棒に当たれば、おでんが食える
「まあ内容はそんな感じ? 分かったならば、わかりましたと手を上げましょー」
「分かる分からねえとかの問題じゃねえぞ!」
青い光を帯びた満月の下。宵闇通りで商いをしているおでんの屋台に彼らはいた。
大根をはふはふとほおばりながら話すアマネと、両手で頭を抱えている野沢。
「なあ……やっぱり俺をハメようってんじゃねえのか? 本当にその話を信じろって?」
「うむ! 私のこの澄んだ瞳をごらんなさい! この純な瞳が嘘をついている人の瞳ですかっ」
これでもかと目をかっひらいているアマネの人相は、人を食わんとするヤマンバと表しても相違ない。
「母は日本人。父はイギリス人。……んで、生まれてすぐに五歳まで天狗に育てられただあ? イカれてるとしか思えねえ。自分のクズさ加減が可愛く見えてきたぜ」
アマネがちっちと指を振る。焼酎の飲みすぎか、鼻が真っ赤だ。
「では、あの非現実的な救出劇も夢だと仰ると?」
急所を突かれたように、ぐぐっと顔を歪める野沢。
「いや……まあ、そうなんだけどよ」
「あの時に情けで差し上げた十万円も、惜しげもなく賭博で溶かすとは。クズの権化ですね」
十万円を横目に見つつ、彼はあの日の事を思い返していた。
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