巨乳のリコッタ ~おっぱいの忌み嫌われた世界にて~
妖狐ねる
第1話「おっぱいの忌み嫌われた世界」
「モスカの大群が出現しました!場所はモンタジオ森林地帯!
訓練所に鐘の音とマスター・マスカルポーネの声が響き渡る。大急ぎで部屋を飛び出した私は、ほかの魔法戦士たちと共に大型馬車に乗り込んでモンタジオへと向かった。
「敵影確認!距離600!マザーモスカ2体、ベビーモスカ40体あまり!」
「各戦士、配置につけ!」
ビット隊長の掛け声で、私たちは戦闘配置につく。
「うおりゃあ!!」
私は自身に肉体強化魔法を施し、襲い来るベビーモスカたちに立ち向かった。拳を振るうたび、左右の胸が大きく揺れる。ベビーはマザーと異なり飛行能力を持たないが、とにかく数が多い。おまけに人間の3、4倍はある図体でグネグネと這い回るので、気を抜くとすぐに囲まれてしまうのだ。
「グラナ・パダーノ、発射準備完了!」
「よし、前衛の者たちはマザーから離れろ!」
私たちが戦っている間に、後衛の
「前衛の退避確認!」
「グラナ・パダーノ、発射!」
その声がこちらに届くか届かないかのタイミングで太い光線が放たれ、一瞬遅れてドン、という凄まじい音が私たちの耳を襲う。光線は私たちの上空を飛んでいたマザー2体を的確に撃ち抜き、付近にいたベビーたちも消し飛ばす。ようやく耳が聞こえるようになった時には、モスカたちは跡形もなく消えていた。
「殲滅確認!各戦士、集合!」
その声を聞いた戦士たちは、一斉に隊長の元へ集まった。全員の無事を確認したのち、解散して馬車に乗り込む。
「リコッタ、今日もよく戦っていたな」
馬車に乗り合わせたビット隊長が、私に声をかけてきた。
「胸が大きいと戦いづらくないか?それに、後衛の補助魔法も受けていなかったようだが……」
「いえ、慣れていますので……」
「そうか……」
そう、私は巨乳だ。お母さんの胸も小さいし、10歳まではみんなと同じ小さな胸だったけど、5年前から急激に大きくなり、今ではほとんど球体みたいな形をしている。前衛として激しく動き回ることの多い陽魔法戦士にとっては、致命的とも言える巨乳。それだけではない。“忌まわしき巨乳”の持ち主である私はみんなから避けられ、後衛の戦士たちの補助魔法や回復魔法もかけてもらえないことが多いのだ。
◇◇◇
「さて、話は聞いていると思うが、今日は君たちに陰魔法の扱いを覚えてもらう」
第1訓練室の正面に立ったビット隊長の言葉で、みんながざわつき始める。
「君たちにとっては慣れないものだが、万が一後衛が全滅した際などには必須となるものだ。真面目に取り組むように!」
──私たちは、生まれながらにして「
でも、それだけではモスカとの戦闘中に片方が甚大な被害を受けた時、戦闘を続行できなくなり、最悪全滅ということも起こりうる。そのため、訓練所では3年目以降自分の本来の性質とは異なる魔法も習得するように訓練するのである。
私たちは陰魔法の手順を聞き、それに従って練習を始めた。ほとんどの戦士たちは今までの人生で陰魔法を使ったことがないので、誰もうまくいかないようだ。
「次、リコッタ。やってみろ」
私は立ち上がり、手順通りに回復の呪文を唱え始めた。陽魔法と違い、陰魔法は呪文詠唱を必要とする。マザーモスカを倒す際などに使用する「グラナ・パダーノ」は絶大な破壊力を持つ陰魔法だが、それだけ長い詠唱が必要となる。そのため、マザーを含む戦闘における陽魔法戦士は陰魔法戦士の護衛やモスカの誘導の役割も担っているのだ。
「──スプレッサ・デッレ・ジュディカリエ」
呪文を唱え終わると同時に、私の手のひらから黄緑色の光が湧き出した。光は泉の水のように流れ、床の上に零れ落ちる。その様子を見た周りの人たちが、口々に驚きの声を上げた。
「すごいな……もしかして、練習したことがあるのか?」
「いえ、初めて使いました……」
「訓練なしでこれほどまでに陰魔法を使いこなせるとは……」
「……やっぱり魔王だ!」
奥に座っていた男子が立ち上がり、私を指差して叫んだ。
「隊長!そいつは魔王の生まれ変わりだ!だから陰魔法も使えるんだ!」
「トーマ、座りなさい!魔法の才能と魔王は関係ない!」
「でも!」
「次、カショッタ!やってみろ!」
隊長の強引な進行によって、トーマは黙り込んだ。……いつものことだ。慣れている。私は“忌まわしき巨乳”の女なのだから……。
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