山道
韮崎旭
山道
怖い怖すぎる、山道にある知らない穴から知らないのだが絶対にどこかで見た人間が佐藤糖化工業、佐藤糖化工業、との幟をあげながら出てきたのだが、これはきっと前日に書店で佐藤祥吾という人間が書籍の背後に書かれていたせいなのだ。どうしてその人間の名を知ったのか全く分からないが、たぶん佐藤までは光の加減で見える位置にあったから、その後1時5分の電車で帰宅したことから考えてもやはり山道にはそば包丁で首を切り落とすのと、どうして佐藤祥吾だとわかったのかとんとわからないがそば包丁でそばを切り落とすことなどがなるほど佐藤照明の甥の祥吾くんですか、へえ、外国語が好きなの、私はちょっと、でもガレットは好きでよく焼いてましたよ、言語は全くなのですが、やはり山道には電車で帰宅したところ甥の佐藤照明が叔父の佐藤祥吾の首をそば包丁で叩き切って立ち落としていたので、「ああこんな場所でほら蛇が出る、血の味は何よりも明瞭な音楽だ、蛇が出る、蛇が出る」とはやし立てたところ、案の定佐藤照明は「いいや私が蛇さ」をアオダイショウやヤマカガシなどを自分ののどから引きずり出してきた「蛇が出る、ほうら蛇が……」蛇はそばに似ているので私は佐藤照明が持ち出したそば包丁で蛇を次々に切り落とすと、皆が親戚一同という感じでどの顔にも全く面識がないのが怪訝なことだがともあれ会しており、じゃあそのお膳のふたをとってね、はい、新年くらいは、と、どうも新年であるらしかった。
そうしてその、白あんだか白みそだか知れないつゆにふっくらと浮かんだ付きのようなタナゴの目を模した塑像を皆ですすっている。
これはと思うが誰も違和感がない、どう見ても、合成樹脂なのに。久しぶりですねと聞くに、やはり全く面識がないのであった、「陽ちゃん今どうしてるかね?なんだか一時は学校にも行かれないようなことをきいていて今一世帯丸々ここにいないけれど、なんだい東京の学校に行ったとか財田橋さんから聞いたがねえ、それで陽ちゃんあれでなかなかおとなしいけどいい子だけえのお、もったいない、なあそうだろ」(知るか)「ああ、あの子ね、今は家で休んでるって聞いたかなあ、山道で、幅寄せしてくるものだから頭にきて通報したんだがね、来た警官が狸だったってのちに知れたんだよ、距離感がおかしい。」「でもこう、どろどろと地響きのようにね、蛇が山を抱いているかなといったところで、それは、違うのさ、オオカミだよ、山の、古い長さ、統べるものの、反響が、まだ冷めないで残っているんだ」
「陽ちゃんねえ、いい子だよ」「いい子、いい子」
そうしてそのどこの誰とも知れぬ親族はふと、一つの滑らかな手毬くらいの、白くすべすべしたなにかになってころころと、縁側から転げ落ちてもうその後のことはわからない。だから彼岸は過ぎたとはいえ用心に越したことはない。
山道 韮崎旭 @nakaimaizumi
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