3rd link~GVGイベント編~
第44話 作戦会議に差し入れ弁当
あの日――ひかりとメイさんとナナミさんにすべてを打ち明けたときから、僕の中でのLROが明確に変わったように思う。
そんな以前よりもどこか眩しく見えるようになったこの世界で、僕たちはよりいっそうLROでの生活に励んだ。
勉強はそこそこに、学園クエストやG狩りでレベルを上げ、各種ステータスを見直し、新しいスキルを取得して、お金を稼いで装備を整える。PVPフィールドで対人戦の経験を積み、プレイヤースキルを磨いては、いつもギルドメンバーで一緒にごはんを食べたりして、一緒にいる時間を増やすことでチームワークも養った。
そして今日も僕たちは、すっかり暗くなったギルドのたまり場で、街灯に照らされながら遅くまで語り合っている。
「う~ん、ユウキくんはやはり、付け焼き刃で何か新しい武器を得るよりは、長所であるLUKの恩恵を最大限活かす戦いをしたほうがいいだろうね。瞬間火力を上げて一気に殲滅を……ってタイプが一番強いはずだよ。呪文への耐性は装備で整えた方がいいかなぁ」
「うん、僕もそう思う。となると装備はちょっと考え直そうかな……。で、メイさんもやっぱり火力特化でいくの?」
「そうだね~。メイジのスキルツリーは属性ごとに分かれているから、せいぜい二、三種類の呪文を取り尽くすのが精一杯なんだ。特化型なら一種類に抑えて、あとはサポートスキルにってことも出来るけど、高い爆発力とは裏腹に応用力はないからね。メイさんは水と風と、あとは派生の光ともう三種類とってしまっているから、あとはダメージソースの高い光と風を伸ばすつもりだよ」
「なるほど……属性攻撃が多いとその分臨機応変にやりやすいしね。取得属性が一つだけだと、その属性対策をされたらキツイもんね」
「そうなんだよね。だから無属性物理も重要だし、ダメージソースはメイさんとユウキくんで取りに行こっか。ひかりとナナミは秘密兵器ってことで」
「はは、秘密兵器かぁ」
「ユウキく~ん! メイちゃ~ん!」
そんな風にメイさんと一緒に作戦を練っていると、夜食を買いに行っていたひかりとナナミさんが帰ってくる。
「おかえり二人とも。しかしずいぶん時間がかかっていたね?」
メイさんが尋ねると、ナナミさんがため息ながらに話した。
「それがさぁ……ひかりがどうしても自分で作りたいっていうから、材料だけ揃えて、寮に帰って作ってきたんだよ……」
「えへへ。遅れちゃってごめんなさい。だけど、そのぶんいっぱい作ってきましたよっ。じゃ~ん」
ひかりは持っていたバスケットを僕たちの前に置き、蓋を開く。
するとそこには、色とりどりな具が詰まったたくさんの美麗なサンドイッチが並んでいた。
「「おお~!」」
僕とメイさんの声が揃う。
視界のカーソルでは《手作りサンドイッチ(ひかり)》と表示されている。
《料理》スキルは技関連の“戦闘スキル”とは違う、いわゆる“汎用スキル”というやつで、他にも《音楽》や《裁縫》、《木工》や《釣り》やらと数多くの種類があり、基本的には戦闘を有利にするよりは日常生活を豊かに出来るスキルであって、どんな職業の生徒でも取ることが可能なのが特徴だろう。
ひかりが用意してくれたサンドイッチは、その中の料理スキルで作れる飲食物の一つで、料理には作った人の名前が刻まれるんだよね。
そういえば、LROにも料理スキルに特化してプレイしている“料理人”なんて人たちもいるって話を聞いたことがあるなぁ。
ひかりは少し照れながら笑っていた。
「まだまだインベントリにも残ってるので、いっぱい食べてくださいね。ハムも卵もカツも、フルーツサンドもありますよ~」
「きゅーん♥ いいねいいねっ、素晴らしい女子力を感じるよ~! メイさんこういうの大好きっ! ねぇねぇひかりおすすめはなにかなっ?」
「えへへ、それならよかったです。あ、おすすめはこっちのフルーツサンドなんですけど……実は、サンドイッチ作りはナナミちゃんがお手伝いしてくれたんですよ♪」
「えーナナミもっ? どうしちゃったのナナミ! ひかりの女子力に導かれてナナミも目覚めちゃったの!? 恋する乙女になっちゃうの!?」
「ならねぇよバカ! つーか手伝いって言っても、あたしは料理スキルだって取ってないから大したことしてないっての。ただ材料を用意したり、ちょっと切ったりしただけだよ」
またわかりやすくそっぽを向くナナミさんの反応に、場の空気は実に和む。
それからメイさんはひかりおすすめのフルーツサンドに手を伸ばし、
「そっかそっか。それじゃあスクショも撮ったところで……みんなも一緒に食べようよ! はい、いくよ~? いただきまぁす!」
僕たちもそれぞれにサンドイッチを手に取り、いただきますの号令を揃えてから頬張る。
「ユ、ユウキくん。どうですか?」
「んぐんぐんぐ………………うん、美味しいよ! うわ~、なんかサンドイッチってすごい久しぶりに食べた気がするよ。こんなに美味しいものだったっけ」
「本当ですか? えへへ、嬉しくなっちゃいます。ナナミちゃん、よかったですねっ」
「あたしは別に嬉しくはないし……んん、このカツサンド美味いな。さすがひかり。やるじゃん。待った甲斐があったわ」
「あ、ありがとうございます……ナナミちゃんにまで褒めてもらえました!」
「うわっ! ちょっと褒めただけでくっついてくるなって! そういうのはカレシにやれ!」
ひかりとナナミさんの仲良しぶりに微笑ましくなる僕。そして手元のサンドイッチに目を落とした。
「にしても本当に美味しいなぁ。これが料理スキルってささっと出来たものだとは思えないよ」
つぶやいて二口目をかみしめる。うん、やっぱり美味しい。
料理スキルみたいな汎用スキルに必要なポイントは、通常の戦闘スキルのものよりずっと低いことが多いだけど、それでもやっぱり戦闘重視の人はなかなか汎用に手を回せないことが多い。でも、そんな汎用スキルの中でも料理スキルはおそらく一番人気があって、取っている人も多いみたいってよく聞く。その理由もなんか納得だ。
LROだって味も食感もちゃんと再現されているし、飲み込むと満腹中枢だって刺激される。もはやこんなゲーム内の食事にも慣れてしまい、リアルと何も遜色がない。だからこそ、その日常生活に必要な料理は大切なスキルだ。
メイさんが言った。
「ふふ、そうだねユウキくん。でも、おそらくそれは料理スキルの有用度がとても高いからだよ。仮想世界だろうとお腹は減るし、食べればちゃんと味もしてお腹も膨れるからね。それに何より、LROでは料理スキルを使えば美味しいものが簡単に作れちゃう、というのがポイントでしょ!」
胸を張ってふふーんと自慢げに語るメイさんに、ひかりがくすくす笑いながら応えた。
「そうですね。確かにリアルのお料理とはだいぶ違って、材料や必要なレシピアイテムさえ揃っていれば、あとはスキルを使うだけでパーって出来ちゃいます。でも……あんまり簡単すぎると、なんだかちょっと、物足りなくて。リアルと同じようにも作れるので、わたしはそっちの方が多いんです。このサンドイッチも、スキルは使ってないんですよ」
「「ええっ!」」
「え? ど、どうかしましたか?」
照れ笑いするひかりのナチュラル発言に驚く僕とメイさん。でもナナミさんだけは驚かずにカツサンドをもぐもぐ頬張っていた。
「ま、遅くなった理由はそれなんだけどな。……あーホント美味いわコレ。料理スキルで作ったのとはやっぱ味は違うのかね」
呆然とする僕。
いや、確かにそういう人もいるだろうし、むしろスキルを無視して普通に料理が出来ちゃうのもLROの自由度の高さを象徴してるわけだけども……ま、まさかこんな身近にそうしている子がいるなんて思わなかった! ていうか料理スキル使わずに作った料理でも名前が刻まれるという新発見!
「ユ、ユウキくん。メイさん、すごい人材を引き入れたんじゃないかなっ? やっぱりメイさんすごい人を見る目があるんじゃないかなっ!」
「う、うん。これ、戦闘スキルとかよりよっぽど重要なんじゃないかと」
「まったく同意! ひかり~! よかったらこれからギルドの料理係になってほしいなっ! またひかりの作ったものがたくさん食べたいよっ! あ、メイさんの専属シェフもアリだよ♪」
「え? せ、専属はちょっと困りますけど……わかりました。また、みんなにいろいろ作ってみますね。えへへ、なんだか好評みたいで嬉しいです。ユウキくんも、また食べてもらえますか?」
「うん! も、もちろんっ!」
「よかったぁ。リクエストがあったら言ってくださいね。リアルでよくお母さんと一緒に作っていたので、簡単な家庭料理なら任せてください♪」
――あ、この子嫁にしたい。
ひかりの可愛らしいガッツポーズを見つめつつ、脳裏にそんな言葉がよぎる。そしてひかりと二人、幸せな家庭を築く妄想がスタートし、一人目の子どもが生まれてみんな一緒にカレーを食べている家族団らんの中、ひかりに二人目が出来たという告白をされる光景が…………というところまでいってハッと現実に帰ってくる僕。な、ななな何を妄想してるんだ僕は!!
「ユウキくん? どうかしましたか?」
「あ、いやなんでもないんだ! 二人目とか早いよねごめん! ――って違うんだああああそもそも一人目もいないじゃないかああああなんでもないなんでもない気にしないでお願い!」
「え、え? は、はい…………二人目……?」
キョトン顔でまばたきするひかりと、「バカ」とだけつぶやくジト目のナナミさん。
そして隣を見れば、メイさんが感涙しながらとても幸せそうにもぐもぐしており、「ひかりはメイさんのお嫁さんにするよ~~~~!」などと叫びだしていた。口端にクリームがついたその顔が面白くて、僕もひかりもナナミさんもつい笑ってしまう。
そんなわけで、そのままひかりの手作り夜食タイムとなり、四人であれこれと話ながらサンドイッチを食べる時間は……なんだか本当にこのギルドが家族に変わったような感じがして、それはとても幸せな時間だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます