだけさ。君はズルをしたわけでも、その強さを何かに利用したわけでもないじゃないか。思い出してくれ。LROのオープン当初にLUKの価値はどれほどあった? 今でもどれほど上がっている? そんな境遇の中でLUKの有用性を検証し、必死に自分でその強さを身に着けたのは君自身の力のはずさ」
「僕自身の……力……」
「そうだ。でなければ、あのGVGで僕たちに勝つこともなかっただろう。何より、彼女たちのような大切な仲間に出会うことはなかったはずさ」
後ろを向く。
ひかりとメイさんは微笑み、ナナミは照れたようにそっぽを向く。
「贔屓など決して許されないGMにそれを授かったということは、GMが君にその価値を見出したということのはずさ。ならば、その人望もまた君の力なのさ。そして、その力に溺れて自分を忘れなかったこと。僕たちに隠し続けてきたことに覚えていたその罪悪感。それを正直に打ち明ける勇気。それこそが、君の本当の強さに他ならない!」
「レイジさん……」
「むしろ! 生徒会長でありながら君の苦しみに気付かなかった自分が情けない! すまないユウキくん! この通りだ!」
「ええっ! な、なんでレイジさんまで謝るんですか! やめてくださいよ!」
「いいや僕の気が収まらない! すまなかったユウキくん!」
「レ、レイジさんやめてー!」
そのまま膝をついて土下座までしようとしたレイジさんを慌てて止める僕。
そんな光景にみんなが笑いだし、ナナミが「こいつも暑苦しいな」とげんなりしていた。
「ふん。隠し事はよくないがな。だが、オレもまたお前の勇気を買おう」
「ビードルさん……」
「ユウキちゃ~ん♪」
「わっ、か、楓さん」
「うふふ。さすがの私もびっくりしちゃったけれど、でも、だからってユウキちゃんを嫌ったりしないわよ~? だってぇ、ユウキちゃんと~っても良い子なんだもの~♪ そんなの、誰にだってわかることだわ~♪ ね~るぅちゃん?」
「はい。そんな事情があれば、きっと私だって同じようにしていたでしょう。けれど、ユウキさんのようにみんなへ打ち明けられたかどうかは……わかりません。それに、ユウキさんは何も悪いことをしたわけではないですよ。エラーの補填アイテムを借り受けただけです。皆が知れば、それを羨ましがる人は多いでしょうが……ユウキさんのように真面目にいられる人は少ないと、私は思います。だから、尊敬していますよ」
「あら~、あのるぅちゃんが珍しくたくさんおしゃべりしているわ~♪ それほど熱い想いがあったのね~♪」
「や、やめてください楓さんっ」
「楓さん……るぅ子さん……」
レイジさんだけじゃない。
ビードルさんも楓さんもるぅ子さんも、僕を受け入れてくれていた。
「さぁユウキくん胸を張れ! 君は僕に勝ち、あのドラゴンにさえ打ち勝った人物なんだ! そして、これからも僕らの大切な仲間だよ!」
レイジさんが僕の肩を引き寄せて笑う。
見れば、ひかりも、メイさんも、ナナミも、ビードルさんも、楓さんも、るぅ子さんも、みんなが僕を見て笑ってくれていた。
――仲間。
この世界で、いつの間にかすごく大切なものを手に入れていたことに気付いて、僕もまた自然と笑うことが出来ていた。
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