第72話 期間限定学園クエスト開催!
そうして僕とひかりがたまり場にやってきたときには、もうそこにメイさんとナナミ、そして生徒会のレイジさん、ビードルさん、楓さん、るぅ子さんの姿もあった。
「お・そ・い! 何やってんだよもうっ。どんだけwisしたと思ってんだ!」
「ご、ごめん」「ごめんなさいナナミちゃん」
息切れをしながら到着した僕らに、仁王立ちのナナミが真っ先に声を上げた。それをメイさんと楓さんが「まぁまぁ」と二人揃って窘める。
「なんだよもう! お前らはこいつらに甘すぎだ!」
「いやいや考えてもごらんよナナミ。パートナーの二人にとって、放課後の学園なんて青春のサンクチュアリ。少しでも長い間一緒にいて思い出を作っておきたいんだよ♪」
「そうねぇ。生徒会として不純異性交遊は認められないけれど、不純でなければむしろ応援するし、不純でも見つからなければそれでいいのよ~。放課後……校舎裏……二人だけの空間で……恋人同士が甘酸っぱい蜜月を…………うふふふ、いやらしいわねメイさん♥」
「むふふ。いやらしいね~楓さん♥」
「ちょ、僕たち何にもしてないからね!? 二人ともどんな想像してるんだよっ!」
「いろいろだよ~♥」「いろいろよ~♥」
しなをつくって微笑むメイさんと楓さん。ツッコミを入れた僕は疲れて両肩を落とす。
最近生徒会の人たちとも一緒に遊んだりするようになってわかったけど、この楓さんはかなりクセのある人だ。しかもどうやらメイさんと“ノリ”が合うらしく、メイさんと仲良くなってからはいろんな意味でやりづらいペアになってしまった。何かあるたび僕は二人にからかわれて遊ばれるのだ。
そこでひかりがあわあわしながら口を開く。
「あの、わ、わたしがちょっと用事で遅れちゃっただけなのでっ。ごめんなさい! それと不純異性交遊はしてません! はい!」
真面目なひかりが慌てて答え、メイさんと楓さんは一瞬だけキョトンとし、それからケラケラ笑い出す。ひかりはそれに戸惑っていた。これもいつもの光景だ。
「ははは、二人のは冗談だよひかりくん。気にすることはないさ」
「え? そ、そうだったんですか? よかったです……ユウキくんにまで迷惑かけちゃうかもって……」
笑うレイジさんの言葉にホッとするひかり。それにナナミが言った。
「だからさぁ、何に対しても真面目すぎなんだよひかりは。あっちの二人は色ボケなんだからテキトーにあしらっとけばいいんだよ」
「生徒会の書記を色ボケ呼ばわりされるのは心外なのですが……むしろ毎回こちらが謝罪したいくらいです。すみませんひかりさん」
続けてるぅ子さんがため息ながらに謝罪する。ひかりは「いえそんな!」と両手を振って返した。
そして唯一何も言葉を発していないビードルさんは目を閉じて腕を組み、どっしりとした態度で静観されておりました。
レイジさんが手を叩いて言う。
「――さて、それじゃあこうしてメンバーも揃ったところだし、そろそろ出発しようか? みんな、準備はいいかな?」
その言葉に、僕たち一同はそれぞれうなずいて返答する。
レイジさんもうなずき、そして僕たちを一人一人見つめながら話した。
「もうすぐ学園も夏休みだからね。それに向けていよいよ待望の大型イベント――『時を超えし竜』という学園クエストが実装された。学生としてはもちろん宿題も大事だけれど、このイベントは今のうちから手をつけておかないとクリアすら難しいと言われているほどの難易度だ。念には念を入れた準備で早めに臨むべきだろう」
そう、レイジさんの言う通り、今日から大型のイベントが開催されているんだ。
期間限定学園クエスト――その名も『時を超えし竜』。
とあるダンジョンの最奥で封印されていた太古の竜が目覚めたことにより、その力の影響によって、いずれ世界を巻き込んだ強制タイムリープ現象が起き、この世界はめちゃくちゃになってしまうというのだ。
そのタイムリミットが、夏休みの終わる8月31日。
それまでに竜を倒してダンジョンをクリアし、世界を救う――というのがイベントの概要である。
LROのクエストは割とストーリーがしっかりめに作られているものもあって、世界観の謎を解くのもまた楽しいし、おかげでLROへの没入感が増していくんだよね。
そして僕たち【秘密結社☆ラビットシンドローム】ギルドと【生徒会ギルド】は、あのGVGイベント以来ギルドぐるみで付き合うようになっていて、今回のイベントにも合同で参加してみよう、という話になっていた。
ただし、先生たちから『ハマリすぎて勉学をおそろかにしないように』との通達が出るほどの高難易度らしく、LROの現状を把握している運営側から見ても、クリアにはかなりの時間が必要というほどのものらしい。
でも僕は――いや、僕たちはそんな話を聞けば聞くほどワクワクしてくる。
まだ誰も踏破していないダンジョン。
事前情報も何もない冒険。
潜む強敵。
未知のアイテム。
何より初日の入学式で見て以来、まだ一度もこのLROで出会ったことのなかった竜――《ドラゴン》のモンスターと出会える可能性。想像するだけでワクワクした。
僕は常々思っている。
MMORPGにおいて一番面白い瞬間というのは、装備を揃えて俺TUEEEすることでも、レアアイテムをドロップすることでもなく、無知な状態で好き勝手に動き回ることだって!
「ははっ。ユウキくん、実に良い目をしているね。興奮を抑えきれない冒険者の目だよ!」
「え? そ、そうですか?」
レイジさんが僕の肩に手を置く。そう言うレイジさんもまた、小さな子どもみたいに目をキラキラとさせていた。
「ああ、僕も同じさ。早く行ってみたくて仕方ない。よし、もう我慢の限界だ! みんなで飛び込もうじゃないか! 何が待ち受けるかも知れない、未知のダンジョンへと!」
輝いた目でその手を掲げるレイジさん。僕とひかりとメイさんと楓さんが「おー!」と手を挙げ、ナナミさんが「へーへー」と弱々しく応え、るぅ子さんが「頑張りましょう」と素直に手を挙げ、ビードルさんが「ふんっ」と鼻息で返事をする。
――さぁ、夏の冒険の始まりだ!
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