第43話 明かされる秘密
僕はすべてを話した。
あのとき――初めてのG狩りのときには話せなかった真実。
運営の女の子から預かった特別なこの指輪と、それによってもたらされる強力な恩恵。すなわちLUK999のこと。
そして、その力を使っていたから、“幸運剣士”になんて呼ばれるまで成り上がれたこと。
「……僕は、この力があるから今まで戦ってこられました。けど……一戦目を終えて。相手のギルドの人たちが落胆する様子を見て。僕は、自分が真面目にやってきた人たちの努力を踏みにじったような気がして……。だから……だから、どうしても、戦えなくて……」
ひかりも、メイさんも、ナナミさんも、ちゃんと話を聞いてくれていた。
僕は、この人たちのことも騙していたことになる。
だから、ちゃんと謝らなきゃいけない。
「今まで隠していて……ごめんなさい。すみませんでした!」
深々と頭を下げる。
僕のLUK999の力は、異常だ。チートと呼ばれても仕方ない。
そんなやつが同じギルドにいては迷惑になる。
もう、僕はこのギルドにはいられない。
またソロに戻ろう。それがけじめだと思う。
そしてLROを卒業するその日まで、隠れるように生きていくんだ。
「そういうこと、か……。ああ……メイさんはショックだよ、ユウキくん……」
「…………」
その言葉は胸に深く刺さった。
メイさんを……いや、ひかりを、ナナミさんをがっかりさせてしまった。きっと呆れられてしまっただろう。僕を拾ってくれたメイさんたちに不義理を働いてしまったことが辛くて、胸が痛い。
これ以上、みんなと一緒にはいられない。
だから僕は、その場でワープアイテムを使って逃げ出しそうになって――
「本当にショックだよ。君が、まだそんなことを隠さなきゃいけないくらいに、メイさんたちが信頼されていなかったことが、ね」
「……え?」
顔を上げる。
メイさんは今まで見たこともないくらい、寂しそうに微笑んでいた。
それからメイさんはゆっくりと僕の方に近づいてくると、その場で優しく僕を抱きしめてくれた。
「メ、メイさん?」
動揺する僕の耳元で、メイさんは言った。
「謝るのはこちらだよ。ごめんねユウキくん。メイさんが頼りないギルドマスターだったばかりに、君にそんな重荷を背負わせていたなんて知らなかった」
「メイさん……そんな、違うよ! メイさんのせいじゃない! 僕がずっとみんなを騙していたのが悪いんだっ!」
「
「違う……違うんだよ……メイさん……」
どんどん声が小さくなってしまう。
メイさんは、とても優しい声色で言った。
「よしよし。特別にメイさんの胸を貸してあげる。ひかりほど大きくはないけど、ハリや形には自信があるんだよ。ふふ、男の子はこういうの好きでしょ? だから元気を出して? ね?」
「メ、メイさん……」
「そうだっ。特別にメイさんのウサ耳だってももふもふさせてあげるよ。ほーら気持ち良いでしょ? もふもふ~」
僕の顔を本当に胸元にそっと押しつけ、頭を撫でてくれるメイさん。さらに《ウサ耳のヘアバンド》のもふもふした感触が頬に当てられていた。メイさんもウサ耳もどっちも柔らかくて、心地良くて。なのに、泣きそうになる。
すぐそばで静観していたナナミさんが大きなため息をついて言った。
「あのさぁ。お前、バカなの?」
「……え」
いきなりの罵声。
ナナミさんは頭の後ろで手を組み、眉尻を上げてイライラしたように続けた。
「だって話を聞く限り、そもそも悪いのはカレシにエラーを出した向こうじゃん。で、その指輪は補填としてGMから正式に貰ったものでしょ? それをお前がどう使おうと勝手じゃん。なのになんでそんな罪悪感持っちゃってんの? 堂々とすればいいじゃん。それがあたしたちにバレても、そのせいでGMに何か言われてもさ、元々はあんたらのミスだろって言ってやりゃいいんだよっ。あーほんと馬鹿馬鹿しい。何があたしを守るだ。あんたのせいで一方的にボコられたじゃん。男なら一度言ったことは守れっての」
「ナナミさん……ごめん…………」
「……はぁー。ま、GVGならデスペナもないしいいけどさ。次からはちゃんとしてよ。あんたはあたしの盾でしょ。本番で恥かかせないでよね」
「……え?」
――次?
今、ナナミさんは次って……。
「ふふ。ナナミの言う通りだよ、ユウキくん」
「メ、メイさん……」
まだ僕のことを抱きしめたままのメイさんがそっと僕から離れ、すぐそばで僕の目を見ながら言った。
「確かに君が手に入れた特別な力は強力なものだよ。けれど、それはズルをして得たものでも、贔屓されて得たものでもない。相手を敬うことはとても大事なことだし、君の優しい気持ちはメイさん大好きだよ。でも、だからって君一人がその重荷を背負うことはないんだ。君にはもう、ギルドメンバーという家族がいるんだからね」
「家族……」
「それに、メイさんたちがこの秘密を黙って共有していればGMにもバレないしね? もしバレたとしても、メイさんたちが無理やり聞き出したと話すから安心してよ♪ 君一人が罰せられるようなことには絶対にしないさ」
どうして……どうしてこんなに優しいんだ。この人たちは。
「ユウキくんっ」
そして。
最後に僕の名前を呼んだのは、ひかり。
僕の前に立った彼女は、もうその目から涙を流していた。
「ひ、ひかり……」
「あ、ご、ごめんなさい。泣いちゃって」
ひかりがなぜ泣いているのか。その明確な理由はわからないけど……たぶん、僕のためなんだろうって思った。
「えっと、あの、うう……メイちゃんとナナミちゃんが全部言っちゃいましたけど……で、でもわたしだってユウキくんの相方さんです! 本当なら、ユウキくんの悩み事を一番に気づいてあげなきゃいけなかったのに……情けない相方さんで、ごめんなさい……」
「そんな……ひかりまで何言ってるんだよ。ひかりだって何も悪くないんだ。メイさんも、ナナミさんだって――」
「でも、これからは変わります!」
「――え?」
涙を拭ったひかりはキリッと凜々しい顔をして、両手を握りガッツポーズを取る。
「もっとユウキくんの相方さんにふさわしくなれるように、わたし、もっともっと強くなって頼りがいのある相方さんになります! ユウキくんが一人で悩まなくて済むように。何でも隠さずに話してもらえるように。そんな相方さんになりたいです!」
「ひか、り……」
「今はまだ情けなくて、何も出来ないですけれど……で、でもこれくらいならっ!」
「え――わっ!」
僕はひかりに思いきり抱きしめられてしまった。
ひかりの小さな身体はすごく温かくて、柔らかくて。とても、良い匂いがした。
「えへへ……メイちゃんの真似ですけど……よしよし、です」
優しく頭を撫でてくれる。
ひかりは小柄で、同い年で、なのに、何もかもを包み込んでしまうような、そんな母親のような包容力があった。ひかりに抱きしめられていると、すべて許されたような気になって、安心してしまう。そのせいで、また泣きそうになってしまっていた。
「むう~。やっぱりユウキくんはひかりみたいな大きな胸がお好みなのっ? メイさんちょっと悔しい。でも直の触り心地なら負けない! メイさん脱いだらすごいんだからね!」
「バカじゃないの」
ナナミさんが辛辣にメイさんをツッコむ。そんな二人にひかりが笑った。
僕はさっき、勝手にギルドからいなくなることを決めていたけど、ひかりもメイさんもナナミさんも、みんな僕と縁を切ろうとはしなかった。それどころか、“次”の話をしてくれた。
それは、“これからも一緒にいる”、ということの意思表示なのだと気づく。すべてを話し、そしてすべてを受け入れてくれたことが、僕は嬉しかった。
だから、ついに涙が出てきてしまって、慌てて目元を拭う。
「おやや、男の子の涙というのは初めて見るかも。泣き顔も可愛いね、ユウキくん♥」
「その慰め方なんなんだよ……ちょっと、泣かないでよ男のくせに」
「男の子だって泣きますよ~ナナミちゃん。よしよしです」
「そうだよナナミ。ほら、一緒にユウキくんをよしよししてあげようよ。ナナミだけはしてないじゃないか。おいでおいで?」
「いやだよ! なんであたしまで、ちょ、やだって言って――ああもうわかったわかったからあたしをなでなですんのやめろ!」
そのままひかり、メイさん、ナナミさんの三人に、泣きながら頭を撫でられることになった僕。あまりにも情けないし恥ずかしいしでしばらく顔を上げられなかったけど、でも、ひかりもメイさんも笑っていて、ナナミさんですら苦笑して。
この人たちに、恩を返そう。
この人たちに、報いたい。
この人たちのために、もっと強くなる。
僕はそのとき、ひかりの胸の中でしっかりと自分へ誓った――。
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