第41話 奴隷ハーレムギルドの主、鬼畜野郎ユウキ
生徒会ギルドの登場に、周囲の観客たちまでが軽くざわつく。そりゃあ、あんな強さを見せつけられたらそうもなるかもって思った。
「レイジさんっ。生徒会のみなさんも、お疲れ様です」
「お疲れ様ですっ! とってもすごかったです!」
「あはは、ありがとうユウキくんひかりくん」
僕に続いてひかりも生徒会のみんなをねぎらい、レイジさんが笑う。楓さんは僕たちに笑顔で手を振り、るぅ子さんはペコリと丁寧にお辞儀をしてくれた。
「でも、今回のは全部ビードルのおかげさ。僕や楓くん、るぅ子くんの出番はほとんどなかったからね。優秀な盾を雇えてありがたいよ」
隣の騎士の腕を軽く叩くレイジさん。
スクリーンの映像じゃあまりわからなかったけど、ビードルさんはこうして面と向かって見るとかなり大柄な人だ。レイジさんも背は高い方だけど、レイジさんより一回り体つきががっちりとしている。たぶん、リアルでも何かスポーツをやってた人だろう。そして何より目つきが鋭く、立っているだけで威圧を感じてしまうほどだ。
「レイジ。彼らは?」
「ああすまない。紹介しよう。みんなは僕の知り合いでね、ユウキくんとひかりくん、ナナミくん、ギルドマスターのメイビィくんだ。みんな、彼は僕の幼なじみでね、ビードルと気軽に呼んであげてくれ。堅物そうにみえて、なかなか面白いやつなんだ。リアルではスイーツ作りが得意だったりしてね」
「そこまで話す必要はないだろう!」
「ああごめんごめん。君は第一印象で損をするタイプだからね、つい」
「ふん。しかしレイジが気にかけるほどなら、それなりに出来るギルドで…………な、なんだ、その愉快なギルド名はっ」
ビードルさんが僕たちの方を見てポカンと口を開ける。メイさんが「可愛い名前でしょ?」とウィンクをして、ビードルさんが頭を抱えた。
「いや、まぁ、それはいい。それよりも――」
ちょっと困惑していたビードルさんは、なぜかじっと僕の方を見下ろしてくる。その視線が怖くてつい目をそらしそうになったけど、蛇に睨まれた蛙のように動けなかった。
「ユウキ殿」
「え? は、はい?」
「――ふん。強いな」
ビードルさんはたった一言だけそうつぶやき、レイジさんが表情を明るくする。
「わかるかいビードル! そうなんだよ、ユウキくんは僕も一目置いている人でね。僕たちが苦心したあの廃聖堂クエストを初日トップでクリアした人なのさ。それもそこのひかりくんとたった二人のパーティでね!」
「あの難度をたった二人で初日に、だと? 馬鹿な、ありえん」
「興味が湧くだろ? そういえばユウキくんは、学園では《幸運剣士》なんて呼ばれている有名人みたいだねっ。るぅ子くんに聞いたよ。情報が遅くて申し訳ない」
「え? あ、そ、そうなんですか。いや、僕自身もよく知らなくて。あ、あはは」
どう反応していいものかわからず、苦笑いを浮かべる僕。その間にもビードルさんの視線は突き刺さりっぱなしである。ギャー恐い人に目をつけられてしまった!
しかも生徒会に声をかけられているせいか、周囲の生徒たちもひそひそ話を始めていて、「ホントだ。あの
「ていうかあのギルド名何?」とか噂されてしまっている。ひぃなにこの地獄!
「そうだユウキくんっ。君たちもGVGイベントのための特訓をしにきたんだろう? よかったら僕たちと一戦どうだい? ねっ! いいだろうメイビィくん!」
「ええっ!? せ、生徒会ギルドとですか!? そ、そんな僕なんかじゃ!」
「いきなりの展開にメイさんも驚きですよ~。だけど、最強ギルドと名高い生徒会と戦えるのは良い練習になるかもね。よし、ユウキくんに任せよう!」
「だそうだユウキくん! さぁ控え室へ行こう!」
「ええええメイさんっ!? い、いやいやいきなりそんなこといわれても! 僕なんかじゃレイジさんの相手にはならないですって!」
「そんなことはないさ! さぁさぁ! さぁ!」
最新のおもちゃを買ってもらった子どものように喜ぶレイジさんにさらわれそうになる僕。きゃあああ助けてええええ!
と、そこで僕に手を差し伸べてくれたのは――もとい、僕とレイジさんの手をチョップで切り離してくれたのは、生徒会会計のクールなるぅ子さんだった。
「却下です、会長。仕事が残っていますから戻りますよ。というか、先ほど戦ったばかりではないですか」
「ええ? も、もうかい?」
「仕事の前に一回だけ、という約束です。楓さんも覚えていますよね?」
「そうね~。レイジちゃん、一回だけでも十分じゃないかしら~? もともと、私たち生徒会ギルドはチームワークもいいんだから~。それに、みんながここでGVGを楽しめるようにするのも、私たちの大切な仕事でしょう~?」
「レイジ。生徒会に迷惑をかけるようでは会長失格だぞ」
「くっ……! もうここで彼らに会える保証もないというのに……せっかくのチャンスが……でも、仕方ないか……ぐ、ぐううう……っ!」
膝をつき、がっくりとうなだれて地面を叩くレイジさん。若手実力派俳優みたいな悔しがり方はなんだかとても絵になっていて、マジで残念そうだった。しかし、そんなレイジさんの右手をるぅ子さん、左手を楓さんが平然と引っ張っていく。
「それでは失礼します」
「またねぇ~♪」
「邪魔をしたな」
「くぅ……ユウキくん! 我がライバルよ! いずれまたこの場所で会おう! きっと僕たちの魂がお互いを引き寄せるはずだ! そのときは! 正々堂々と真剣勝負をぉぉぉぉぉ!」
最後までアニメのワンシーンみたいなことを言いながら会長が連れられていく妙な光景に、僕たちだけでなく他の生徒たちもみんなポカーンとしていた。
やがて生徒会がいなくなり……続いて注目されるのは、当然僕たちで。
「……なぁ、あのレイジ会長がライバル扱いするやつって、あいつはどんなトッププレイヤーなんだよ?」
「噂だとめちゃくちゃ強え双刀使いらしいぞ。友達がダンジョンで一度見たって言ってた。パーティでも全滅するところを一人で制覇したんだと」
「そうそう。私聞いたことあるよ。攻撃はクリティカルばっかりで、敵の攻撃はかわしまくるんだって」
「わたしもわたしもっ。ボスとか一人でやっちゃうんだって! かっこいいよね~っ!」
「《幸運剣士》か……フフ、面白い。オレ様も一戦やってみたいぜ……」
「つーかさ、あのギルドって男あいつだけじゃね? なんかハーレムみたいじゃね? しかも美少女ばっかりじゃね? マジでうらやましいんじゃね!?」
「ああ、なんでもその強さで女の子をたちを屈服させて、奴隷ハーレムギルドにしてるらしいぜ……そんで日夜倫理コードから逃れたエロい行為をしてるらしい……やべぇよ……」
「マジか!? 鬼畜野郎じゃねーか! ゆるせねぇ……ぶっ倒してやる!」
「あのクレの子可愛いなぁ……ハァハァ。ボキュもあのギルド入りたい……」
好奇の目、興奮の目、羨望の目。
ともかく色んな注目を集めてしまった僕たち。僕はとにかく居心地が悪くてどうしたものかと当惑しているしかなかった。ひかりも目を点にしている。
ていうか……
「なんか噂話の中にとんでもない単語混じってませんでした!? 奴隷ハーレムギルドって何!? 僕そんなことしてないですからね! 鬼畜野郎じゃないですからね! そんな目で睨みつけないでぇぇぇぇぇ!」
で、そんな中で唯一ノリノリなのがメイさんで――
「はーい! 生徒会から大注目されているこのメイさんの自慢のギルド――じゃなくて、ユウキくんのハーレムギルド、《秘密結社☆ラビットシンドローム》は、現在模擬戦の対戦相手を募集中です! メイさんたちのだーい好きな《幸運剣士》ユウキくんの強さを身をもって体験したい人はどうぞこちらに~! あ、時間もかかるので先着三組くらいでお願いしまーす! 可愛い人は優先しちゃうぞ♥」
「ちょ、メイさんっ!? なぜ誤解を広めるような発言をぉぉぉぉ!」
困惑する僕。
そして当然メイさんがそんなことを言ってしまうものだから、
「――俺がやる! 俺にやらせてくれぇ!」
「――フフ……オレ様を愉しませてくれるのか……?」
「――クソ鬼畜野郎のハーレムから美少女たちを救い出すのはオレだああああああ!」
「――バカヤローオレに決まってんだろ! オレと戦え鬼畜剣士! 逃げたらぬっころす!」
「――か、かかか勝ったらボキュもハーレムギルドに入れてくれる!?」
「――お前らGVGをなんだと思ってんだよ! 真面目に特訓したいやつもいるんだからこっちに譲れ!」
まったく可愛くない血気盛んな方々が我先にとメイさんの元へ集まり、僕たちはすぐに身動きが取れなくなる。僕とひかりは「わー!」と大声を上げてくっつき、メイさんは愉快そうに笑っていて、ナナミさんは無表情でこんなところに露店を準備していた。ちょ、いつの間に!?
「ユ、ユウキくん。なんだか、大変なことになっちゃいましたねっ」
「う、うんっ。ど、どうなっちゃうんだろこれから! ていうか僕なんか本格的に鬼畜野郎認定されてない!? いだだだだ誰か知らないけど髪引っ張らないでぇ! メ、メイさんなんとかしてよー!」
「あはははっ。大盛況だねぇ~♪ はーい並んで並んで~!」
「アホらしすぎるだろ……あ、まいど-」
そんなこんなで、僕たちはそれからメイさんが選別した三組のギルドと模擬戦を行うことになったのだった――。
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