第40話 《生徒会》ギルドの力
《PVP&GVGフィールド コロセウム》
そうして僕たちがやってきたのは、王都の北で悠然と構える巨大な白い円形施設。その外見は、リアルで例えると東京ドームみたいな感じだ。
ここは名前の通りの競技場で、普段はここで一体一のPVPが賑わっているらしい。で、どうやらGVGもここで行うことになるらしかった。
「よし、早速中を見てみようか」
メイさんが先頭になって、僕たちも中へと続く。
僕たちは狩りやクエストメインのプレイをしているため、実はLROではまだ誰も対人戦を経験したことがない。メイさんが僕たちをここへ連れてきたのも、とにかくまずは経験をするため、ということみたいだ。
そして中に入ってみると――
「……わぁ! すごいですユウキくん! 見てください見てくださいっ!」
ひかりが僕の腕を掴んでキラキラと目を輝かせる。
ひかりが指差すコロセウムの中央。
僕たち観客席の方からよく見えるそのだだっ広い中央フィールドには、古い街並みの中を駆け回り、戦いを繰り広げる二つのギルドが存在した。
といっても実際にはそこの中央で戦っているわけではなく、別の専用マップで戦っていて、そこでの映像がこの場所にに映し出されている、という感じらしい。観戦者の人たちを見てみると、観覧席にある小型スクリーンの映像を切り替えて、他の組の戦いをチェックしている人もいた。なるほど。ああいうことも出来るのか。
なんて思いながら会場の大型フィールドに目を戻す。
それにしても……本当にリアルな映像だ。まるでそこに本物の街が存在するように見える。
「あれは《旧市街フィールド》だね。ここは建物が多くて身を潜めやすいし、罠も設置しやすい。《ソードマン》や《メイジ》よりは、《シーフ》や《アーチャー》系の方が本領を発揮出来る場所だろうね。ほら、あちらのギルドは三人も《ハンター》を使っているようだよ」
「なるほど……!」
冷静に状況を分析するメイさんに感嘆する僕。
他にも観客席では多くの生徒たちが戦いを見守っていて、あれこれとメモを取ったりしていた。もしかしたら自分が戦う相手になるかもしれないし、情報を集めておくのは大切なことだろう。戦ってる側にしてみれば、情報をとられるのは困るかもしれないけど、しかし実戦経験は何にも勝る。別のゲームでPVPやGVGをやっていた僕はそう確信していた。それに、ここは戦うフィールドがランダムに決まるみたいだし、そういう意味でもやっぱり実戦経験は必要だ。
「ていうかさ、あれって生徒会じゃん」
「「え?」」
ナナミさんのつぶやきに、僕とひかりは揃って試合中のギルドを確認。
巨大スクリーンに浮かぶ情報には、確かに《生徒会》ギルドvs《風ノキズナ》ギルドとの表示がなされていた。お互いにまだメンバーは全員生存しているけど、レベル差は10ほどあって、生徒会の方が有利みたいだ。
その《生徒会》側の参加メンバーはレイジさん、楓さん、るぅ子さんと、そしてもう一人――巨大な盾を構える《パラディン》の《ビードル》さんという人がメンバーに加わっている。新しい生徒会メンバーかな? 見たことがない人だけど、既に二次職になっている。
すると、スクリーンでその人が一人で特攻する様子をカメラが追っていく。
「え……無茶だ!」
ビードルさんは盾を構えたまま全力疾走し、旧市街の崩れた建物の中へ突入していった。そこは先ほど相手ギルドの《ハンター》三人が周到に罠を設置していた場所であることを観戦中の僕らはよくわかっている。
――飛んで火に入る夏の虫じゃないか! 誘い込まれてる!
ビードルさんがボロボロの扉に突っ込んだ瞬間、僕はそう思っていた。
扉の裏に設置されていた罠――《ブレイク・マイン》が激しい音を立てて爆発。それに連鎖して別の場所の《ブレイク・マイン》も次々に爆発し、凄まじい衝撃音がコロセウム内にも響く。観客の女の子たちが軽く悲鳴を上げていた。
《ブレイク・マイン》は地雷系の小型罠の一つで、床だけでなく扉や壁など幅広い場所に仕掛けられるのが特徴であり、連鎖式でその爆発力やダメージを増加させる小型ながらに強力な罠だ。
相手ギルドの《ハンター》たちもしてやったりとハイタッチをして、隠れていた場所からビードルさんの元へ向かっていった。
しかし――
「……え?」
信じがたい光景に、僕の声がかすかにこぼれる。
煙が晴れ、スクリーンに映ったビードルさんは――なんと多少の煤煙に汚れた程度であり、表示されているHPゲージは二、三割程度しか減っていない!
僕と同じようにスクリーン上の《ハンター》三人が驚愕している中、ビードルさんはそのまま盾を構えて特攻。《ハンター》三人は慌てて弓を構えて応戦しようとするが、既に致命的な隙をさらしてしまっていた。
『――ふん。《アドヴァンス・シールド》!!』
ビードルさんの盾スキル。
盾が目映く発光し、それを構えたままで前方向に突撃。まさに猪突猛進だ。
それは大変強力で、どんな型でも脆い印象の強い《ハンター》三人は一撃でまとめて建物の外まで弾き飛ばされ、さらに落下ダメージを合わせて全員のHPがゼロに。
一方で別のカメラの視点。自分のギルドメンバーたちが一気にやられたことを知った残りの一人――《プリースト》の男子が混乱してどこかへ逃げようとしていたけど、その前に大きなランスを持ったレイジさんが立ちはだかる。
『残りは君一人だよ。どうする? 支援一人でも僕たちと戦うかい?』
ゆっくりと腰を落とし、槍を構えるレイジさん。
するとその《プリースト》の男子はがく、とうなだれて、その場で降参を申し出る。
……かと思いきや!
『――うわああああっ!』
既に用意していたのだろう。杖からメイスへと瞬時に武器を持ち替え、それを振りかぶってレイジさんに襲いかかった。
しかしレイジさんはまったく慌てることもなく腰を落とし、
『――《ランス・ポイント》!!』
先端が輝くランスを相手の胸元に突き差し、一撃ですべてのHPをからめ取る。
《プリースト》の男子は倒れ込み、ギルドメンバー全滅のために勝負は決した――。
「……す、すごい……」
自然に出た言葉だった。
ビードルさんたった一人で、一度に三人もの相手を倒して相手ギルドを崩壊させてしまった。そしてレイジさんが圧倒的な存在感で勝負を決める。
僕と同じように、ひかりもナナミさんも目を点にしていた。メイさんが顎に手を当てながらつぶやく。
「さすが生徒会長さまだね~。《ブレイドマスター》の槍使いは高い攻撃力を持ちながら、HP、防御力ともにタフな上、俊敏さまで兼ね備えてる。おそらくAGIも上げているんだろうね。何よりも、あの《ランス・ポイント》は槍使いの生命線と呼べる強力な単体スキルだ。戦い慣れた戦闘職やVITのある壁でもなければ耐えるのは困難だろうね」
メイさんはどこで情報を仕入れてくるのか、自分の職であるメイジだけでなく、他職のことにも詳しい。僕もそれには脱帽していた。
それからメイさんの視線が移り、
「それにしても、生徒会はずいぶん強力な助っ人を加入させたみたいだね」
それはビードルさんのことを差しているんだろう。僕は尋ねてみた。
「メイさん? あの人のことまで知ってるの?」
「うん。ビードルくんは盾騎士という“壁”で有名でね、装備もステータスもガチガチに防御へ固めていると聞くよ。おそらくVITメインなんだろう。二次職になってさらに硬くなっていることは容易に想像がつくね」
「なるほど……レベルも高いしね」
「うん。でもこういうところで情報を集めるのも良い勉強になるよね」
「だね」
スクリーンの情報では、ビードルさんのレベルは55。今の僕の53よりも高く、そしてレイジさんにも匹敵するほどだ。
「それと、彼はリアルでレイジくんの幼なじみなんだそうだよ。それで、今回のGVGで生徒会のメンバーが足りなかったからね。正式ではなく、臨時で入ってほしいということで、生徒会メンバーとして承認されたらしいよ」
「そうなの? ていうかメイさんどこでそんなリアル情報を!」
「レイジくんから直接教えてもらったよ~。こうみえてメイさん、交渉術にはすこ~し自信があるからね♪」
「すごいですメイちゃん……尊敬します!」
手を組んで目を輝かせる光に、「えへん」と胸を張るメイさん。ナナミさんが「メイが一番上手いのは女の武器の使い方だからな……」と何かを察していた。お、女の武器とはなにぞや、とか思ったんだけど、以前メイさんを甘やかしたり甘やかされたりしたときの記憶を思い出し、僕はなんだか納得してしまった。あのとき、メイさんには逆らえないなって思ったことあったしね……。
「生徒会は確かに強いギルドだけど、メイさんたちもチームワークじゃ負けないはずだよっ。それに、うちにはユウキくんがいるからね! メイさんは怖くありませんよっ!」
「ええ? ちょ、メイさん? あんまり僕を頼りにしすぎないでよっ」
「頼りにしてるよ~♪ ユウキくんは騎士様みたいにメイさんたちを守ってくれるってね♪」
「わ、わたしもユウキくんのこと守りますからっ!」
「あたしはマジで非力だから頼むぞ……」
まだ一戦もしていないのに盛り上がる僕たち。いや、守りたいのはやまやまだけど、あの人たち相当強いしなんか恐くなってきたよ!
そんな風に談笑していたところ、
「――おや? ユウキくんじゃないか!」
「え?」
いきなり後ろから声をかけられ、そちらを見る。
するとそこに――先ほど試合を終えたばかりのレイジさんたち生徒会メンバーが揃っていた!
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