色の逡巡

第51話

 その後、飲み会という名の合コンは普通に盛り上がった。瑞季は鉄板の話で周りを笑わせ、進藤は特技の一つであるマジックを披露して場を沸かせた。


 一方の僕はというと、みんなの話を聞いてただ笑っていた。それなりに面白い話だったし、マジックも完成度が高くタネが見破れないくらいだったから、笑っていた。


 「じゃあ次は王様ゲームでもしよう!」


 酒が入ることで、徐々にみんなのテンションがおかしくなる。

 瑞季はもちろんバカみたいに高くなっているし、進藤も普段よりは幾分高い。女性陣も笑い方が大胆になっている気がする。

 もちろん、佐屋陽菜乃を除いてだが。


 「いいですねー、やりましょ」


 女子二人が息を揃えて反応する中、陽菜乃はスマホをいじっていた。つまんなそうな顔で。 


 「じゃあクジ作るんで、待っててね」


 僕はクジ作りを瑞季と進藤に任せ、陽菜乃を横目で見つめていた。

 陽菜乃はスマホを触る手を止めることなく、ただ無表情に液晶を見ていた。


 「はい、できたよー。みんな引いてね」


 そう言って、瑞季はクジをみんなの前に差し出した。瑞季の持つクジをみんなが引いていき、最後に残ったクジを陽菜乃に向ける。


 「さ、陽菜乃さん取って」

 「……ごめん、ちょっとお手洗い」

 

 あからさまだった。

 やらないんで勝手にやっててください、そう言わんばかりの雰囲気を醸し出していた。

 そうして無表情なまま、陽菜乃は奥の席か春花と亜美を席から立たせてお手洗いに向かった。それをしけた目で瑞季は見ていた。


 「…ま、俺たちでやりましょう!」


 そうしてしらけた空気に、瑞季は気を取り直した風に、声を高め、ゲームの進行をする。


 「じゃあ、みんな紙を開いて……」

 「あー、ハズれた」

 「私も~」

 「俺もだ」


 僕は遅れて紙を開き中を確認する。

 すると、『ハズレ』という文字が見えた。

 ということは……


 「やった、当たった!」


 声の主は無論、瑞季だった。

 きっと、瑞季は当たりクジに印をつけたのだろう。その証拠に瑞季のクジの紙の端が少し折れ曲がっていた。


 「よし、俺が王様だ。みんな言うこと聞けよ。俺、王様だからな、逆らうなよ」


 いつも思うが王様だから逆らうなとは、なかなか傍若無人だと思う。いつか改心してほしいと思ってしまう。


 「じゃあ、一番と三番、そして二番と四番が隣になるように席をかえろ」


 傍若無人な王様のもと、席移動が始まった。

 もちろん、瑞季と春花が隣同士になり、そして進藤は亜美と隣になった。

 僕の番号は五番、どちらでもないのでしばらく席を立つことにした。

 

 陽菜乃が帰ってこないのも気になっていたためトイレに行くことにする。

 男性用のマークの扉を開けて、用を足す。

 

 数分で用を済まし、手を洗い流して、僕は扉を開ける。すると、隣の女性用からちょうど陽菜乃が出てきた。


 「雅人さん……でしたよね?」

 話しかけられたことを少し意外に思いながら僕は応える。

 「そうですよ、陽菜乃さん」

 当てつけのように僕は陽菜乃の名を呼ぶ。


 すると、陽菜乃はさっきまでの無表情を崩し、にこりと愛想のある笑顔をうかべた。


 「ねえ雅人さん、ここから抜け出しませんか?」


 いたずらを思いついた子供のような笑顔だと、僕は思った。


 「もちろんいいですよ」


 僕は即答した。

 

 「実は僕も最初から思ってました」


 僕が言うと、陽菜乃はさっきよりも笑みを深めて、面白そうに言った。


 「最初から思ってるなら、早く言ってくださいよ。私、吐きそうだったんですから」



ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー

説明書 No.51


一秒も一生も、全て一瞬。

意識が途切れれば、全てが無になる。

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