第39話 GVGへの準備
そんなこんなでいつもの緑溢れる“たまり場”へ到着した僕たち。でも、見慣れた木の下にメイさんの姿はない。
そこで僕は、今日の帰りに教室でメイさんに声をかけられたのを思い出す。
「そういえばメイさん、放課後に何か用事があるから先に行っててって言ってたけど、何の用事なんだろ?」
「メイちゃん、生徒会室に行くって言ってましたけど……あっ、メイちゃんちょうど来たみたいですよ!」
ひかりの声でそちらを見れば、中央通りの方からメイさんがマントを揺らしながら小走りにやってきた。
「みんな~。待たせちゃってごめんよ~」
「いや、ちょうど来たばっかりだよメイさん」
「ほんと? あはは、なんだか恋人同士の会話みたいになっちゃったね♪ それよりみんな、テストの方は大丈夫だったかな?」
そんなメイさんの発言に、僕たちはそれぞれにうなずく。
「メイさんのおかげでね。赤点はなさそうだから安心してよ。それより、用事はもういいの?」
「うん、パパっと行って終わったからね。ようやくテストも終わったし、早くみんなと遊びたくて急いだんだよ~♪ ナナミ~♪」
「だーっ! なんでそこであたしにくっついてくんだよ! 暑っ苦しい!」
「う~ん、ナナミの照れ隠しも久しぶりで楽しい♪」
「照れ隠しじゃねーよ! そういうのはひかりにやれ!」
「もちろんひかりにもするよ! ひかり~イチャイチャしよ~♪」
「メ、メイちゃん、苦しいです~」
「はぁ~ひかりのスベスベお肌でメイさん生き返る……ふふ、それじゃあ最後はユウキくんも……」
「え! いや僕はいいですって! そ、それよりメイさん何の用事だったんですかっ?」
ナナミさんとひかりを愛でたメイさんにくっつかれそうになったため、僕は慌てて話を振ってそれから逃れた。
「あはは、そうだったね。そのことなんだけどね――」
と、そこでメイさんがリンク・メニューを開き、インベントリから一枚の紙を取り出した。
「ん? メイ。それ何だよ?」
「うん。実はこれを生徒会に取りに行っていてね」
そしてみんなが見せるように紙を差し出すメイさん。そこへ僕たちの注目が集まる。
「GVGイベントの申込用紙だよ。ほら、前に話しただろう? 今日が配布の日だったんだ」
「ああ、なるほど。そうだったんだ」
うなずいて納得する僕。
そう、以前にメイさんが参加したいと言っていたGVGだけど、先日、学園や運営側からも正式にGVGイベント開始の予告がされていたのだ。
で、参加者希望者は個別に参加申請をしなくちゃいけなかったはずだけど、その申請開始が今日からだったらしい。テストが終わる当日に設定するあたり、やっぱり運営も先生方もわかってるなぁって思った。
「一応、みんなにも再確認をしたくてね。目を通しておいてもらえるかな? あ、参加承認はギルド設立のときと同じで、指輪を当ててくれればいいからね」
メイさんが紙を置き、それを中心に僕たちは円を作ってそれを読む。そこには、GVGに関するルールや申請手続きのことが書いてあった。
《GVG》とは、《ギルドvs.ギルド》の略。《PVP》は《プレイヤーvs.プレイヤー》の略で、プレイヤー同士が一体一で戦う対人戦だけど、GVGはギルド同士が多人数で戦う集団戦のことだ。
用紙によれば、参加の条件は“四人以上のメンバーがいるギルドに加入していること”。ただそれだけで、クラスも性別も関係ない。また、今回のGVGイベントは四体四で行われるとのことだった。つまり僕たちは人数がギリギリで出場ということになる。
そして、GVGは全参加ギルドでランダムにトーナメントを行い、最終的にトップギルドが決まる、と流れらしい。良い成績を残したギルドメンバーには報酬として装備や《リンク・ポイント》が与えられることも書かれている。
そしてなんと、この戦いには生徒会ギルド――つまりレイジさんたちも参加することが決まっているらしいのだ。
「そうそう。このGVGで活躍したり、はたまた優勝なんてしてしまうと、生徒会へスカウトされる可能性もあるらしいよ? メイさんたち有名になっちゃったらどうしよっか!」
「あたしは興味ない。生徒会なんてやってる暇あったら一つでも多く商品売りたいしな。つーか露店でのんびりしてる方が性に合ってる」
「あはは、ナナミらしいね。ユウキくんとひかりはどうだい?」
「あーいや、僕たちは一度断ってるんだ」
「え? そうだったの?」
「はいっ。ユウキくんと一緒に誘ってもらったことがあるんですけど、メイちゃんのギルドに入りたいからって、お断りしちゃったんです」
「メ、メイさんのギルドに入るために? はぁ~……な、なんて可愛い子たちなんだろう! もー愛してるよぅ!」
メイさんが熱っぽい喋り方で僕たちにもぎゅーっと抱きついてくる。
ひかりは嬉しそうにしてたけど、僕はかなり慌ててしまった。そんな僕を見上げてニヤニヤ笑うメイさん。確実にわかっててやってるこの人! つーかさっき話をそらして逃げたのもバレてるな!
「とはいえ、メイさんも早々に断ってしまったからね~。けど、それなら遠慮なく生徒会チームと戦えるというものだね! そして可愛い装備の報酬をゲットしちゃおう!」
「おい、まだ初戦も終わってないのに優勝したつもりかよ。つーか可愛い装備の報酬があるかどうかなんてわかんねーだろ。いやたぶんねーよ」
「わからないじゃないかナナミ! 目標は可愛い方がいいでしょっ!」
「高い方がいい、じゃないのか……」
胸を張るメイさんに、ナナミさんがげんなりとツッコミを入れる。
何はともあれ、以前メイさんから熱烈にお願いされたことで僕たちはみんなGVGに参加することは了承済みだった。
なのでささっと用紙に《リンク・リング》を押し当て、参加承認を済ませた後メイさんに渡しておく。あとはギルドマスターが提出すれば申請は完了らしい。
「ありがとうみんな。後で提出しておくね。で、GVGは来月開催予定だから、それまでに準備をしておこう!」
「そうだね」
「はいっ!」
僕とひかりが一緒に答える。
僕は元々別のMMORPGでも結構対人戦をやっていたから、GVGは楽しみだったりする。LUKチートのことはバレないように手を抜かなきゃいけないだろうけど……でも、どんなタイプのどんな相手と戦えるのかを考えるとワクワクした。モンスター戦では決して味わえない、本物の人間相手の勝負は駆け引きが熱い。
けど、ナナミさんはそうでもないみたいだ。
「はぁ~……あたし、本当はやりたくないんだけどな……」
「みんな一緒に戦えるなんて、きっと楽しいですよナナミちゃんっ」
「お前らはガチの戦闘特化だからそう言えるんだよ……。GVGなんて、あたしは即行でやられておしまいだって……ステだってまだほとんど振ってないしさ……なんでガチ生産がGVGに……」
「そ、そんなことないですよっ。それに、わたしたちでナナミちゃんをしっかり守ります! ねっ、ユウキくん!」
「う、うん。確かにナナミさんみたいなタイプだと対人戦はキツイだろうけど、僕たちでなんとか守りますよ。だから無理にステとかも振らなくていいですからね」
「……バカップル……」
「「えっ?」」
ナナミさんが僕たちにジト目を向けてため息をつく。メイさんは一人でくすくすと笑っていた。
「まぁまぁ、優勝というのはあくまでもただの目標に過ぎないよ。目的じゃない。大切なのは、このギルドのみんなでGVGに参加する、ということさ。だからステータスなんか関係ないんだ。みんなで楽しむことこそが目的だよ」
ニッコリと笑ってそう告げるメイさんに、ナナミさんは「はいはいわかったよ」と、しぶしぶではあるけど、ちゃんと参加する意志を固めてくれた。僕とひかりも笑い合う。
「さて、それじゃあ申し込み用紙も作れたところで、今日はさっそくPVPフィールドにでも行ってみようか?」
「PVPフィールドに? でも、あそこだとみんな一体一になっちゃうんじゃ……」
「ふふん。実はね、今日からGVGの練習用スペースも用意されたみたいなんだよ。四体四で模擬戦が出来るようになったらしいから、一度見に行ってみてはどうかと思ってね。そこでなら同じギルドメンバーは攻撃出来ないから安心だよ」
「ああ、なるほど。そういえばリサ先生もそんなこと言ってたね」
「うんうん。さぁみんな、それじゃあ早速PVPフィールドへ出発だ!」
メイさんが先導し、僕たちがその後に続く。ひかりは元気いっぱいに「おー!」とかけ声をあげていたけど、ナナミさんはやっぱりちょっと憂鬱そうだ。
無理もない。ナナミさんは戦闘タイプじゃないんだし、出来る限り僕が守らないと。ナナミさん一人がつまらない思いをするようなことになっちゃいけない。
昔……別のゲームでもナナミさんみたいな子が半ば無理矢理対人戦に参加させられて、それが原因でその子はゲームをやめてしまったことがある。中には対人戦が苦手だという人もいるし、あんな風には絶対しないようにしなきゃ。
そう思ったら、自然と口が動いていた。
「ナナミさん。僕も回復材多めに持っていくので、好きなだけ僕を盾に使ってくれていいですからね」
「は? な、なんだよいきなり」
「出来る限り僕がナナミさんを守りますから。楽しくやりましょう!」
そう言うと、ナナミさんはしばらくパチパチとまばたきをしながら僕を見上げて。
それからぷいっと慌てるようにそっぽを向き、
「お前さっ、そ、そういうことはさ、ひかりに言ってやれば…………あーもうなんでもない! 行くぞ!」
「え? ナ、ナナミさんっ?」
「おお、ナナミもやる気出たみたいだね! よーしみんなでレッツゴーだよ! あ、その前にちゃんと《
「はーい! みんな一緒ですねっ! 楽しみです!」
「あたしは楽しみじゃねーしやる気もねーっての! もーさっさと終わらせたいんだよ!」
そのままどしどしと歩いて行ってしまうナナミさんをみんなで追いかけて、僕たちは四人揃って対人戦用フィールドへと向かった。
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