時界とドワーフの研究者

「……い。おい。…ろ。起き…ろ。おい、起きろ少年」

 秋義がゆっくりとまぶたを開くと、そこには愛らしい彼女ではなく、四十を迎えたむさいオッサンが視界いっぱいに広がっていた。

「うわぁ! きったねえ! アズサがオッサンになっちまった」

「お前、マジで失礼なやつだな。きたねえはないだろ」

 少しずつ感覚が覚醒し始めて、やっとこさ目の前にいるオッサンが野沢であることが分かった秋義。

「あ、天狗ガールの相方さんか。びっくりした」

 しかし、未だにトロンとした感覚が体にこびりついている。いつもの体ではないみたいだ。

「って、アズサは! 皆はどこだ!」

 はっとして起き上がった秋義は野沢の手をふりほどき、辺りを見渡した。

 すると皆もすぐ近くで、自分と同じように困惑した表情で立ち尽くしていることが分かった。怪訝そうな顔で立ち尽くすミカンとデストロイヤーに、雪恵と要。腕を組み、一人遠くを見据えている小室。

「秋義!」

 そしてきょろきょろしていたアズサが秋義の姿を認め、駆け寄ってきた。

「大丈夫? どこも怪我してない?」

「全然問題なし。お前は? 大丈夫か?」

 笑みを浮かべ、小さくうなずくアズサ。

「なら良かった」

 と、秋義は違和感を覚えた。そしてすぐさま違和感の正体に気付く。

「温泉はどこいった?」

 見渡す限り、混濁した白と桃色の霧の世界。周囲だけのみならず、上も下も同じだった。

「さてさて。これで皆、目を覚ましたかね」

 やけに粘っこい霞の奥からアマネが姿を現した。……その傍らには白衣を着たやけに背の低いオッサンが並んでいた。秋義は彼の姿に既視感を覚えた。どこかで見たような。

「ドワーフ……?」と、アズサが言葉を漏らした。

 アズサの言葉に皆はっとする。

 そう。その姿は、ファンタジーに必ずといって良いほど登場する一種族。鍛冶と工芸、そしてハンマーと豊かなヒゲをこよなく愛する部族『ドワーフ』そのものであった。

「ようこそ、『時界』へ」

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