第18話 《ラトゥーニ廃聖堂》の解放Ⅱ
《メイジ》と《クレリック》の女の子の声が聞こえる。
大丈夫、戦士タイプは何も怖くない。
MISS!! MISS!! MISS!! MISS!!
通り抜ける間に振り下ろされた剣は四つ。しかし、僕はそれらをすべて絶対回避。
「「「「えっ?」」」」
パーティの四人が同じような声をあげた。
僕は竜人の群れを抜け、背後に控えていた二体のメイジタイプの《竜人》に迫る。
「お前らは……邪魔だッ!」
逃げようとする《竜人》へと一足飛びで距離をつめ、
「《
高速の十二連撃。
オール
まぁ、怖いといってもたかがしれてるレベルではあるけどね。
『グオオオオオオオオオ!!』
メイジタイプの仲間を倒されて怒ったのか、戦士タイプの《竜人》の群れが僕一人を狙って襲いかかってくる。その数は十を超えていた。
だけど物理攻撃なら目をつむっていたって避けられる。そして自分たちの方から集まってきてくれるのは都合が良い。
「――《
双刀を構えたまま全身を高速回転させ、集まってきた《竜人》たちにまとめてクリダメを与える。このスキルは周囲の敵が多ければ多いほど巻き込みダメージを増す特徴があるため、《フォーチュン・ブレッシング》のブースト効果もあってとんでもないダメージで瞬殺出来た。範囲スキルはこういう瞬間がすごく気持ち良いっ!
「ふぅ。双刀にもすっかり慣れたなぁ」
アリアさんから貰った《幸運の双刀》と、それを活かすことの出来る双刀スキル。この組み合わせは単純ながら絶大な威力を誇り、まだ一次職ながらかなりの狩り効率を出すことが出来た。おかげでレベルはもりもり上がり、スキルポイントもだいぶ溜まっている。僕もすっかり双刀ソードマンだ。
「つ、つええ……」
「すげぇ威力……あれ、本当に双刀なのか……?」
「ねぇ……あれって、最近噂の人じゃない……? ほら、確か《
「《幸運剣士》……あの人が……」
僕は双刀をしまってから四人の元へ近づき、その中でぼーっとこちらを見上げていた《クレリック》の女の子に声をかけた。
「あの、《リザレクション》か《蘇生の秘薬》はあります?」
「……え? あ、は、はいっ。リザがあるわ」
「うん、じゃあとりあえずキミだけ起こすね」
僕はインベントリから《蘇生の秘薬》をタップし、手元に現れた瓶の中身を女の子に振りかけた。
中の液体はキラキラと光って女の子を包みこみ、その子はHPとMPが二割だけ残った状態で復活し、すぐに《ヒール》で自分を回復した。もう周りにはモンスターもいないし、他の三人を起こすまで心配もないだろう。
「それじゃあ」
「え、あっ」
女の子が何かを言う前に、僕は素早くその場から離れてダンジョンを進む。
「うーん、ちょ、ちょっと感じ悪くなっちゃったかな……?」
変な印象を与えてないといいけど……と思いながら走る。
別に颯爽と立ち去って格好つけたわけじゃない。あれだけ短い戦闘時間なら、たぶんそんなに怪しまれてはいないだろうけど……長居は無用だ。なるべく戦いを見られたくないから、そのためにも僕は先頭で一番にこのクエストをクリアしたかったのだ。
これ以上幸運剣士と騒がれて、このLUKが力がバレちゃうのは困るしね。
「でも、なんか最近知られてきちゃったかもな……」
さっきのパーティの話を思い出す。
なるべくLUKチートのことがバレないように、学園ではともかく、戦闘は常にソロだし、どこかのギルドにも所属せず、部活もやらずに目立たないよう過ごしていた僕だけど、みんなが集団で挑むボスをたった一人で狩りに行ったり、なにやらクエストでLPを荒稼ぎしているとかいう噂が広まって、ちょっと注目されはじめてしまっていた。さすがに5万人も生徒がいる世界だから、どうしたって避けられない状況だったのかもしれない。
「なんとかしたいけど……今はクエストが先決、かな!」
スピードを上げる僕。
このほの暗い雰囲気のダンジョン――《ラトゥーニ廃聖堂》は、新しく発足した生徒会による学内レクリエーションとして、期間限定で突如として公開された高難易度のダンジョンだ。そのため、僕たち生徒は放課後に即このダンジョンに突撃した。
しかし、謎解き要素といい、迷路のようなダンジョンといい、上級モンスターたちといい、かなり攻略の難しいダンジョンだ。
でも、学園クエストのストーリーとリンクしている部分があったりして、物語を追う楽しさもあるという、攻略し甲斐のあるダンジョンになっていた。
なにせLUKチートがある僕でさえここまで来るのに二時間以上はかかっていて、何度かメイジの呪文を受けてしまったため、回復材も残り少ない。こういうとき、パーティに《マーチャント》の人がいればカートから回復材を貰えるんだけどな。
なんて、ないものねだりをしても仕方ないか。
「聖堂の割に広いダンジョンだけど……たぶん、そろそろ終わりのはず……」
視界上のミニマップを確認すれば、2Fも既に半分以上は回っていた。ダンジョンの配置からして、この北の方に残っている大きな部屋におそらくボスが存在するはずだ。
「《
視界の端に映るスキルの使用制限マーク。クールタイムは残り120秒と表示されている。
この《幸運の双刀》が持つ《フォーチュン・ブレッシング》という固有スキルは強力な自己ブーストスキルだけど、使用後は五分待たないと再使用出来ない上、その五分間はHP、MPが自然回復しないという
「スキル発動中に倒せればいいけどなぁ……」
全てはここのボスの実力次第なんだけど、まだ実装されたばかりのダンジョンだし、ボスと戦ったって人の話も聞いたことがない。僕が最初のプレイヤーになる可能性だってある。そんなの戦ってみないとわかるはずもない。
回復材の量もなんとか持つか……というギリギリのレベルだ。こういうときソロは辛いっす……。
「よし。ブーストも復活したし、行くか」
《フォーチュン・ブレッシング》の使用制限が解除されたところで動き出す。
クリアに向けて廊下を通り抜け、最奥へ続く次なる部屋へ入ったとき。
「――え?」
思わず足が止まる。
そこではなんと――女の子がたった一人で戦士タイプの《竜人》とタイマンしていた!
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